アイドルとマネージャー

伊達\\u3000虎浩

第1章 君のいない世界

 
 鳴り止まない電話…などという事はない。


 一日中電話が鳴り響くなどという言葉があるが、それは嘘である。


 何故なら、携帯電話の電源をオフにするか、固定電話のコンセントを抜くかすれば、電話がかかってくる事は二度とない。


 あれから1年、1年が過ぎていた。


 神姫雪がいなくなってから、もう1年だ。


 そんな中、俺はというと、部屋に引きこもり、誰にも会う事がない生活をしている。いや、正確には宅配人以外の人と言うべきか。


 部屋の中はゴミ屋敷となってしまっていたが、誰とも会う事はないし、換気扇は回し続けているから大丈夫だろう。


 最も、臭い匂いは近所の住人に迷惑がかかる為、食べ終わった容器だけはきちんと洗ってある。


 1年間、伸ばし続けた髪と髭。


 神姫雪が忙しかった=マネージャーである俺も忙しかったおかげで、貯金はたんまりある。


 家賃や光熱費や宅配物などは、口座から自動で引き落としが可能だった為、引きこもりに転職しても問題はなかった。


 ーーーーーーーーが。


「…クソ!クソ!またあの夢だ」


 床に散らばったゴミ袋を蹴飛ばし、洗面所で顔をゴシゴシ洗う。あの夢とは、神姫雪の遺体を発見した時の夢である。


 俺は忘れたかったのだ。


 神姫雪という、一人の女の子の存在を。


「何が敏感マネージャーだ!何が売れっ子を抱える凄いマネージャーだ!クソ!死ねよ」


 自分自身に罵声を浴びせ、昼間から酒を飲む毎日。


 ニュースやドラマを見る事が出来ず、大好きだったアニメや漫画、ラノベを読む毎日。


 小説家になる!というお気に入りのサイトを日々閲覧しながら、嫌な事を思い出さないようにする毎日。


 しかし、夢だけは忘れさせてくれなかった。


「何故、気づいてやれなかった。何故、止めれなかった。何処かに、何処かに自殺するというサインがあった筈だ!何故、何故、何故!!!」


 何故、お前は自殺したんだよ。なぁ…雪。


 テーブルを強く叩きつけた事により、テーブルの上に置いてあったカップ麺の容器が、床へとコロコロ転がっていく。


「クソ!クソ!クソ…ぐすっ」


 そして、そのまま深い眠りについて、またあの夢を見るのであった。


 ーーーーーーーー


 ドン!ドン!ドン!


「…ん。宅配…頼んだか?」


 インターホンはうるさい為、鳴らないようにしてある。玄関に【インターホン故障中】という張り紙をしている為、この音は誰かが来たという知らせである。


「夕方か…千尋…じゃないよな」


 毎日やって来る千尋の可能性もある為、廊下の音が鳴らないように、慎重に玄関へと向かう。


 葬式に出ていない俺は、マネージャーの仕事を辞めるとだけ千尋にメールを送り、それっきりであった。


 そんな俺に対し、千尋は毎日欠かさず来ていた。


 だが俺は、一度も玄関を開けた事はない。


 玄関まで来た俺は、そ〜っとのぞき穴から誰が来たのかを確認する。


 そこにいたのは、自分の母親と同じぐらいの年齢の女性であった。


(勧誘か何か…か?)


 ならばと、居留守を使う事を決意する。


 ドン!ドタドタバタン。


 居留守を決意した俺だったのだが、お酒のせいか、急に立ち上がったせいか、ゴミが散らかりすぎていたせいか、廊下で激しく転んでしまった。


(…ッテテテテテ。クソ)


「…き、霧島さん!起きていらっしゃったんですね!」


 当然、玄関の外にも聞こえていたようで、再び玄関を叩かれた。


(そりゃあ、バレるわな…あれ?)


 バレるのは当然だろう。しかし、外にいる女性は確かに今、おかしな事を言っていた。


 起きていらっしゃった。


 つまり、俺が部屋にいる事がバレているという事だ。


「すいません。間に合ってますので」


 いや、この際そんな事はどうでもいいではないか。勧誘なんかに対応したくもないと、俺は玄関を開ける事もなくそう伝えた。


 すると、部屋の外にいた女性は、再び声をかけてきた。


「勧誘ではありません。霧島さん。私は、水嶋雪…いえ、神姫雪の母でございます」


「………な!?」


 心臓が跳ね上がったのを、今でも覚えている。

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