三題噺『焚き火、トナカイ、早食い競争』

史季

三題噺『焚き火、トナカイ、早食い競争』

月明かりの空から粉雪が舞うクリスマスイブ。
フィンランドでは、お祭りの真っ最中。
祭りの中心では焚き火が、月に負けないくらい煌々と輝いていました。


火のまわりでは、たくさんのトナカイが食事中です。
とても真剣な目で、目の前に置かれた肉にかぶりついています。
そう、これは早食い競争なのです。


そして、トナカイよりも火の近くに、ある人がいました。
焚き火で真っ赤に照らされた服を来たおじいさん……サンタクロースです!


サンタクロースは、こんがり焼けたお肉を、トナカイの元へと転がしていました。
このお肉は、サンタクロースが取ってきたネズミの肉です。
今夜の大仕事を迎えたトナカイ達への、労いなのです。


元気一杯にお肉を食べるトナカイ達を見て、サンタクロースは
「今年もたくさんのこどもたちにプレゼントを配れるぞ」
と、満足気でした。


そんなにこやかな気持ちでトナカイ達を眺めていると、
一匹のトナカイが、お肉を咥えてサンタクロースの元へやって来ました。
真ん丸の目で、サンタクロースを見つめています。


「お前はいつもワシにくれるなぁ。
 気持ちはうれしいが、食べんと大きくならんぞ」


そういって諭しますが、なかなか言うことを聞いてくれません。
それどころか、どんどんお肉を持ってくるのです。
これにはサンタクロースも参りました。
叱るのを止めて、ありがたく貰うことにしたのです。


月が天井に達した頃、焚き火の明かりも消え、辺りは月の光だけになりました。
早食い競争も終わり、早く食べた順に、そりを引く順番が決まりました。
一番早く食べたトナカイが一番前の右。
二番目に早く食べたトナカイが一番前の左です。


そして、あの優しいトナカイは、サンタクロースの前に来ました。
なんだが、ちょっぴり嬉しそうです。


「よし、出発するぞっ」


サンタクロースがトナカイにつけたヒモで合図を送ると、
そりは空へ向かって飛び立ちました。
サンタクロースは、こどもたちの家に付くまでの間、トナカイに貰ったお肉を食べました。
食べる度に、優しい気持ちが湧いてきました。


こどもがいる家につくと、サンタクロースは煙突から入り、
靴下の中にプレゼントを入れました。


ですが、ちょっと音が大きかったのかもしれません。
こどもが小さなうめき声を上げて、こんなことを言いました。


「うぅ~~~、焼肉くさい」

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