アイドルとマネージャー
第3章 始動…①
気持ちのいい朝…とまでは言わない。
「ん…。朝…か」
ふぅわぁあ。と、あくびをしながら修二は目覚めた。
結局あの後、遥のドタバタが止む事はなかった。
いや、正確に言えば止んだのだが、一定のリズムを刻む足音になっていたのである。
ドンドン。ピタ。
みたいな感じだ。
おそらくは、ドンドンした後に、しまった!と、反省し、ピタっとやめたのだろう。
その為、注意しようにも注意出来ないでいたのだ。
「耳せんでもするかなぁ…いやいや」
遥がやめればすむ話しであり、耳せんをするということは、何だか負けた気になってしまう。
な?嫌だろ?
ぐっと背伸びをし、修二は顔を洗う為に洗面台へと向かった。
ーーーーーーーーーーー
一階廊下。
「ん?あぁ。おはようレイ」
部屋を出て、右斜め前にある部屋が洗面台である。
というか、お風呂場だ。
部屋を出た修二は、お風呂場の前に立っているレイに声をかけた。
「………おはようございます」
少しの間。
クズを見るような視線。
正直言って、気持ちの良い事ではない。
しかし、女性の寝起きというのは、こういうものなのだと修二は教わっていた。
理由は分からないが、すっぴんだからとか色々あるのではないだろうか?
まぁ、ロボットであるレイに関係あるのかは横に置くとしてだ。
とにかく、男子には分からない事である。
その為、修二は気にしない事にした。
「な、なぁ、レイ?通してくれ…な…いか?」
そこを通してくれと言い終わる前に、レイから睨まれてしまった修二。
まるで、女性の敵を見るような視線。
蛇に睨まれた蛙。とまでは言わないが、まぁ、そんな気分だ。
「……ゆずさまの言う通りだった事に、レイは悲しみと怒りを覚えております」
「ふ〜ん。ゆずがねぇ」
何を言われたのかは分からないが、仲良くなっているようでなによりである。
ひと安心。
「で?何を言われたんだ?」
もしも自分に解決できる事ならば、解決してやろうという優しさである。
優しさである。
大事な事だから、2回も言っちゃった。テヘ♡
「はい。クズが覗きに来るから見張っててほしい。と、レイは聞いています」
「へ?」
「もちろんレイは、無駄骨かと思っていたのですが……残念です」
ふー。やれやれ。と、深いため息を吐くレイ。
「ちょ、ちょっと待て!」
な、何がひと安心だ!
あの野郎!!
「…クズがいったい何でしょうか?」
一体何のようか?
クズが一体。
さて、どちらの意味なのか。
「…何でしょうか?って、起きたら歯を磨く。顔を洗う。その為には、その部屋に用がある。な?分かるだろ?」
分かるよな?間違えてないよね?
「…流石ですね。レイは驚きを隠せません」
「流石って、普通だろ?」
「いぇ。レイの態度と発言。お風呂場の前に立っているこの状況。ゆずさまが現在入浴中だという事が分かりますよね?それでもなお、ここを通せとおっしゃるのは、流石としか言えません」
「いやいや、脱衣所とお風呂場は別だろ?ゆずに声をかけてくれよ!」
クズに変態扱い。
朝から何だよと、修二はムキになっていた。
「…修二さま。脱衣所には下着もあります。どうぞご理解下さい」
そんな修二とは違い、レイは冷静に断った。
レイの言う通り、歯を磨くのも顔を洗うのも、洗面台でなくても大丈夫だし、今でなくてはいけない理由にはならない。
それを受け、修二は素直に謝った。
ーーーーーーーー
リビングにて。
いい匂いがする。
女性の香水とか、シャンプーの匂いとかじゃなく、朝食の匂いだ。
そもそも、女性の香水とかシャンプーなら、匂いじゃなく香りだ。
「あら?起きたの?って、顔ぐらい洗いなさい」
たくさんの猫がプリントされているエプロンを身につけている結衣に、軽く注意される修二。
「ゆずが風呂に入ってんだろ?」
「そうだったわね。とりあえずゆずが出てきたら、朝ご飯にしましょ」
「…………遥?」
「ク、ク、ク。コヤツは夜の王たる我の眷属。朝は苦手なのじゃ」
「…Zzzzz」
こうやって、皆んなでテーブルを囲んでの朝食。
なんだか、家族みたいである。
いや、これこそが、千尋が目指す形なのではないだろうか?
