世界に広がる箱

史季

世界に広がる箱

ホールの中に、聖歌隊の荘厳な合唱と、オルガンの音が響きわたっている。
その音の中にいると、自分がどこか別の世界にいるんじゃないかと錯覚させられる。


そう。事実、別の世界なのだ。
なぜなら、この場所は神の王国に最も近い場所であり、神を愛し、愛される人々が集う場所だからだ。
今日、この場所で「神の王国をいかに実現するか」というお題を元に、いくつかの講演や演劇が行われる。
場内は、出荷前の幕の内弁当の具みたいな盛り上がりだった。
こんな素敵な具の一部になれるなんて、喜ばしいことだ。


やがて聖歌が止むと、豊満なひげを蓄えた男性が教壇に立った。
彼は、少し間をとり、ゆっくりと話し始めた。
それは大まかに言うと『神に喜ばれるために「正直」になりなさい』というものだった。
いくつかの聖句が引用されたので、僕はその句を手元の聖書から探し、線を引いた。
自分の好きな聖句が多く読まれたので、少し嬉しくなった。
講演者は最後の言葉を「我々は神の声を聞く者だからだ」という力強い言葉で締めくくった。その言葉は僕の中の箱をピンボールみたいに駆け巡った。
人のためではなく、神のために正直に生きるなんて、素敵だと思った。


次に始まったのは劇だ。
お題は「高校の進路相談」だ。
僕達は、勉学や労働より宣教活動を重視している。
だから、教師と意見がぶつかることが多い。
よくあるのは、生徒が「私は卒業したら、仕事をしながら宣教活動をしたい」と言うのに、教師が「大学に進学した方がいい」と諭すパターンだ。


今回の劇では、生徒が教師を説得する場面が行われた。
途中で、「進学せず」と言うべきところを「仕事をせず」と間違えて言ってしまい、大きな笑いが起こった。
所々論理的ではなかったにせよ、最後には見事に教師を説得した。
おそらく、生徒の情熱が、教師の胸の深いところを共振させたのだと思う。
ちょうど、僕達が聖書を読むときのように、心が祝福を受けるのだ。


そして昼休憩になった。
しかし、休憩になっても僕の心は収まらなかった。
他の人達も同じらしく、終わるやいなや隣の人と感想を交わし合った。
場内は再び活気に包まれるこの瞬間が、僕は好きだった。


神によって、いくつもの心の中で言葉が駆け巡り、人を越えて共振する。
さらに地域も人種も年齢も越えていくだろう。
最後には世界が箱に包まれ、幸せが飛び交うのだ。
スプーンよりもっと大きなものを動かす、素晴らしい超能力の箱だ。



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