アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第2章 顔合わせ

 
 ク、ク、ク。


 待たせたな愚民共よ。


 力が…力がみなぎる…みなぎるぞ。


 何故なら今宵は月が、綺麗に輝いておるからじゃ。


 カー。カー。


 ふ、ふん。


 し、知っておるか?愚民共よ。


 カラスは昔から、不吉の象徴とされておるのじゃ…って、や、やめろぉぉぉおお!!


 バサバサバサ。


 あ、危ない。危ない。


 我のホットドッグ…いや、エクスカリバーが奪われる所じゃったわい。


 全く…不吉じゃ。


 し、しかし、安心せよ!


 我は魔を操りし者…魔の使い魔など追い払ってやったわい!


 ん?操れるのであれば、追い払ったと言うのはおかしいか…ふむ。おほん。我が、え〜と…えっと。


 ブー。ブー。


 おっ?我のイデアにリンクしてきた者がおるようじゃ…どれ。


 ポチ。


「ク、ク、ク。汝、我との証を証明せよ」


「ひかりのパンツは…」


「わわわわわ、私だ。恵理か?何用じゃ?」


「アンタどうせ秋葉でしょ?事務所に来なさい」


「ほぅ…我の力を欲するか?」


「えぇ。10分で来なさい」


「じゅ、10分じゃと!?」


「騎士なら余裕でしょ?いい?事故や怪我をしないよう充分気をつけるのよ」


 プツ。ツーツー。


 ク、ク、ク。


 コレが、人気者の宿命というヤツじゃ。


 いや、さだめと言い直そうぞ。


 運命と書いてな…ク、クク…ん?


「お待たせしました。熱いので気をつけて下さいね」


「は、はい。あ、ありがとう、、ございます」


 フー。


 たこ焼き…じゃなかった。


 6個の玉は我が手中にあり…ク、ク、ク。あと一つで願いが叶うが…し、しかし、探したいが魔王が我を呼んでおる……ク。"人気者は辛いよ"じゃったか?