「アキラ」
「修二だって言ってんだろ。で?何だ?」
「今日の我の予定はどうなっている?」
普通なら知るか!と、なるだろう。
しかし、ひかりは芸能人であり、修二はマネージャーだ。
こういうやり取りこそが、彼等にとっては普通なのである。
「ん?引っ越しとかあるからって事で、明日までオフだ。てか、前日に確認しろ」
「いやはや(チラ)忙しすぎてのぉ(チラ)毎日のスケジュール管理など、しきれんのじゃ(チラ)」
なるほど。
先輩アピールってやつか。
「…忙しいったて、レギュラー1本しかねぇじゃねぇか」
レギュラー。準レギュラー。ゲスト。様々な業界用語があるが、いずれ説明します。
「お、愚か者!!!」
バン!と、テーブルを叩くひかり。
「良いか。レギュラーをもらうのがどれだけ大変か、お主なら分かるはずじゃ。たかがとか、ラジオじゃんなどと、言ってはいかんぞ!」
「…いや、そこまでは言ってないから」
今の会話から分かる通り、ひかりはラジオ番組を1本持っている。
移籍した事により、レギュラー0になるかと思われたのだが、ラジオだけは無事であった。
『結城ひかりの書』
これが、ひかりのラジオ番組名である。
番組名から分かると思うが一応説明しておくと、結城ひかりの冠番組である。
ひとりでできるかな?とか、アニゲラとか、オールナイトニッポンとかあるなかで、結城ひかりの書って(笑)
ちなみに余談ではあるが、当初恵理から好きにつけていいと言われたひかりは、『結城ひかりの有り難いお言葉』とか、『愚民供に捧げるレクイエム』とかをつけて、こっぴどく怒られたらしい。
ま、でしょうね。って話しだ。
しかし、ひかりに番組愛があって何よりである。
「いいか?お昼前に俺は、宣材写真の打ち合わせに行く。お前等は、住民票の手続きやらを済ませてから、レッスンスタジオで練習な」
引っ越しした際、住所の変更をしないといけない。
免許、携帯、郵便物、銀行など、一日で終わる?と、心配になるぐらい多い。
しかし、携帯の住所変更などは、ネットでも可能である為、半日もあれば終わる事である。
「…練習って言われても、何を練習するのよ?」
いきなり練習してこいと言われ、困惑する三人。
無理もない話しである。
「何をって、そりゃぁ、アイドルなんだからダンスとか歌とかだろ?」
修二自身、アイドルのマネージャーは初めての事である。
その為、自信無さげの提案をする事になってしまう。
「だ・か・ら!持ち歌も何もないのに、一体何を練習しろって言ってんのよ!」
曲があり、歌詞があり、振り付けがあり、初めて練習というものがスタートする。
練習を重ね、完璧になったらいよいよデビュー。というわけにはいかない。
更にそこから、審査がある。
何の審査かというと、レコード会社の審査である。
勿論、自分達で作る事も可能だが、後々の事を考えると、レコード会社に任せた方がいい。
初心者とプロ。
な?プロの方に任せたいだろ?
「今はとりあえず、身体を動かす事、喉や肺活量を鍛える事、誰かの曲や振り付けを覚えるのでもいいんじゃないか?」
少し考えた修二は、こう提案した。
すると、ムクっと起きた遥が提案する。
「カラオケ!カラオケに行こう!!」
「カ、カラオケって、お前な…」
「歌!歌の練習ですよ!お昼ならフリータイムで安いですし、私たち免許もないんで、朝には終わりますよ」
銀行や郵便局は朝から開いている。
朝から行動を開始すれば、お昼のフリータイムまでには終わる。と、遥は瞬時に計算した。
遥の言い分は、間違えてはいない。
レッスンスタジオはあくまでダンスや芝居などが出来るのだが、歌は難しい。
勿論、歌の練習をする為の道具は揃ってはいる。
が、曲までは流石に用意出来ていない。
しかし、遥が提案すると、遊びに行こうよ!と、聞こえてしまう修二。
まぁ結衣がいるなら大丈夫だろう。と、修二は判断する。
アイドルを目指す彼女たちの初めての練習は、カラオケから始まるのであった。
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