アイドルとマネージャー
第3章 面談…ひかり編
目元をゴシゴシっと拭いたゆずは、やってみるとだけ告げて、部屋を後にした。
「恵理さん。俺は…」
あゆみの時といい、ゆずの時といい、自分の考え方に、無力さに、修二は落胆していた。
そして、言葉にはしないが、結衣も同じ気持ちであった。
リーダーと任命されたが、特に何もしていない。
そんな自分に腹が立つ。
「ん?どうやら、何か勘違いをしているようだね」
二人が何を考え、何を言おうとしているのかを、恵理は正確に理解する。
「修二君や結衣君は、会社の方針を聞いて、自分達に何が出来るのか、何が足りないのかを考えてほしいという思いから、ここにいてもらっているのだよ。勿論、君たちにも意見を求めているがね」
だとしたら、何の役にも立っていないではないか?と、二人は思った。
「この面談の目的はあくまでも、彼女達に納得をしてほしいと考えてのモノだよ。修二君の考え方は待ちがっちゃいない。それに…ここから先が、君たちの出番さ」
修二の考え方を、恵理や結衣は否定しない。
やる気がないヤツは続かない。
何も、この業界に限った話しではない。
だからこそ面談という形をとり、彼女達を納得させ、やる気を持ってもらう。それこそが、この面談の目的である。
「まずは、彼女達にきちんとアイドル活動を納得してもらい、きちんと活動をしてほしいと考えている。だからこそ、千尋君は借金をし、住む場所を確保した。働く環境は我々が用意したのだから…後は、解るね?」
「…俺は、働く場所をって事ですね?」
働く環境を千尋や恵理が用意し、働く場所をマネージャーである修二が用意する。
「その通り。そして、結衣君にはそれを支える場所であってほしいと、私や千尋君は願っている」
リーダーとして、他のメンバーを支えてあげられるだけの人(場所)という意味だと解釈する結衣。
「が、頑張ります」
「ふふふ。君たちなら頑張らなくても出来るさ」
にっこりと二人に微笑みかける恵理…その時であった。
「たのもーー!!」
バーンっと社長室の扉が開き、ゴスロリ服を着た少女が、元気良く部屋に入ってくる。
その社長室に元気良く入ってきた少女は、部屋の中央にあるパイプ椅子に右足を乗せ、左手を修二の方に真っ直ぐ伸ばし、右手で右眼を隠しながら宣言する。
「ク、ク、ク。我にクエストの依頼とは…な。良かろう!我はライトニング!!さぁ!愚かな愚民共よ!要件を言うが良いわぁ……って、だ、騙したな」
不敵に笑う少女は、目の前に座る修二の隣に座る人物に気付き、ササササッとパイプ椅子から足を退けた…が、時すでに遅く、メテオインパクトを喰らう事となった。
ーーーーーー
ぐす、ぐすっと、部屋の中央に座る人物。
「ほら、ひかり。自己紹介をして頂戴」
「我は…ライトニング…ひぃ!?ゆ、結城ひかりじゃ!12月で22じゃわい」
ギロッと睨まれたライトニング、いや、結城ひかりは、軽い自己紹介をした。
「え、恵理さん。とりあえず落ちついて下さい」
ひかりのフォローに入る結衣。
「とりあえずひかり。普段は何をやってるとか聞かせてくれよ」
恵理さんが落ち着くまでの時間稼ぎにと、修二が動いた。修二の質問に対し、ひかりは待ってました!と言わんばかりに、目を輝かせる。
「そうかそうか。アキラは我に興味深々と言ったようじゃの」
両腕を組みながら、ひかりはうんうん。と、いった感じで首を縦に振る。
「ま、まぁな。教えてくれ。後、修二な」
「……!?お、おい。何故、我を睨むのじゃ」
「に、睨んで何かないわよ!!」
「イ、イッテ!?た、叩かないで下さいよ!?」
何故か結衣から叩かれる修二。
(俺…叩かれてばっかりじゃね?)
