世界は「 」にあふれている
第二章12
伊織達と別れた美優姫は、とあるビルへとやって来ていた。
理由は言うまでもなく、狙撃ポイントととして、このビルの隣を選んだ為である。
受付にいる女性にAGRの手帳を見せ、中を調べさせるようにと告げる。
当然、受付の女性は何を調べるのか?と質問するも、美優姫はその質問には答えなかった。
「…各部屋の中ではないです。屋上に用があります」
「…私達は、避難した方がいいですか?」
何か事件だろうか?屋上?爆弾か?色々な事が脳裏に浮かび、女性は美優姫に質問する。
美優姫は小さく首を左右に振り、安心させるように女性に語りかける。
「調査に来ただけです。この中には、調査道具が入ってますので、金属探知機はご遠慮願います」
「…そうですか。しかし、金属探知機には通れるのではないですか?」
黒くて細長いバッグ(野球のバットを入れるバッグみたいな物)を肩に背負っていた美優姫は、女性の質問に答えた。
「この中に入っている道具は、とても精密な物です。詳しくは話せませんが、出来たら屋上まで、階段で行きたいのです」
「か、階段ですか!?」
ここは高層ビルである。
階段で屋上まで上がるとなると、何十分、いや、体力などを考えたら、何時間とかかってしまう。
その為、受付の女性は驚きの声をあげてしまったのだった。
「し、失礼致しました。非常階段まで、ご案内致します」
先ほどの話しから、エレベーターを使うのを避けたいのだろうと自己解決させ、女性は席を立った。火災や地震などにより、エレベーターが使えなくなった場合を想定して、高層ビルであろうと階段はある。
金属探知機の外側を通してもらいながら、美優姫は女性に話しかけた。
「この話しは、ここだけの話しでお願いします」
「かしこまりました。あ、あの…」
非常階段の入り口まで案内してくれた女性は、美優姫に向かって、調査の方、頑張って下さいと告げた。その女性に対し美優姫は、大丈夫です。何も見つからないはずですからと、優しく微笑みながら返事を返した。
女性からしてみれば、自分が働いている職場に突然警察関係者がやって来て、屋上を調べるなどと言われたら、心配になるのは当然である。
それを理解した美優姫は、本当の事を告げるか迷ったが、事件に民間人を巻き込むわけにはいかない為、心苦しいと感じながらも、安心して下さいと、返事を返して行く。
美優姫が、本当に用があるのは隣である。
また、この中には銃が入っている為、金属探知機を避けさせてもらったのだった。
その為、非常階段で2階にやって来た美優姫は、すぐさまエレベーターに乗り、屋上の一つ下の階まであがって行く。
「狙撃ポイントは隣…狙われるならこのビル」
伊織達を援護するのであれば、隣のビルが一番いいのだが、全く同じ高さで並ぶこのビルが、自分にとっては邪魔でしかない。
隣のビルで、狙撃に集中している間に、このビルから撃たれる可能性があると考えた為、美優姫はこのビルの屋上にやって来たのであった。
屋上まで続く階段に人がいないかをチェックし、屋上に続くドアに張り紙を貼る美優姫。
作業中につきドアを開けるな、詳しくは受付までと書いた張り紙を見ながら、美優姫は小さく深呼吸をする。
ドアを開け、ドアに細工を始める。
細工といっても大掛かりな作業ではなく、ドアが開いたら分かるようにと、鈴を取り付け、風で音が鳴らないように、鈴をガードする為のプラスチック型の箱を取り付けるだけの、簡単な作業である。
辺りは暗いということはなく、月の光によって少し明るい。しかし、完全に明るいというわけではない為、バッグから暗視ゴーグルを取り出し、隣のビルの、月が照らさない所を入念にチェックする。
「…問題なし。なら」
隣のビルまで約2〜3メートルの距離を、迷う事なく飛び移る美優姫。
「…次はドアを」
飛び移った先の、ビルのドアを見る美優姫。
先ほどとは違った仕掛けをする必要があったのだが、美優姫は固まってしまう。
「こんばんは。お嬢さん」
見つめるドアの上から、美優姫に向かってそんな言葉がかけられた。
注意していたはずだが……視覚をとられたのか?色々な考えが頭をよぎるが、そんな事はどうでもいいと考えなおした。考えるべきポイントはそこではない。
「…どなた…ですか?」
全身は黒いスーツ姿。声質からしておそらく男。
身長は170あるかないか。何より、綺麗な銀髪の髪の色。
色々な情報を、自分の目で確認する美優姫。
月明かりを背にしている所為で、顔はよく見えないが、鼻の辺りまで伸ばしているマスクのせいで、明るかったとしても、わかったかどうか。
「どなた?そうですね…」
男はそう言いながら、腰の辺りをゴソゴソし始める。
「たんなる、コソ泥ですよ」
腰の辺りから拳銃のようなものを取り出し、美優姫へと向ける。
それは丁度、ニック副大統領に、伊織とみなみが会っている時の出来事であった。
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