アイドルとマネージャー
第3章 面談…その②
恵理の面談が終わり、再び修二の番となった。
先ほど注意された事を踏まえ、映画鑑賞と言ったところを、ドライブに変更する。
「ふむ。まずは、修二君はこれから、アイドルのマネージャーという事になるが、それについて何か質問はあるかね?」
恵理からそう言われた修二は、千尋の方を向きながら尋ねた。
「アイドルとして…じゃなきゃ駄目だよな?」
バラエティーで活躍するひかり。
ドラマや映画などで活躍するゆず。
エロゲーではあるが、声優として活躍するあゆみ。
これに加え、新人の遥と結衣を担当する。
わざわざ、ひかりやゆず、あゆみを、他のジャンルにする必要性がないのではないか?という疑問を再確認の意味を込めて、千尋に投げかけた。
つい先日、社長室で話した二人。
もしかしたら、千尋の気が変わっているかもしれないという理由と、あの時は二人っきりだったが、今は違うという理由でだ。
「アイドルにと思った理由は、二つあります」
修二からの質問に対し、質問の意味を理解した千尋は、そう答えた。
いつもの調子ではなく、真剣な表情で、声で、千尋は続ける。
「一つは、彼女達の為です。これは、後から面談する時に、シュウ君なら分かると思います」
「……もう一つは?」
「もう一つは、人員不足だからだよ。シュウ君一人で、5人のマネージャーなんて無理だって事ぐらい、私にも分かります」
部屋にいる人の中で、唯一マネージャーの経験がないのは、千尋だけである。
しかし、社長として、修二の幼馴染として、修二がどれだけ大変だったかという事を、神姫雪という一人の少女から学んでいた。
「勿論、アイドルとしてだけではなく、この前も言った通り、ひかりちゃん達に入ってくる仕事は受けて頂戴。その時は私か恵理ちゃんが、サポートに入ります」
「……大変な仕事だぞ?」
アイドルになるという事。それをサポートするという事。どちらも大変な仕事だぞ?と、二つの意味を込めた質問をする修二。
「楽な仕事なんてあるの?」
「……確かにな」
千尋からそう返された修二は、口元を緩めた。ニヤリとかではなく、フッといった感じにだ。
「…修二。具体的にはどうするつもり?」
結衣からの質問に対し、具体的とは?と、返す修二。
「これからどうするのか?って意味よ」
「雪の時と同じように…とは、いかないと思います」
マネージャーとして、どう動くのか?という質問に対し、修二はハッキリとそう告げる。
「雪、以上になりたいんだろ?」
「あ、当たり前よ」
かつて結衣やゆずに言われた言葉。
神姫雪よりも売れる…それなら、神姫雪と同じやり方ではダメではないか。と、修二は考えていた。
「とりあえず、全員の宣材写真を撮ります。それから全員と、個別に面談をします」
とりあえずという言葉を聞いた三人は、今後については考え中なのだろうと思った。
「うむ。以上で終了だ。千尋君と代ってくれたまえ」
こうして、修二の当面の活動は、写真を撮る事、結衣達と個別で面談をする事が決まった。
ーーーーーー
修二と入れ替わり、千尋の番となった。
「はい!サクラプロダクション社長の、九段坂千尋です。歳は5月で23になります。趣味はショッピングかな?」
人差し指をアゴにあて、首を傾ける千尋。
「かな?って、聞かれても…イテッ!?」
結衣から脇腹を突かれてしまう修二。
「さて、千尋君に質問はあるかね?」
チラッと左右を見ながら、修二と結衣に尋ねる恵理。それに答えたのは、結衣であった。
「新しい家って、どんな所?」
「う〜ん。見てのお楽しみって言いたいけど、知らないとマズイよね?」
サプライズ好きの千尋ではあるが、流石に引っ越し先に関しては、サプライズ発表している場合ではないと考えた。
「よね?って、そりゃそうだろ?皆んなそれぞれ、住民票やら免許証の変更とかあるんだからさ」
引っ越しに関して、修二と結衣に異論はない。
二人とも千尋には、大変お世話になっている。
千尋からしたら不本意かもしれないが、千尋からの頼み事は、断らない二人である。
「それもそうね。皆んなの面談が終わったら、一度見に行きましょうか」
「……待て。気になっていたんだが、契約とかはどうするんだ?」
家を借りる場合、契約があるのは言うまでもない。その場合、家賃が口座引き落としなら口座がいる。
保証人がいるなら保証人の準備もある。
車を持っている人は、近くに駐車場を借りる必要もあったりと、とにかく大変なのだ。
「………いらないわよ」
修二からの質問に、千尋は顔を逸らしながら答えた。まるで、今にも口笛を吹きそうな、そんな感じである。
「は?いや、いるだろ?」
いらないはずがない。
コイツは何を言っているのか?と、修二は思った。
「いや、千尋君が言っているのは本当だ。契約がないというより、君達は既に契約を済ませてある」
「ち、千尋!?」
恵理からの言葉に、どういう意味かを即座に理解した結衣が、千尋先輩と呼ぶのを忘れながら、千尋に声をかけた。
「買っちゃった♡」
「な、何が、趣味はショッピングだよ!!」
「……ま、まぁ落ち着きたまえ」
「恵理ちゃん」「恵理さん」
千尋が家を買った。
つまり、千尋が借金をしたという意味である事を、修二と結衣は即座に理解した。
助けてくれ!と、言わんばかりに恵理に詰め寄る二人。
「私だって驚いたさ」
どうやら恵理は、今の話しを知っていたようだ。と、二人は、恵理の言葉と表情からそう判断した。
「一応、会計を任せて貰っている身だ。私が知っていても、不思議ではないだろ?それにだ。今度、君達が住む家の場所は秋葉原にある。つまり、売れる土地だという事だよ」
土地の単価というものがあり、銀座や六本木など、一坪あたりの単価は、数百万以上はくだらないものとなっている。
つまり、ヤバイ!と、なったとしても、秋葉原の土地なら、それなりの価格で売れるという事だ。
「…けど、買うのだって、それなりにするじゃないですか」
恵理が落ち着いているという事もあり、それを見た修二は、少しだけ冷静になった。
「隠しても仕方がない。借金総額は、数千万はくだらないな」
「…数…千万」
「あ、姐さん!?」
放心状態に落ちいる結衣。
敬愛している先輩が、自分の知らないうちに、多額の借金を背負っていたのだ。無理もない話しである。
「そんなわけでシュウ君!がんばろ〜!!」
「どんなわけだ!!!」
そうツッコマずにはいられない、修二であった。
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