アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第3章 成就荘

 
 車を走らせること数十分後。


「……着いたぞ」


「はにゃ?…ふぁ〜ぁあ。あっ!おはようございます」


 車の中で眠っていた遥を、起こす修二。


「…ん?どうしたんですか?」


 何だか元気が無いように感じられ、遥は心配になった。


「…な、なぁ?住所を調べてくれ?」


「ははぁ〜ん。迷子になっちゃったんですね?仕方がないですね」


 バッグの中から携帯を取り出し、グーグル地図を開く遥。


「あれ?合ってるじゃないですか?」


 地図のアイコンは、ココ!と、示していた。


「…う、嘘だろ。千尋」


 一点を見つめて、固まる修二。


 何事かと、遥は修二の視線をたどる。


「しゅしゅしゅ、修二さん!?」


 修二と遥が見つめる視線の先には、一件の家が建っていた。


 一戸建て。


 つまり、この一戸建ての家に、修二、遥、結衣、ひかり、ゆず、あゆみが、住むという事だ。


「どどど、どういう事ですか!?」


 ガバッと、修二の左腕を掴む遥。


「バ、バカ、やめろ!揺らすな!」


 どうもこうもないだろ?と、思う修二であった。


 ーーーーーーーー


 とりあえず、車を敷地内に停め、二人は車から降りて確認をする事にした。


「修二!」


 車から降りると、結衣から声をかけられる修二。


「姐さん…それにお前等」


 結衣の周りには、ひかりやゆず、あゆみの姿もあった。


「ちょ、ちょっとゴン太!どういう事よ!」


「ク、ク、ク。闇の力を持ってしても、解読不能じゃわい」


「そうですよ修二さん!ま、まさか、皆んなで一つ屋根の下、一緒に暮らすんですか!?」


「お、落ち着け!俺が知るわけねぇだろ!」


「…それもそうね。千尋ちゃ、千尋先輩ったら」


 興奮し、修二に詰め寄るゆず達だったが、修二の言う通り、ここを買ったのも、ここに皆んなで暮らせと命じたのも、全ては社長である千尋だ。


 一度、冷静になりましょう。と、結衣が提案し、全員が賛同しかけたのだが…。


「………ハーレム主人公」


「………!?」


 あゆみの一言で、事態は急変する。


「いいい、いいゴン太!皆んなに変な事をしたら、今度は警察に通報するから、覚えておきなさいよ!!」


「わわわ我は魔力結界を張れる者だが、ねねね寝ておる時は張れぬ故に、アアア、アキラ!きき来てはならぬぞ!?」


「修二…分かってるわよね?」


「だ、だから落ち着けって!あ、あゆみ!変な事を言うんじゃねぇよ…ん?」


「良かったですね。修二さん」


 修二の右肩に、ポンっと右手を置き、キラキラした瞳を向けてくる遥。


 何が?と、修二は聞けなかった。


 もしも聞いた場合、遥の発言の内容によっては、地雷を踏み兼ねない恐れがあったからである。


(と言うより、何でお前だけ違う感想なんだよ)


