名曲作成ソフト

史季

名曲作成ソフト

Aは助手に、あるパソコンソフトを開発させた。
全自動で名曲を作ってくれる作曲ソフトである。


Aは学生時代、バンド活動をしていたが、あまり良い曲を作れず、仕事を始めると同時に音楽を断念したのだった。
しかし、今や音楽が気になって仕事が手に付かない。
特に、自分と同い年や若い歌手がデビューするのを見ると、その傾向は顕著になった。


「見事な出来栄えだよ、ありがとう」


Aは、作曲ソフトを作った助手を労った。
最初はAが作ろうとしたのだが、音楽センスがないため、どうやっても良いソフトが作れなかった。
そこで、助手に頼むことにしたのだ。


この助手は、どんな名曲でも覚えていて、Aがリクエストするとすぐに聴かせてくれるほど音楽に詳しい。
その上、プログラミング言語もお手の物だった。


「よし。早速曲を作って、動画サイトに投稿してくれ」


Aの命令を受け、助手がソフトを起動させた。
スタートボタンを押すと、あれよあれよと言う間に五線譜に音符が並べられ、一瞬で曲が完成した。
アップロードする時間の方が長かったぐらいだった。
Aは、聴いた人の反応を楽しみにしながら、自分の仕事に戻った。




一週間後。
Aは期待に胸を膨らませながら、投稿した曲を見た。
しかし、再生数は二桁止まりだった。


「おかしいな、名曲のはずなのだが」


疑問に思って自分で聴いてみたら、納得がいった。
ピー、ガー、という雑音や、大きな物が地面にドスンと落ちるような音ばかりなのだ。


「やはり、楽して曲を作るのは無理なのだな」


Aは助手に『作曲ソフトはもう作らなくていい』と告げた。
それからAは、普段の仕事に没頭した。
以前ほど、音楽のことを考えることはなかった。




だが数日後、おかしなことが起きた。
助手があの変な曲を何度も聴いているのだ。


「おかしいな。あんな曲のどこがいいのだろうか」


Aは、少し考えて合点がいった。
あの曲は、人間にとってはちっとも良くないが、機械にとっては名曲なのだ。
機械が作る音楽なのだから、機械に心地良い音楽になるのは当然だ。


Aは、自分も機械になりたいなぁと思いながら、助手の後ろ姿を見つめていた。



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