アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第2章 秘密

 
 静寂な空間。


 壁にかけてある時計の針が、大きな音を鳴らしているように聞こえてしまうのは、ホント…何故なんだろうな。


 チクタクチクタクチクタク、と。


 普段はあぐらをかいているのに緊張からか、正座をして、背筋をピンっと真っ直ぐ伸ばしながら、モジモジしてしまう。


 今ならモジモジ君と呼ばれても、俺は抵抗しないだろう。


 シャーーーというシャワーの効果音。鼻歌交じりのご機嫌ソング。そして、高鳴る鼓動のビート。


 いけない、いけない。


 そう思いながらも、ゆっくり、ゆっくりと、足音をたてる事なく、リビングのドアを開ける。


 今なら、泥棒の気持ちが分かるかもしれない。


 いや、もしかしたら前世は盗賊だったのかもしれない。


 目指すは言うまでもなく、脱衣所である。


 普段から歩きなれている廊下。


 何処を踏んだら音が鳴るかなど、完璧だ。


 普段の生活は、この為にあるのではないだろうか。


 いけないと思いながら、ここで覗かないのは相手に失礼だからなどという、わけもわからない正論をたてる。


 さて、どうしよう。


 ①覗く


 ②覗かない


 ③一緒に入る


「……イテッ!?何すんだよ!!」


「こっちの台詞ですよ!!な、何で②番を選んじゃうんですか!!」


「いやいや、選ぶだろ。兄妹何だよね?ね?覗かないよな?な?」


「はぁ…シュウさんにはガッカリです。いいですか?ここで①を選んで、イベント発生。定番中の定番ですよね?ね?」


「知らねぇよ。てか、何で俺が、お前とエロゲーをせにゃならんのだ!!」


 ちなみに③を選ん場合、警察に捕まってしまうというバッドエンディングいきらしい…①はセーフなのかよ!というツッコミは、横に置いておく。


 はぁ…と、ため息を吐き、先ほどの事を遠い目をしながら振り返る修二。


 ーーーーーーーー


 リビングで話し合いをしようとした修二達のもとに、一本の電話があった。


「はい。霧島です。はい。はい。こちらは構いませんが…はい。では、お待ちしております」


「…誰か来るんですか?」


「ん?あぁ。明日になる予定だったお前の荷物、今日でも大丈夫になったらしいぞ」


 電話の相手は、宅配業者であった。


「ほ、本当ですか!良かったぁ」


 遥は今日中に運べないかとお願いしたが、流石に厳しく、早くて明日になるかもしれないと言われていた。


 まぁ男と違って、着替えとか化粧品とか、女の子には色々あるのだろう。と、この時の修二は考えていた。


「もう少しで着くらしいから、今後について話すのは荷物が届いてからにしないか?」


「いいですよ…って、何処か行くんですか?」


 スッと立ち上がる修二に、遥が質問をする。


「シャワーを浴びにな…印鑑はここに置いてあるから、業者が来たら対応してくれ」


 千尋と結衣の所為…いや、一番は遥の所為か…とにかく汗をかいたので、シャワーを浴びたかったのだ。


 ごゆっくり〜という遥の返しを聞きながら、修二は脱衣所に向かって行った。


 ーーーーーーーー


 シャーーーというシャワーの音を聞きながら、頭から洗っていく修二。


 ピンポーンというチャイムの音。


 ドタドタドタドタという遥の走る音。


 ガチャっという玄関が開く音。


 どうやら無事に、荷物を受け取れたようだ。


 シャーーーと、シャワーで泡を落としていく。


「キャッ!?」


 ダン、ダンダダダダンという激しい音が、修二の耳に入る。


「大丈夫かぁーー?」


 あまりにも激しい音がした為、風呂場から大きな声で呼びかける。


「だだだ、大丈夫ですから、まだ出てこないで下さい!」


 何を焦っているのか…まぁ、裸で出て来るなって事なのだろうが、裸で出るようなヤツだとでも思っているのだろうか。


 それからしばらくして、風呂場を後にした。


 そう、事件がおきたのはこの時である。


「……イテッ!?あ?何だ?」


 脱衣所を出た俺は、右足の指で何かを蹴ったらしい。当然、何かと下を向く。


 時が止まった。


 いや、マジで。


(は?は?はぁぁぁぁあ!?)


