アイドルとマネージャー
第3章 デート
遥達がカラオケ屋にいる頃、修二はというと、めぐみと街を歩いていた。
「なぁ?何処に行くんだ?」
チラッと隣を見ながら、修二は尋ねる。
「何処って…ねぇ、修二?」
「あん?」
「エスコートって言葉をご存知かしら?」
「エスタークなら知ってるぞ。イッテ!?」
「あら?ごめんなさい。ハエがたかってたから…つい」
「ちょっと待て。それじゃぁ俺の頭が臭いみたいに聞こえるだろが」
「それで?腐った修二君は、何処に連れて行ってくれるのかしら?」
「腐った死体みたいに言うんじゃねぇよ」
とは言ったものの、さて何処に行くべきか。
1年ぶり、いや、2年ぶりぐらいのデートとなると、悩んでしまうのは仕方がないのではないだろうか。
「とりあえず、映画でも観るか」
映画なら2時間は潰せる。
その後、喫茶店にでも入って、あそこが良かったなどと感想を言いあったりなんかして、1時間は潰せるだろう。
これで3時間は時間を潰せる。
その後はまぁ、ショピングとかしてから、夕食でも食べれば満足するだろう。
完璧だ。と、修二は思った。
「映画ね…まぁいいわ」
まぁって何だよ!と、修二は思ったが、口にはしなかった。
ーーーーーーーーーー
映画館についた修二とめぐみ。
「さて、何を観ようかしら」
ふむ。と、右手をアゴにあてながら、めぐみは吟味している。
両手をポケットに突っ込みながら、修二はさーっと、ポスターを見た。
ずらっと並ぶポスター。
邦画、洋画、アニメ。
「決めたわ」
「俺もだ」
せ〜の、という掛け声とともに、一斉に指を向ける。
お互いの指は、全く違う所をさしていた。
「おぃおぃ。冗談キツイぜ」
「は?それはコチラの台詞なのだけれど」
めぐみが選んだのは、邦画。
修二が選んだのは、当然アニメである。
「ちょっと待て。だいたい、翔んで秋葉原って何だよ!」
「バカなの?それを知る為に観るんじゃない」
一理ある。
「く…いや、いや、ていうより、アニメしか俺が観ないの知ってるだろ?」
「逆に聞きたいのだけれど、ダンジョンに出会いを求めるのは間違っている。って言うのであれば、ダンジョンに行かなければいいだけの話しじゃない」
「ば、馬鹿、お前な!あの神アニメを悪く言うんじゃねぇよ!!」
と、映画館の前でモメるのであった。
数分後。
「はぁ、はぁ。わ、分かった。こうなったら別々に観ようぜ」
ラチがあかない。と、修二は思った。
「馬鹿なの?そうしたら、この後の喫茶店で時間を潰す私の計画が狂うじゃない」
私の、と、ワザとらしくアクセントをつけるめぐみ。その言い方だと、無理矢理俺が誘って、仕方なく付き合ってやってるみたいな言い方に聞こえてしまうので、是非やめていただきたい。
「…分かった。なら、映画はやめだ。ショッピングにでも行こうぜ」
喧嘩するぐらいなら映画など観ない方がいい。
修二はそう考え、提案した。
「まぁ、修二にエスコートを任せた訳だから、文句は言えないか」
と、めぐみは納得したようである。
先ほど、観たい映画でモメましたよね?などと思いながら、修二は近くのお店へと歩いて行った。
ーーーーーーーーーー
修二達が来たのは、大きなビルの中にある、電化製品売り場であった。
1階〜8階まであるこの電化製品売り場であれば、映画館並みに時間が潰せるだろう。
勿論、冷やかしに来ているわけではない。
カメラが安ければ買いたいし、テレビなどを奪われてしまっているので、テレビも欲しいと、考えての事である。
「さて、1階は携帯売り場か…パスだな」
「そうね。機種変更するつもりもないし…ところで修二」
「うん?」
「カメラコーナーに行きたいのだけれど」
「あぁ。まぁ、慌てるなよ」
やはりというべきか、めぐみがくいついてきた。
職業病というのか、趣味というのだろうか。めぐみがこの世で最も好きなのはカメラである。
2階にあがり、お目当てのカメラコーナーへと向かう。
カメラコーナーには、色々なカメラの他に、ビデオやレンズ、フィルムなどがずらりと並ぶ。
「一、十、百、千、万、十万、ひゃ、百万円…」
おい、おい。車が買えちゃいますけど。と、修二は驚いていた。
「マヌケなツラして、一体どうしたのよ」
「マヌケって、そんなツラはしていねぇだろ」
ちょっと頬が引き攣っただけである。
「あら。なら生まれつきだって事ね。気づかなくてごめんなさい」
「…謝ってんのか、喧嘩売ってんのかはっきりしろ」
「それで?何に驚いていたのよ?」
「コレだよ、コレ」
と、修二はカメラに指を向けた。
「あぁ、コレね」
「高すぎなんじゃないか?」
「ん?いえ、良いカメラっていうのは、大抵これぐらいするわよ」
「どう違うんだよ?」
「値段、メーカー、名前、重さ」
「でしょうね!」
「冗談よ。分かりやすく説明するなら、画質や使いやすさ、機能が違うのよ。昔の携帯で撮った写真と、今の携帯で撮った写真とでは、綺麗さが違うでしょ?」
「確かに…」
「機能が豊富だから、使いやすさも変わる。例えば、連写機能だったり、ビデオがついていたり、防水機能がついているから水の中で写真が撮れたりね」
「へ〜」
「ここ最近、流行っているのだと、手ブレを自動で修正してくれるのが人気だったかしら」
「ふーん。まぁ、どうせ買うんであれば、高いのを買うべきって事なんだろうな」
めぐみの説明を聞いた修二は、そんな事を呟いていた。
「はぁ。ホント、貴方って馬鹿なのね」
「はぁ?いきなり何だよ」
そんな修二に対し、めぐみはそんなことを呟いた。
「いい?カメラっていうのはいわば自分自身なのよ」
自分自身って笑。と、思う修二。
「自分が気に入った物じゃないとダメって事よ。色々な機能がついていたって、使いこなせないと意味はない。せっかくだからと、高いのを買う人は、高いのを買ったんだから使わなきゃっていう思考にとらわれるでしょうね」
まぁ、一理ある話しだ。と、修二は思った。
「そもそもカメラで写真を撮る理由は何?」
「そりゃあ、思い出を残すってとこだろ」
人にはそれぞれ理由があるだろうが、大抵の人はそういう理由だろう。
「思い出を残すだけであれば、それこそ、インスタントカメラで構わないでしょう」
言われてみれば、確かにその通りである。
「なら、何で高いカメラが売れるんだよ」
「思い出を、綺麗に残しておきたいからよ。どうせ買うならという理由で高いカメラを買う人と、思い出を綺麗に残しておきたいからという理由で買う人と、どう違うか何て、説明しなくても解るわよね?」
なるほど…と、修二は思った。
「まぁ、私の場合は少し違う理由だけどね」
「と言うと?」
「私はプロよ。魅せるのが仕事。スポーツ選手がプレイで魅せるように、私たちカメラマンは写真で魅せる。その為にも、より良い画質で撮れるカメラを求めるのは、当然でしょ」
「確かに…」
「少し熱くなったかしら。修二。私の家に行くわよ」
「え?」
「気が変わったわ。写真の撮り方を教えるから、付いてきて」
カメラマンとしての血が騒いだのか、めぐみはそう告げると、出口へと足を向ける。
修二に異論があるはずもなく、めぐみの後を追うのであった。
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