 ワイワイ騒いでいると…


「お!騒がしいと思って来てみれば、来てたのかね」


 ガチャッと、玄関の扉が開き、家の中から恵理が現れた。


「え、恵理さん!」


「何を騒いでいたのかね?」


「騒ぎたくもなるわよ!何で一軒家に、皆んなで暮らさなきゃいけないのよ!!」


 恵理の質問に答えたのは、ゆずであった。


「…はははは。何か勘違いをしているようだね。どれ。付いてきたまえ」


 恵理にそう言われ、修二達は後に続く。


 ーーーーーーーー


 恵理に付いて行く修二達。


 何処に行くのか?などと言う、質問はおきなかった。


 と言うのも、恵理が向かった場所は、敷地内だったからである。


「見たまえ」


 恵理にそう言われ、見上げる修二達。


「……窓がいっぱい」


「そうだ。本来ここは、学生寮なのだよ」


「学生寮?」


「うむ。この春に無くなる予定だったのを、千尋君が買い取ったのだ」


 つまり、一軒家だと思っていたが、実際は学生寮であり、入り口が一つしかないだけであって、中は個別に部屋があるということだ。


「ちょ、ちょっと待って」


「ん?何かね?」


「寮で個別って事は、相当狭いんじゃ…」


「うむ。一部屋6畳だな」


 学生寮の平均である部屋は、4畳半ぐらいなのだから、それに比べたら広い方だ。


「無理!無理無理無理〜!!そんな部屋に、二人で住む何て無理だから。ね?そう思うわよね?」


 賛同者を求めるゆず。


 しかし、千尋と暮らしていた結衣や、恵理と暮らしていたひかりからすれば、特に問題する理由にはならなかった。


 恵理や千尋の家の間取りは、1LDKタイプの部屋であり、一つの部屋にベッドを二つ並べ、服はその部屋にあるクローゼットか、タンスにしまう。


 普段は、LDKで過ごせば良いだけであり、一つの部屋に二人でも、何の苦にもならなかったのだ。


 ※ちなみに、恵理の部屋は2つのベッドではなく、ダブルベッドが置いてある。


「……分かる。分かるよ。ゆずちゃん」


「は、遥…」


 ゆずに賛同したのは遥だ。


「恵理ちゃん!私は怒ってるよ!!」


 そして、遥にしては珍しく、恵理に噛み付こうと一歩前に出た。


「ん?部屋は個別で、Wi-fi環境まで整っている。秋葉原駅と事務所まで歩いて15分のこの家を、3万で借りられるんだぞ?何が不満なんだ?」


「ダメだよ!ゆずちゃん。わがまま言っちゃ」


「…アンタね」


(個別でネット環境付きだからだろうな)


「………名前」


「確かに。住所とかを書く時に重要になるわね」


 あゆみの疑問に、結衣が乗っかる。


「ク、ク、ク。我が素晴らしい名前をつけてやるとしよう」


「……あまり期待していないが、言ってみろ」


「秋葉原にあるのだぞ?アキバ荘で決まりじゃ」


「ありきたりだな」


「な、何をーー!!」


「そうよひかり。千尋ちゃんが買ってきたって事は、もう名前がついているハズ」


「………サクラ荘」


 サクラプロダクションだから、サクラ荘では?と、あゆみは考えた。


「待て待て。そんな素晴らしい名前な訳がないだろ。猫も居なければ、アニメを作る天才や、絵を描くのが上手な女の子なども居ない」


 ついでに言うと、あの学生寮は最高だぜ!


「ふふふ。この家の名前は、成就荘という」


『じょ、じょうじゅそう?』


「…何か、噛んだみたいな名前ね」


「バカにしてはいかんぞ。君達の夢が成就しますようにと、千尋君が考えてつけたのだからな」


「ち、千尋先輩♡」


「とりあえず、話しは後にして、家の中に入ろうではないか」


 一同は、家の中へと戻って行く。


 ーーーーーーーー


 1階玄関。


 ドアを開け、玄関にやって来た俺たち。


 辺りを見渡して見ると、あぁ学生寮ね。と、思ってしまうほどの作りであった。


 例えば、靴棚の上にあるボード。


 ボードには釘が刺さってあり、ここに名前の書かれたプレートを、ぶら下げていた痕跡がある。


「さて、君達の部屋だが、修二君は1階。ひかり達は全員2階だ。風呂は下。食事も、下で取りたまえ」


 テキパキと指示を出す恵理。


「とりあえず、1階から見ていこうか」


 靴を脱ぎ、部屋を見て回る事にした。


 ーーーーーーーー


 修二の部屋。


 玄関をあがり、右に曲がって直ぐ右にある部屋だ。元々は、寮母さんが使っていた部屋らしい。


「ここが、修二君の部屋だ。ここは8畳だったかな」


「ず、ずるい!?」


「…思っていたより、広く感じますね」


 8畳の和室。


 大きな窓があって、押入れがついているシンプルな部屋だ。


「置く物によっては、直ぐに狭く感じてしまうさ」


 とりあえず修二は、自分の荷物を置いておく事にした。


 ーーーーーーーー


 1階廊下。


 玄関を右に曲がり、直ぐ左に階段がある。
 階段を無視し、少し進んだ所で、恵理から説明があった。


「さて、右が修二君の部屋。左の部屋が風呂だ。そして奥に行き、リビングがある」


「はい!」


「ん?どうした遥君」


「トイレは?」


「あぁ。すまんすまん。玄関の正面と、2階にあるから、合計2つだ。リビングに入る前に、先に2階に行こうか」


 ーーーーーーーー


 2階廊下。


 階段をあがると、7個の扉があった。


「一つは、トイレ。残りは部屋だ」


「……え?コレ、本当に6畳あるんですか?」


 だとすれば、割といい物件なのではないだろか?


「ク、ク、ク。我は角部屋を…!?」


「………譲れない」


「ほぉ。我とやろうと?」


「ちょっと待ちなさい。私が角部屋よ。」


「わ、私も!」


「私だって」


 角部屋。


 真ん中の部屋とは違い、窓が二つあったり、陽当たりも違ったりと、何かと便利な部屋なのだ。


「こうなったら、アレしか無いわね」


「……望むところ」


「1回勝負よ。いい?」


「ク、ク、ク。勝負とはまた、久しぶりに聞いたぞ」


「恨みっこ無しだから」


 こうして…角部屋争奪戦が、始まるのであった。

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