アイドルとマネージャー
第2章1 出会い
とても良く晴れた日の出来事であった。
雪のお墓参りにと、鹿児島にやって来ていた修二。
有り難い事に火山灰は降っていない。
鹿児島県に行くなら火山灰対策として、傘とか持っていったら?と、千尋に言われていたが、修二はそれを断っていた。
だって、荷物になるだろ?
嘘だと疑った訳ではないが、本当に火山灰が空から降るらしい。その為か、晴れているというのに、傘を持つ人も多い。
「ワンコイン洗車…ひゃ、100円だと!?」
火山灰の所為なのか、車を自動洗車する機械が、100円で利用できるみたいだ。
火山灰や機械洗車の価格に驚く修二だったが、二番目の衝撃は、電車の価格であった。
「ば、馬鹿な!?」
チンチン電車と呼ぶべきなのかは横に置く。
チンチン電車とは、鹿児島市民の交通手段の一つであり、新幹線とはまた別である。
チンチン電車に乗る場合、東京とは違い、改札というものがない。いちいちチャージしなくても、小銭さえあれば乗れるのだ。っと、あまりチンチンというのはやめよう。
電停と呼ばれる所で電車に乗り、座席には座らず、つり革につかまって、鹿児島の景色を眺める修二。
(おい、おい。すげぇな…)
線路の隣といえばいいのだろうか?電車と車が普通に、平行して走っているのだ。
もしも俺がだ。
もしも電車男…じゃなかった。電車オタクなら興奮してしまうこと間違いなしだろう。
考えてみろよ?
大好きな電車と一緒に走れるんだぜ?
レッツ&ゴー!だろ?
いや、アレはミニ四駆か。
ん?あぁ。その事に衝撃を受けたんじゃない。
衝撃を受けたのは、降りる時の事であった。
「す、すいません。幾ら払えばいいんですか?」
し、仕方ないだろ?初めて乗るんだし、改札がないから、人に聞けなかったんだよ。
ちょっと恥ずかしそうに質問する俺に、ニッコリ微笑みながら運転手さんが教えてくれた。
「大人1人160円です」
な?衝撃だろ?つまりだよ。
始発から終点まで乗っても同じ価格なんだぜ?
鹿児島やべぇよぉと、考えながら…東京にもできないかなぁなどと考えながら…俺は、携帯を開いて雪の実家を探した。
ーーーーーーーー
東京とは違い、3月にもなれば、中々の気温である。良い意味でな。
暖かい風が吹き、暖かい日差しを浴びながら、のどかな田んぼ道を一人で歩いて行く。
「バスに乗るか…いや、歩いて行くか…なっ!?ゆ、雪!?」
携帯の時刻表には、バスで10分と書かれていた為、バスが来るのを待つ時間を考えるのであれば、歩いた方が早いのでは?と、考えていた俺は、バス停に立っていた女性を見て驚いてしまった。
雪にとても似た女性。
つまらなさそうに携帯を見るその姿が、あの日を思い出させる。
「…お姉ちゃんの知り合いの方ですか?」
声をかけたというより、思わず声が漏れてしまった。そんな感じだったのだが、どうやら相手の耳に届いたようだ。
携帯から目線を外し、俺の方を向く女性。
「…は、初めまして。もしかして、水嶋遥か?」
「…!?い、いえ。違います」
あれ?さっきお姉ちゃんって言っていたから、てっきり妹なのかと思ったのだが…どうやら違うらしい。
「あ、い、いや、す、すいません。自分の知り合いに、似ていたので、つ、つい…人違いでした」
動揺した俺は、カミカミになりながらも礼儀を通す。間違えたのは俺だ。当然だろ?
