アイドルとマネージャー
第2章 攻略
リビングで『妹だけど愛さえあれば関係ないよね♡』をプレイする事になった修二。
『あ♡ぷろ〜どチュウ♡だよ♡』
そんな画面を観ながら固まる修二を他所に、遥の熱弁が始まった。
「ラッキー!ラッキーですよ修二さん!私に出会えた事に感謝して欲しいです(๑╹ω╹๑ )シリーズ累計400万本突破しているのにもかかわらず、知らないなんて、人生を損してますから(>人<;)」
「……そ、そうか」
生まれて初めてプレイする事になったエロゲー。
隣に女の子。
どんな罰ゲームだよ…全く。
し、しかし、シリーズ累計ヤバくねぇか?
アップロードが終了すると、ノートパソコン(ゲームの女の子)から声がかけられた。
『お兄ちゃん…だぁい好き〜♡』
「……ぐはっ!はぁ、はぁ、いい。いい。今日も凄くいいです」
「……今日もって、いつも同じだろ?ゲームなんだ…いえ。何でもないです」
ギロッと睨まれてしまった。怖い怖い。
声がかけられたというより、アップロード終了の合図である為、声がかけられるか、かけられないかが、日によって変わる事はないのだ。
「おほん。まずは、名前を入力して下さい」
「……へいへい。きり、しま、しゅうじ。と」
可愛らしい音楽が流れている中、マウスを操作していく。
「いいですか?修二さん。基本的にはマウスで選択していきます」
エロゲーをプレイした事がない人の為に説明しておくと、このゲームはパソコンゲームなのだが、キーボードなどは基本使わず、マウスの右クリックだけで進めていくのが普通である。
一応、マウスがないノートパソコンでも遊べるようになっていて、キーボード右側にある矢印キーでも遊べるのを付け加えておこう。
「それぞれ分岐点というものがありまして、修二さんの選択によって、物語が変わっていきます」
このゲームの特徴といえる分岐点。
専門用語を使うのであれば、ルート(道)と呼ばれている。
〇〇ルートとか、聞いた事がないだろうか?
「きちんとした選択をしないと、好感度が上がらず、クリアーができません。好感度をきちんとあげて、ゲームをクリアーしましょう」
つまり、正しい選択をして、ゲームをクリアーしましょうということである。
専門用語を使うのであれば、好感度ではなく、フラグである。
例えば、選択問題が出たとしよう。
こうかなぁ?などと考えながら、選択問題に答えていく。
正しい選択なら、好感度があがる。
間違えた選択なら、好感度が下がる。
結果、一定の好感度を獲る事が出来ればエンディングが流れ、一定の好感度を獲る事が出来なければバッドエンディングが流れる。
大体の流れは、こんな感じである。
「とりあえずやってみましょう」
「…あ、あぁ」
こうして、生まれて初めてエロゲーをプレイする事になった修二。隣では、目を輝かせている遥の姿があった。
ホント、どんな罰ゲームだよ。
『ん…朝か』
【目を覚ました俺は、グッと背伸びをしようとした】
『…アキか?』
【背伸びをしようとした俺は、右腕に違和感を覚えた為、背伸びを断念して布団をめくった。布団をめくると右腕に、妹のアキがしがみついている事に気がついた】
『…どうするかな?』
①起こす
②そっとしておく
③お漏らしをしていないか確認する
「ささ、修二さん。早速きましたよ!ほらほら、選んで選んで」
「……まぁ、②だろ」
ゲームの中の女の子は、中学生ぐらいの女の子だ。その為、③はないだろうと考えた俺は、迷わず②をクリックする。というより、③って何?こぇぇよ!