 蹴った物の正体は、一本のDVDであった。いや、拾うまではDVDだと思っていたが、拾ったら違ったので、え…っと、いやいや、どうでもいい。


『妹だけど愛さえあれば関係ないよね♡』


 時が止まった。


 いや、ホント、マジで…な。


 ーーーーーーーーーー


 おおお、落ち着け!霧島修二。


 すすす、好きな食べ物はすき焼き。ききき、嫌いな食べ物はピーマン。しゅしゅしゅ、趣味はって、そうじゃないだろ!な、何だ?


 表のパッケージを、まじまじと見つめる。


『妹だけど愛さえあれば関係ないよね♡』


 いや、関係あるから!気づいて!てて、てか、何で裸なんだ…いやいや、ききき、きっと、噂の作画ミスワロたwwwとかってヤツか。


 ととと、とにかくおおお落ち着け、霧島修二。


(いやいや、アニメ。そうアニメだ。確か、こんな題名のアニメがあったよ…な?)


 恐る恐る裏側を見た俺は、固まってしまった。


『もう…オニィの…エ♡チ…テヘ』


 テヘじゃねぇよ!んだよ!


 ふ、ふざけんなよ!!


 可愛いじゃねぇかよ!!!


「ふぁ〜ぁ。修二さん。私もシャワーを…ん?な、何ですか?」


 ガチャっという扉の開く音とともに、遥が部屋から出てきた。


「……ん、あ、あぁ。シャシャ、シャワーね」


 思わず背中に隠してしまう。


(はっ!し、しまった)


『俺妹』的な展開ではなく、特にやましい事はないのについ隠してしまう男子にある行為…そ、そうあれだよ、あれ!


 条件反射ってヤツだよ!な?分かるよな?パワプルプロ野球なら、筋力とか上がっちゃうよ…テヘ♡


 ※もしも上がるなら素早さだが、この時の修二はパニックであった。


「…何かいま、背中に隠しましたよね?」


「……え?」


 そしてこういう時に限って、女の子の勘なのか、動体視力なのかは分からんが、もの凄い力を感じてしまう。


 やはり、はじめの一歩ボクシングが好きなのかなどと、現実逃避している場合ではない。


(ま、待て。冷静に考えろ霧島修二!)


 俺は、こんないかがわしいブツを買った覚えはない…というより、シャワーを浴びる前には落ちていなかった。


 つまり、シャワーを浴びている間にあったのだから……って、犯人は……は、遥…なのか?


「…何ですか?何を隠したんですか?」


 ピストルの形をした右手をアゴにあて、名探偵ハルカは推理を始める。


「さ、さては…修二さん。もしかして」


「…ま、待て、遥。な?」


 マズイ。


 どど、どうする?


 もしここでコレを見られた場合、普通に考えて気不味くなるのは間違いない。


「ほら、ほら、修二さん。薄情しましょう?吐いて楽になりましょうよ」


「だだ、だから俺は何も…か、隠したりなんて」


 な、何だ。


 勉強机にエロ本が置かれていたあの頃以来の緊張感……ホント、晩飯の時が怖かった。


「私の目は誤魔化せませんよ…そりゃぁ!」


「ば、馬鹿!後で泣くのはお前だぞ!」


 サッと、遥の突進をかわす。


「……ますます怪しいです」


「あ、怪しくない、怪しくない。てか、ほら、早くシャワー行ってこいよ」


 シッシと、遥を追い出そうとする。


 とりあえず遥をシャワーに行かせ、状況を整理しようと考える修二。しかし、この行動は逆効果であった。


「ひ、ひどいですよ修二さん!」


「なな、何がだ?てか、何で怒ってんだ?」


 プルプル震える遥。


 このゲームを隠した事に感謝される覚えはあっても、怒られる意味がわからない修二。


「私がシャワーを浴びている間に、一人で何か食べる気ですね!ひどいです!は何なんですか!」


「た、食べるか!!!」


 オカズという単語に、条件反射でツッコむ修二。


 その時であった。


「………あっ」


 ポトっと、修二の背中からブツが落ちてしまい、遥の足元に『妹だけど愛さえあれば関係ないよね♡』の裏側パッケージがあらわになる。


 時が止まった。


 いや、ホント、マジで…な。


 静寂な空間。


 壁にかけてある時計の針が、大きな音を鳴らしているように聞こえてしまうのは、ホント…何故なんだろうな。


 無言のまま二人は、下を見続けるのであった。

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