「いえ。それよりも。もしかしてお墓参りに来たのですか?」
女性は携帯をズボンのポケットに仕舞いながら、俺が持っていた花束に目を向ける。
「えぇ…まぁ。遅くなってしまったんですけどね」
遅くなった。
来る時間でいえば、まだお昼過ぎであり、決して遅くはない。
来る年月でいえば、1年と数ヶ月であり、あまりにも遅い。
初対面の女性に、この違いを説明する事はないだろう…だとしたら、今の俺の発言はちょっと変かもな…などと考えていたのだが、女性は特に気にした様子はなかった。
「そうですか…良かったら、案内しましょうか?」
「え?し、しかし…悪いですよ」
「私の帰り道に、お墓があるんですよ」
「そうなんですか?じゃ、じやぁ、お言葉に甘えます」
こうして、俺は女性に案内してもらう事になった。
ーーーーーーーーーー
無言のまま、歩くのは辛い。
何か話題がないか?などと考える俺だったのだが、残念ながら引きこもりの障害が発生する。
とにかく話題がないのだ。
いや、あるにはあるが、アニメや漫画、ラノベなどの話題しかない。
共通の趣味の持ち主なら、盛り上がるところなのだが、彼女とは初対面である。
いや、初対面でも盛り上がる話し。
それこそ、アニメや漫画、ラノベやゲームではないだろうか?
「え…と。すいません。お名前をお聞きしても?」
何とかひねり出した答えは、コレであった。
何かを質問するにもだ。まずは相手の名前がわからない事には出来ないだろうと、考えたからである。
「……ハルです」
少しの間を空けて、彼女、いや、ハルはそう答えてくれた。
「ハル…ですか?暖かい名前ですね。ハハ」
ハル=春という連想だ。
勿論、ハルという名前だからといって、春という漢字ではないだろうがな。
「あっ!すいません。俺…じゃなかった。自分は、霧島修二っていいます。焼酎の銘柄にもなってるあの霧島に、修行の修で、数字の二です」
「……そうですか」
おっと…これはマズイですね。
焼酎の銘柄で例える事により、お酒好きな女性なら食いつく例えを華麗にスルーされ、修行の修という例えで、何の修行ですか(笑)と言われるのを期待したが…それもない。
ひかり直伝の、青春アミーゴでいくべきだったか?女の子ってカラオケ好きだしなぁ…いや、そもそも修二の二は、二であってるのか?次で、修次かもしれないし…などと考えていた為、やはり無言で歩いて行く。
もしもここで、ハルが携帯をイジり出したらゲームオーバーだっただろう。無言のまま、お墓まで歩くハメになる。
しかし、そうはならなかった。
「修二さんは、そ、その…その人のお知り合いですよね?」
「…えぇまぁ」
お知り合いだからこそ、お墓参りに来るのだから、変わったというより、いらない質問である。
しかし俺は、特に気にしなかった。
無言のまま歩く事が無くなった。
そっちの方に気を取られたからである。
「どういうご関係だったんですか?」
ハルからの質問。
うむ。さて、何て答えるべきなのだろうか。
仮にマネージャーだと答えれば、鹿児島出身の芸能人=雪=神姫雪を連想するかもしれない。
ハルの見た目は、20代…あるいは、10代後半に見える。
つまり、憧れの女性芸能人が神姫雪である可能性が高い。
それはマズイ。
芸能人の家やお墓など、一般の人に知られてしまう事は基本的にはNGである。
悪質なファンのイタズラが、あるからだ。
基本的にはといったのは、NGではない芸能人がいるからである。
例えば、実家が飲食店を経営している芸能人とかな。
さて、では、何て答えるべきなのか。
「…特別な関係でした」
芸能人とマネージャーとは、そういうものだ。
赤の他人とは言わないし、ビジネスパートナーなどとは死んでも言いたくない。
"シュウ君。私ね…家族を作るの"
かつて千尋が言った言葉。
この言葉に修二と結衣は賛同して、千尋の会社に入社した。
家族=特別な存在。
やはり、こう答えるのがベストではないだろうか?
修二が寂しそうな表情でそう言うと、ハルは何故か顔を赤くした。
「そそそ、そうなんですか。ふ、ふーん」
「えぇまぁ…きっとアイツも、そう思っていてくれたと思います」
「アイツって呼ぶ仲なんだ…」
「え?」
「な、何でもないです…修二さん?」
何を言ったのかが聞き取れなかった修二に、ハルが質問をしようとする。
「何ですか?」
「良かったら、その人の事をもっと教えて下さい」
「……まぁ、いいですけど」
何故そんな事を聞くのかが分からなかったが、無言で歩くよりかは全然いいだろう。
芸能人とマネージャーである事を隠しながら、ハルに雪の事を話す修二であった。
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