「……さ、さやか


「むむ。呼んだでござるか?」


「うむ。そ、その…コレをやる」


「有り難く頂戴致す…ん?食べぬでござるか?」


「…魔王からの呼び出しがあり、我はこれから任務に行かねばならない」


「…むむ!?それは仕方がないでござるな…となると、拙者との火影の里巡りは中止でござるか」


「……ご、ごめん」


「あの魔王からの呼び出しとあらば、仕方がないでござる。では、日を改めるとするでござるよ」


「……!?い、行かないのか?」


「ランニングマンが行かぬなら、拙者も遠慮するでござるよ」


「だ、誰がランニングマンじゃ!?」


「また、連絡するでござる」


「う、うん!!またな」


 誰よりも楽しみにしていたクセに、自分に気を遣ってくれる優しい友人に対し、思わず笑みが溢れてしまう。


 顔が赤く染まっていたのは、夕日を浴びていたからなのか、それとも別の何かなのか。


 ともあれ結城ひかりは、事務所へと急ぐのであった。


 ーーーーーー


 ク、ク、ク。


 陽当たりが悪いなどと言われておるが、魔の者としては、コレほどいい条件はないわい。


 太陽は我の敵じゃ。


 うむ。ぱないの!っと、そんな事を言っている場合ではない。


 我が城にして、我がファミリア。


「ク、ク、ク。来てやったぞ愚民共よ!」


 バン!っと勢いよく扉を開けると、我の仲間が出迎えてくれるのじゃ。


「おっ?来たな」


「で?我を呼んだ理由は何じゃ?」


 スタスタと魔王の元に歩いて行く。


「お!おぉお!な、何じゃ?何の儀式じゃ?」


 魔王の元に近づくと、我の仲間の一人が、縄に縛られて倒れていた。


「…その声はひかりか?一応言っとくが、儀式でも何でもない」


「ひかり。先にやることがあるんじゃないかね」


「うむ。ほれ、来てやったのだからお礼の一つでも言わぬ…か…ご、ごめんなさい」


 危ない。危ない。


 魔王のメテオインパクトを喰らう所じゃったわい。


 ※メテオインパクトとは、遥か頭上から降ってくる拳の事であり、喰らった者は脳天が揺れる。


 そして、大きなタンコブが出来てしまうのだ。


「…まったく。挨拶だよ。挨拶」


「は、初めまして。今日からお世話になります。水嶋遥と申します」


 衝撃が走った。


 雪に似た少女が、我に頭を下げてきたのだぞ?驚いてしまっても仕方がないではないか。


 しかし、我はライトニング。


 このファミリアのボスである。


 ボスが手下に対し、怯んだ姿を見せるなどあってはならぬのだ。


「うむ。我はライトニング!永久の時を生きる者なり」


 バッと右手を真っ直ぐ伸ばし、左手で右眼を隠す。


「強大な魔力を前に、言葉もあげられまい」


「……ひ・か・り?」


「ははは、初めましてじゃ!ゆゆ結城ひかりと申す!」


 恐ろしい魔王じゃ。


 この魔王…恐ろしいくせに愚民共からもてはやされているとは…全く。愚民共は何も分かっておらん。


 ま、だから愚民なのだがな!はぁはっは!


「私も一応しとくわ。事務所の秘書の橋本結衣よ。宜しくね」


 気をつけよ愚民共!こんな可愛らしい顔をしておるが、こやつが真の大魔王じゃぞ。


 我が親友ともであるアキラなど、見ての通りじゃ。


「お?なら、私もしておくか。事務所会計の北山恵理だ」


「ほら、ゆず」


「わ、わかってるわよ!天使ゆずよ」


「か…可愛い♡」


 う、うむ。


 こんな可愛い子供がおったとは、ま、まぁ、我の方が可愛いがな。


「で、ここに倒れているのが」


「え?この状態でやるの?おほん。事務所のマネージャー霧島修二だ」


「……変態よ」


「違うわ!?」


「ク、ク、ク。アキラじゃ」


「いえ、ゴン太よ」


「…どっちも違うからな。い、いや、ゆず、そんな目で見ないでくれ」


 流石は親友ともじゃ。


 数々の称号だけではなく、忌み名を手にしておるとは…我も欲しいわい。


「あ、あの?」


「何じゃ?」


「ひ、ひかりちゃんって、呼んでいい?」


「イッテテ。ようやく自由になったか…おい、遥!」


「な、何ですか?今重要なイベ…じゃなかった。会話をしているんだから、邪魔しないで下さいよ」


「……いいか。芸能界は特殊だ。歳が上だとか、下だとか、同じとかに関わらず、芸歴で呼び名が変わってくる」


 そうなのじゃ。


 ちんちくりんの子供にまで、敬語を使わすなど、恐ろしい世界なのじゃ…ま、我は使わぬがな。


「じゃ、じゃぁひかり…さん?でも同じ事務所で仲良くなりたいから…ひ、ひかり先輩!ひかり先輩でどうかな?」


 ………ぃ………ぱぃ………んぱぃ……はっ!?せ、先輩という言葉に、意識が奪われてしもうたわ…な、何という恐ろしい言葉じゃ。


「ひ、ひかりでよいわ!?」


「ほ、ホント?やったぁ!宜しくね♡ひかり」


 くっ。


 スノークイーン(雪女王)に似てはいるが、人懐っこいというか何というか…似ているのは外見だけじゃな。


 ※スノークイーンとは、がCMに選ばれた時につけた忌み名じゃ。


「ホレ、ちっこいの。うぬにも特別に、ひかりと呼ばせてやるぞ」


「だ、駄目だよひかり!」


 な、何じゃ?


 遥のヤツ、急に我の肩をがっしりと掴みおって…し、しかし、文句を言おうにも、何じゃその眼は?やる気に満ち溢れている…そんな眼をしておるわ。


「ひかりは何もわかっていない」


「な、何がじゃ?」


 わかっていない?さっぱりわからぬ。


 我にそう告げた遥は、不敵な笑みを浮かべ、まぁ見ててとだけ言い残していった。


「ゆ、ゆじゅぢゃん。わ、わだぢのごどは、は、遥お姉ちゃんっで、よよ呼んでいいがらね」


「……」


 ……さ、さっぱりわからぬ。


 両腕をあげて近づいて行くその姿はまるで、腐った死体というモンスターのようじゃったわ。


「…遥。ゆずは、結衣やお前、ひかりと同級生だぞ。後、ヨダレを拭け」


「…う、嘘!?」


「本当だ。それよりお前、部屋は探してきたんだろうな?」


「きょ、今日は恵理さんに捕まってしまって…そ、その…」


 部屋を探す?


 ふむ。どうやら我の知らない間に、色々とあったようじゃな。仕方がない。


 聞き込みでもするかの。


 ん?面倒くさくないかじゃと?


 愚かな。


 聞き込みは、冒険者の基本じゃ。


 故に、今日からまた、新しい冒険の始まりというわけじゃ。

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