飲酒免許

史季

飲酒免許

「検問です」
 飲み会の帰り道、警察に呼び止められ、ブレーキを踏んだ。
「飲酒運転の検問です」
 警官に促される前に、財布から免許を取り出して見せた。
 途端に、警官に笑顔が戻った。
「あ、免除ですか。どうぞ」


 俺がさっき見せたのは飲酒運転免許だ。
 この免許を持ってれば、飲酒運転をしても罪にならない(もちろん、事故を起こせば罪だが)。
 飲酒運転が罪になるのは「飲酒中は判断能力が低下する」からだ。
 しかし「運転手の判断能力を他人が判断できるわけがない」という訴えが様々な場所で起こり、社会問題となっていた。
 そこで、この飲酒免許ができたってわけだ。
 これを持っていれば、判断能力アリとみなされ罪には問われないのだ。


 実際、多少の飲酒では交通事故を起こすことはない。
 要は運転テクニックの問題だ。
 飲酒運転が問題になったのは、下手な奴が飲酒したときにたまたま事故を起こしただけだと思う。


 この免許をとってよかったと思う。
 取得に30万かかったが、おかげで帰りの心配をする必要がなくなった。
 もし取っていなかったら、タクシー代が余計にかさんだに違いない。


 家に着く。今日も事故はなかった。
 まぁ、当然だな。
 俺はいつものようにテレビを付けた。
「ニュースです。今日未明、飲酒運転の車が歩行者2人をはねました。
 運転手は、飲酒免許を持っていない、とのことです」
 まったく、馬鹿なやつだ。免許をとっておけば少しは罪が軽くなったのに。
「なお、裁判所の発表によると、運転手は当時意識が朦朧としており、責任能力がないため罪には問えない、とのことです」

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