『…起こさない方がいいか』
【アキを起こさないようにしながら、布団から出た俺は、そっと部屋を後にした】
【部屋を後にした俺は、リビングで朝食を食べる事にした。両親は仕事で海外に行っている為、今日の朝食は一人だ】
「…という事は、妹と二人暮らしなのか?」
チラッと遥を見ると、何故か口をへの字に曲げていた。
「…無視かよ」
遥が何で怒っているのかが分からず、仕方がないので先に進む事にした修二。
【ドタドタドタ…バン!っと、リビングの扉が勢いよく開いた】
『お、お兄ちゃんの馬鹿!!な、何で起こしてくれなかったのよ!!』
【妹のアキが、顔を赤くしながら文句を言ってきた】
『どうする?』
①謝る
②怒っている理由を聞く
③無視する
「…は?また選択かよ」
流石に③でない事は、分かっている。
「となると、①か②だよな」
少し考えた修二は、②を選択する。
「謝るにしても、理由が分からない事には意味がない。社会人の常識だぜ」
俺の職業は何だ?そう、マネージャーである。
ペコペコしてばかりではない…って、うるせーよ。ペコペコするのも、仕事だからな。
『何でそんなに、怒ってんだ?』
【顔を赤くするアキに対し、俺は質問をした】
『は?そんなのも分からないの?馬鹿なの?死ねば』
【バン!っと勢いよく扉が閉まり、ドスドスドスという音が、廊下の方から聞こえてくる】
〔アキの好感度マイナス15〕
「……う、嘘だろ?何で怒られてんだ?」
マウスを握りながら、ボソリと呟く修二。
「はぁ…修二さん。全然ダメですね。がっかりです」
「…半笑いで言うんじゃねぇよ」
「いいですか?修二さん。普通に考えたら分かりますよね?学生なんだから、朝は起こしてあげないとダメじゃないですか!」
「ちょっと、待て。学生だと思ったから、最初の選択は②を選んだ…な、なんだよ?」
「学生じゃなくても③は、あり得ませんから…」
「ぐぬぬ…」
ゴミを見るような目を向けられてしまう修二。しかし、今のは遥の意見の方が正しいと思った修二は、返す言葉が見つからない。
「…そ、そもそも今日が学校とか、し、知らねぇし」
「いやいや。ここ!ここ!日付けが書いてあるじゃないですか!ちゃんと観て下さいよ」
いきなりゲームが始まり、いきなり怒られてしまう修二。
遥が、コン・コン。と指で叩いた場所に目を向けると、〈1年目・4月第1週〉と書かれていた。
「3年間の学生生活の中で、クリアーを目指していくゲームとなっているんですから、1週1週を大事に過ごして下さい!」
3年間の学生生活を妹の攻略に全てを使うだなんて、この主人公の将来は大丈夫なのだろうか。
いや、妹を攻略しようとしている時点で駄目だろうな…。
「…これはアレなのか?さっきの女の子が成長したって事なのか?」
先ほど見たパッケージとは違う少女だった為、質問をする修二。
「あぁ。アミちゃんの事ですね?」
いや、アミちゃんの事なんて言われても、知らないんだけど。
「…う〜ん。アミちゃんは一番難しいですけど、修二さんがロリじゃなくて、やりたいって言うのであれば、アミちゃんにしますか?」
「…いま、ロリコンって言ったか?」
「い、言ってませんよ。一応、アユちゃんが一番初心者向きなんですが、どうされますか?」
「アキ、アミ、アユしか選べないって事か?」
「そうです。アキちゃんは、中学生の妹です。思春期なのでちょっと難しいんですが、こ、この、ツンデレ具合がたまらないんですよ!!!」
「…確かに、きりりん氏は最高だった」
「次に、アミちゃんは小学生の妹です。当然、無垢で純粋な妹ですから、まだ恋愛って事を良く分かっていないんですよ」
「つまり、攻略が難しいと…って、恋愛するのか?妹と?小学生だよね?」
「いいですか?修二さん」
驚く俺に対し、両手をポンッと俺の肩に乗せ、遥は質問に答えてくれた。
「妹だけど愛さえあれば関係ないんです」
「キラキラした瞳を向けてくるな。親指をたてるな…で、残りはアユだろ?」
「はい。アユちゃんは、双子の妹です。学校で会ったりするので、一番初心者向きなんですよ」
学校が同じということは、遠足などのイベントも全て一緒に過ごしていくということであり、高感度をあげやすいらしい。
「仕方ないですね。じゃぁ軽く説明してあげます!アキちゃんはですね……」
好きな物を語る時の人って、何でこんなにイキイキしているのだろうか?
お喋りになるし、人の話しを全く聞かなくなったりするし…まぁ、嫌いじゃねぇけど。
人が一番輝いている時を知っているだろうか?
人が一番輝いている時…それは、好きな事をしている時でははないだろうかと、俺は思う。
目をキラキラ輝かせながら、身振り手振りが増えていき、少しでも反論しようものなら、二つ三つの反論が返ってくる。
「……ちょっと修二さん!聞いてるんですか?」
「悪い。もう一回頼む」
「ちゃんと聞いてないと駄目じゃないですか!いいですか?」
お前がイキイキとしているなら、怒られるのも…ま、悪くはねぇな。
な?そう思うだろ?
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