この面談が始まってから、何回叩かれただろうか?いや、今は面談中だ。
そう思った修二は頭を軽く横に振り、面談に集中する。
「我は普段、冒険をしておる」
「冒険?」
普段なにをしているのか?という質問に、冒険をしています!と返すひかりに、結衣が首を傾げた。
「ク、ク、ク。左様。冒険は良いぞ」
「……どのへんがいいの?」
「………ま、まぁ、す、全てじゃないかのぉ」
結衣からの質問に、目を泳がせるひかり。
「ふーん。他には?」
「うむ。クエストをしておる」
「クエスト?」
結衣からの質問に答えるひかり。
そんなひかりの答えに、再び首を傾げる結衣。
「ク、ク、ク。左様。クエストは良いぞ」
「……どのへんがいいの?」
「………ま、まぁ、す、全てじゃないかのぉ」
「…待てまて。デジャヴじゃねぇか」
再び目を泳がせるひかりに対し、今度は修二がツッコんだ。
「えーい。やかましいわ!さっさと我を招集した要件を言わんか!」
普段は何をしているのかと聞かれ、答えたら理解をしてもらえなかったひかり。少しオコである。
「ふむ。ひかりはアイドル活動をする事に関して、特に異論や質問はあるかね?」
「ク、ク、ク。遂に我のレクイエムを奏でる事が出来るのじゃ。楽しみじゃわい」
恵理からの質問に対し、両腕を組みながら、カッカッカ!と笑うひかり。
そんなひかりを見て、どうやらやる気があるようだ。と、修二と結衣は思った。
「じゃ、無いって事でいいわね?無いなら終わりにするけど」
面談の目的は、彼女達がアイドル活動をする為に必要な、やる気や目的を持たせる事である。
その為、元々やる気があるひかりに対し、恵理は話しを終わらせようと動く。
「……!?う…うむ」
無いなら終わりにすると言われたひかりは、肩がビクっと振るえた。
「ひかり。言いたい事があるなら、言っといた方がいいぞ」
そんなひかりに対し、修二がアドバイスを送る。
「……わ、我は」
うつむきながら、ボソボソっと喋るひかり。
「もしかして、無理してる?」
本当はやりたくないのか?と、結衣が質問をするも、ひかりは首を左右に振った。
では、何か?と、修二や結衣は、ひかりの言葉を待った。
社長室に少しだけの間、沈黙が流れる。
「ひかり」
「……!?な、なんじゃ」
そんな沈黙を断ち切ったのは、やはり…恵理であった。
「私はこれからも一人だ。寂しいから、たまには帰ってきてくれ」
「……!?しょ、しょうがないヤツじゃわい」
決して、顔をあげようとしないひかり。
スッと席を立つ恵理は、ひかりの元に歩み寄って行く。
「あぁ。本当に、しょうがないヤツなのだよ」
「しょうがないヤツじゃ…本当に」
「しょうがないし、身勝手なヤツだろ?」
「そ、そうじゃ!!なん…で」
ひかりの側に行き、スッと腰を下ろした恵理に向かって、ひかりは叫んだ。
「嫌じゃ!!なぜ、なぜ故に、我の付き人を辞めたのじゃ!!なぜ、なぜ、我は離れなければならぬのじゃ!!我が、我が…嫌いになったのか?」
ひかりの悲痛の叫びが、社長室に響き渡る。
グッと、唇を噛み締める恵理。
この世で唯一、自分を傷つける事の出来る少女。
それが、結城ひかりである。
二人を見ていていいのかが分からず、スッと目を逸らそうとした修二だったが、隣に座っている結衣が、ギュッと上着の裾を掴んできた。
結衣もまた、この春から千尋と離れて暮らす事になっている。ひかりの気持ちが、痛いほど解るのだろうな。と、目を逸らす事をヤメ、恵理の背中を見ながら考える。
付き人を辞めたとは、マネージャーを辞めたという意味なのだろうと考える修二。
普通であれば、修二より恵理がいいと言っているひかりに対し、嫌な気持ちを抱いてしまう所なのだが、相手はあの恵理である。
ひかりが恵理の方がいいと思うのは、当然ではないか。そう思うと、納得してしまうのだから、嫌な気持ちになどならなかった。
何故、マネージャーを辞めたのか?という質問の答えを、三人は知っている。
しかし、お前の為だとは、決して口にしてはならない事であると、三人は思っている。
「バカを言うな。お前が嫌いなら、私はお前と一緒に暮らしてなどいない」
「なら、何故じゃ!」
何故、離れなければならないのか。
マネージャーとして、同居人として、恵理が自分の側にいられない理由が、ひかりには分からなかった。
「覚えておくといい。女は身勝手でわがままで、寂しがり屋な生き物なのだよ」
「答えになっておらぬわ!!」
「ふふふ。だからこそ、身勝手だと言う事さ…ただね」
興奮するひかりに対し、恵理はひかりの両肩を掴み、きちんと目を見て告げる。
「私はお前の事が好きだ。いや、愛していると言ってもいい。だからこそ、お前は一度離れる必要があるのだよ」
「……!?」
「ふふふ。良く言うだろ?可愛い子には旅をさせよってね…いいか?決して忘れるな。お前には帰ってこれる場所がある。お前を大切に思う人がいる。辛くなったら逃げるという選択を、決して忘れるなよ」
仮に、仮にの話しだ。
中二病じゃなくなった時。世間から受け入れてくれなくなった時。辛くなって、逃げだしたくなった時。
帰れる場所が、自分にはあるだろうか?
もしかしたら、ひかりはそんな戸惑いを持っているかもしれない。
「好きにやって来い。失敗したら怒ってやる。慰めてやる。だから…」
決して自分を見失うような事がないように。と、恵理はそう締めくくるのであった。
「現代ドラマ」の人気作品
書籍化作品
-
-
314
-
-
52
-
-
353
-
-
221
-
-
337
-
-
35
-
-
24251
-
-
17
-
-
440
コメント