アイドルとマネージャー
第1章 エピローグ
日付けが変わり、朝からひかりをテレビ局に送った俺は、喫煙室で一服していた。
いや、魔力を補給していたと、言い直そう。
今日は番組の打ち合わせだけの為、ひかりだけでも大丈夫だろうと考えた俺は、魔力の補給に行ってくるとひかりに伝えてあった。
「フー。くそ!絶対、頭のおかしなヤツだと思われちゃったじゃねぇか」
魔力の補給に行くと伝えた際、それを聞いていたプロデューサーがクスクスと笑っていたのを思い出して、顔を赤くする。
「…まぁいい。さて、今日は会議だって言ってたが、何だろうな」
恵理さんの話しを聞いた後、しばらく経ってから解散する事になった俺たち。
千尋が別れ際に、明日は会議をすると言っていたのだが…まぁ行けば分かるか。
タバコを消して、ひかりを迎えに行ってから、事務所に戻る。
マネージャーのある日の一日とは、こんな感じだ。
ーーーーーーーー
事務所につき、手慣れた手つきで解除コードを入力し、ガチャッと、ドアを開ける。
「霧島修二。ただいま戻りました」
「シュウ君、おかえり。ひかりちゃんも、お疲れ様」
「フ。全くだな」
いやいや、お疲れなのはプロデューサーさんだからね?お前を迎えに行った時に見たプロデューサーさん、かなりぐったりしてたからね?
「さて、じゃぁ早速、会議をしましょうか」
殺風景な部屋の中、社長室にある唯一のソファーを部屋に置き、会議が始まる。
ソファーに座るのは、俺とひかり、そして恵理さん。
ホワイトボードに記入していくのが、結衣。
そして進行は、我がサクラプロダクション社長の千尋である。
「さて、会議内容は結衣が書いた通りよ!」
女の子特有の丸っぽい可愛い文字で書かれた文章を、千尋は"ババン"と聞こえてきそうな音と共に読み上げる。
"我が社の今後について"
コレが議題だ。
「今後についてって、ひかりと雪の妹の遥を、俺が担当していくんだろう?」
マネージャーが担当するのは一人だけ。などとは限らない。
超売れっ子だった雪の場合は、他の子を見る余裕が俺になかったが、ひかりは売れっ子ではあるが、雪ほどではない。遥に至っては、新人である。
そして現在、我が社のマネージャーは俺しかいないので、担当するのは決定事項だ。
「違う、違う。うーん。あっ!結衣ちゃん。ペン貸して」
結衣からペンを受けとった千尋は、我が社の所に、大きく✖️印をつけた。
「コレなら、シュウ君も解るよね?」
ニッコリ微笑む千尋。
どれどれ?と、ホワイトボードを覗く四人。
"我が家の今後について"
「…念の為に確認するが、あのトリオの事じゃな…い…ご、ごめんなさい」
言わせねーよ。みたいな表情を結衣が見せてきた為、直ぐに謝罪する俺。ボ、ボケたんだから、せめてツッコミを下さい。
「我が家か…久しく帰ってないな」
「そうなのか?」
「ク、ク、ク。超いや、ハイパー忙しい我は、帰る暇などないのだ!」
「いやいや、お前、明日オフだろ」
オフとは、仕事が休みという意味なのだが、なぜオフというのかは疑問だ。おそらく、プレーオフからきているのだろうが、明日オフ(明日休み)とは言っても、明日オン(明日仕事)だとは言わない。
ちなみにハイパー忙しい人は、半年先まで仕事で埋まっている人の事を言う。よって、ひかりは違う。
「おほん。いい、ひかりちゃん?我が家はここよ」
両手を広げ、ニッコリ微笑む千尋。
「…わ、我の聞き間違いか?」
動揺するひかり。まぁいきなりそんな事を言われては、無理もない。
「ひかり。家族とはパーティーの事だよ」
隣から恵理さんがそう言うと、表情が一変するひかり。サッと立ち上がり、嬉しそうに宣言する。
「ハッハッハ!遂に念願のファミリアを手にする時が来たようだな。で?名は?ライトニングファミリアで良いな?」
「…良いわけあるか」
大体、お前は神さまでもなんでもないだろうが。
後、ライトニングって何だよ?
「サクラダファミリアは?」
「いや、それ建物ですから…!?」
そうツッコむと、ギロッと睨まれてしまった。
こぇぇよ!結衣パイセン、目力がぱないっす!
後、サクラ・ダ・ファミリアだからね!
気をつけて!
「あぁもう!!名前は、サクラプロダクションしかないでしょ!」
ワイワイ騒ぐ俺達を見た千尋が、バン!とホワイトボードを叩きながら、家族の呼び名を決定させた。
…いやいや、待て待て。ファミリアについて話しあっていたのではないのか?それは間違っているぞ千尋。
しかし、相手はあの結衣だ。
万が一、千尋を泣かせでもしたら、後が怖い。
ここは慎重に、安全を考えてから意見しないといけないな。と、どう反論するかを考える俺だったのだが…事態は一変する。
「…つまらん女だ」
ボソリと呟いたひかりの発言は、俺の耳にだけ届いた。当然、千尋や結衣の耳に入らないようにフォローする。
「ば、馬鹿!いい名前じゃないか!」
何故かって?いやいや、後が怖いからという理由しかないだろ?ん?あれ?フォローしてしまったら、意見が出来なくなるんじゃね?
だ、だが、しかしだ。
千尋が泣いて、結衣が怒る未来が見えてしまっているこの状況…えぇい!仕方がない。
「か、考えてみろひかり?略せばSPだぞ?スペシャルだぞ?」
馬鹿なの?見たいな目を向ける結衣を見ないようにした。言われなくても分かっている。サクラはSAKURAではなく、Cherry Blossomだ。つまり、略すのであればCBPだ。
「お?それを言うのであれば、大統領の命を守っているのは、SPだな」
クスクス笑いながら、恵理さんが参戦してきた。
勿論、からかっているのがみえみえである。
「ま、守る。エ、エスピー…スペシャル…クッ!どちらも捨てがたい」
両手で頭を抱えながら、ひかりはどっちにするかで真剣に悩んでいるようであった。
「お、おほん!と、とにかく。我が社は我が家。いい?これは決定事項です!」
『はーい』
社長にこう言われては、仕方がない。
寒い季節が過ぎ、暖かい春の訪れと共に、こうして我が家はスタートする。
サクラプロダクション。
社長。九段坂千尋。
秘書。橋本結衣。
会計。北山恵理。
所属タレント。結城ひかり。水嶋遥
そして、マネージャー。霧島修二。
小さな、小さな会社かもしれない。
だがしかしだ。
俺はそんな小さな会社の方が、好きなのかもしれない。
50階建ての建物の頂点に立つよりもだ。
町外れにある小さな町工場で働く方がさ。
「さてと。じゃぁ会議に入るわね( ^ω^ )」
「…これから会議なのか?」
あれ?今までのが、会議じゃないの?
心の中で締めちゃったんですけど。
「当たり前でしょ?我が家に関する事だから、ちゃんと聞きなさい」
「その前に一服を…いや、何でもないです」
結衣が、握り拳を作ったのがチラリと見えた為、諦める俺。ホント、会議って長くて嫌い。
そんな事を考えている間も、会議は続く。
ーーーーーーーーーーーー
季節は春だ。
寒い冬が終わり、綺麗な桜が咲く一歩先までの時期に、俺は鹿児島にやって来ていた。
「さてと、雪の実家に行って、雪のお墓の場所を…っと、花を買わねぇとな」
黒いスーツ姿に、左手には花束を。
「色々と報告したい事があるな…」
会議の内容とか色々な。
けど、やっぱり一番最初に言うべき言葉は決まっている。
馬鹿野郎だ。
どんな理由があってもだ。自分の命を自ら断つ行為だけは許されない。
そして、次に言うべき言葉はきっとこうだろう。
ありがとう。
雪がいたから、今の自分がある。
何を話すか頭の中で考えながら、携帯で地図を開いて雪の家を探す。
「あれが噂に聞く、桜島か…確か、船で行くんだよな?その船の中で食べられるうどんが美味しいらしいが…釣った魚でも入っているのか?」
そんな事を呟きながら、ちょっとした観光気分であった。
ーーーーーーーー
観光気分だった俺だが、衝撃を受ける事になる。
それは、雪の実家の近くを通った時であった。
「…雪、なのか?」
「…お姉ちゃんの知り合いですか?」
衝撃を受けたのは、雪かと思ってしまうほどの人物を見かけたからだ。
言うまでもなく、雪の妹の遥である。
そしてこれが、水嶋遥と霧島修二が最初に交わした言葉であった。
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