ニートは死んでも治らないっ!

史季

女帝の審判と吊るされた男

 翌日。重いまぶたをこすりながら、早足で学校へと向かう。


 昨日は夜遅くまで起きていたが、かと言ってギリギリまで寝るのは遅刻する危険がある。一番良いのは、少し早く行って学校で寝ることだ。幸い、居眠りを邪魔するような友達はいないからね(孤独という意味ではなく、孤高という意味である)。


 学校へ向かいながら、夢で見た不思議な感覚を追想する。あれは何だったのだろう。
 ユキの他に出てきた、謎の声の主と、沈んでいった女の子の人影。なぜだか、僕はその正体を知っている気がする。


 昨日の出来事も、もしかしたら夢だったのではないか。
 けど、体にまとわりつく眠気と心を惑わせる何かが、そんな考えを否定する。


 そうだ、僕は確かに女の子と夜の学校へ行った。そして幽霊を探して、彼女の魅力を見つけた。
 言葉には出せないけど、それはたしかに存在した。


 ところで、僕は学校へ辿り着くといつも、奇妙な違和感を覚える。


 赤茶けた門の先にある塗装のはげた白壁の校舎。
 そこへ生徒がまばらに吸い込まれる様子を見て、僕はなぜかその中に入るのを躊躇ってしまう。


 "僕は一体何をしているんだろう……"
 そんな思考が浮かんでは消え、いたずらに僕を揺さぶった。


 登校する生徒たちは、僕と干渉を持つことはない。
 いわば霊のようなものだ。
 もちろん、何か話しかけたりぶつかったりしたら反応があるだろうが、そうでない限りは霊と置き換え可能である。


 そして、「自分の考えたことだけが、自分の世界に影響を与える」ならば、僕が霊として彼らを認識している以上、彼らは霊としてしか存在し得ない。


 そんな霊としての生徒に紛れてしまうと、僕自身も霊体化するのではないか……。
 とりとめのない考えが、足にまとわりつく。


 僕らにとって彼らが霊であるように、彼らにとっても僕は霊だ。
 もし世界中の人間に霊体だと認識されたら、たとえ生命を維持していても死と見なせるかもしれない。


「人が死んだらどうなるのか」なんて遠い世界の話と思っていたけど、こんなに身近な場所にも死は存在している。


 立ち尽くして、ぼんやりと校舎の方向に目を向けていると、ユキが欠伸あくびまじりに話しかけてきた。


「どうしたの? やっぱり寝足りないのね?」
「いや。なんだか、この学校に違和感があってね……」
「そうよね。やっぱり夜も朝も学校へ行くのは変よね」


 いや、そこじゃなくてね。


「そもそも私達生徒800人が学校へ行くより、教師30人が私達の家に来たほうが経済的よね」
「いや、教師30人が各生徒の下に行くのは無理じゃないかな?」
「そこはグローバル精神よ。ネットで配信するとか」
「そうだったら僕は授業聞かないけどね」
「私も聞かなーい」


 言い出しっぺは聞いとこうよ……。


 普段は鬱陶しいユキの屁理屈も、今はすっと胸に入ってくる。
 邪魔もの扱いしてたけど、何だかんだで救われてるのかもしれないな。一緒に登校する人がいるのも悪くない。


 すでに霊体になったユキの方が、周りの人間より生きている感じがするなんて、何だかおかしい気もするけど。


「じゃあさ、ふたりきりの夜間学校ってのはどう? 面白そうよ?」
「まさか。僕はごめんだよ。ユキ一人で行けばいい。仲間に出会えるかもよ」
「幽霊の仲間になんかなりたくないーーーっ!!」


 やっぱり幽霊嫌いなのか。同族なのに。




 ◇◆◇◆




 放課後、部室へと向かう。


 一応約束はしたんだから、ももかはきっと待っているだろう。
 少女マンガだと、こういう状況の女の子はベッドで「なんで私あんな約束しちゃったの~~っ!!」って枕に顔をうずめた後、約束破られた過去がフラッシュバックして「来て……くれるよね?」ってポツリと呟くのが定番だし、きっとももかもそうだ。


 そんなことを考えながら歩いていると、何か違和感に気づく。
 周り人の態度が変だ。


 すれ違いざまに僕の顔を見てたり、少し距離をとった場所から視線を感じたりする。
 人間の目は外から入った光を対象物へ向けて反射しているから、他人に目を見つめられると、目をライトで照らされたように感じるという。
 それが来ているのだ。


 ユキも気づいているらしく「ねぇ、みんなレイくんを見てるけど、ひょっとしてモテ期?」とからかってくる。


 しかし、理由が思い浮かばない。
 寝癖もないしボタンもかけ違えてないしファスナーもちゃんと閉まっている。
 後ろに幽霊がついている点を除けば文句はないはずだ。


 違和感と共に部室へたどり着く。今日は掃除がないので早めについたと思ったら、ももかが既に来ていた。


 昨日はふわふわの髪の毛を揺らしてピョコピョコ歩く感じだったのが、今日は塩をかけたみたいに大人しい。
 所在無さげに目を振る仕草と相まって、まるで迷子みたいに見える。


「やっぱり――あれはどう考えても脈アリね。もう少しで落とせるかも」


 そんな様子を見て、ユキがいやらしそうな目を向ける。
 全く、どうして女の子って何でも恋愛に結び付けたがるんだろう。友達関係でさえ難しいのに、恋愛に発展するわけないじゃないか。


「そんなわけないよ。だいだい、どうやってももかを落とすのさ。
 ユキ、今までラッキースケベしかやってないでしょ。そんなんで人を好きになるの?」
「なるわよ。認知的不協和理論って言ってね、人間は矛盾した状況に陥ると、自分を納得させる理屈を考え出すの。
 入部テストで恥ずかしい言葉を叫ばせると辞める人が少なくなる、という実験もあるわ。入部した人は『あんな恥ずかしいことまでして入ったんだから、この部が好きに違いない』と思ったのよ」
「それがどう関係があるの?」
「つまり、エッチなことって恋人同士でしかしないでしょ。
 だからラッキースケベを体験すると『こんなにエッチなことをしてるんだから、この人と恋仲に違いない』って勘違いしてしまうの!」
「その理屈だと、援助交際とか風俗とかは恋人関係になってないとおかしいんじゃ?」
「あれはお金を貰ってエッチしてるんでしょ。『こんなにエッチなことをしてるのは、お金を貰ってるからだ』って思うだけよ」
「その理屈だと、僕も『こんなにエッチなことをしてるのは、ユキが裏で怪しいことをやってるからだ』って思うだけじゃ……」
「ももかちゃんは違うでしょ。告白は女の子からしたほうが成功率高いんだから、ももかちゃんに不協和を仕掛けるのは当然よ」


 ユキの屁理屈が長々と続き、反論が難しくなってきた。


 屁理屈は根本的に間違っているが、部分的には正しい。
 そして、話というのは往々にして部分がクローズアップされるものなのだ。根本に立ち返ると話の流れを切ることになる。


 僕は仕方なく議論を諦めて、別の話をする。


「ユキの作戦はともかく、ももかはただ待ちくたびれてるだけだと思うよ」


 そう言うと、頬をぷくっと膨らませながら睨んでくる。


「もうっ! 女の子の気持ちがわからないと、将来苦労するわよ」


 ニートに将来がどうこうなんて言われたくない。
 そう思いつつ、僕はももかの方へ近づいた。


「よかった~、来てくれたんだね」


 ももかは、とろけそうな笑顔で歓迎してくれた。


「来るっていったんだから、そりゃ来るよ」
「うぅ……もう来ないかと思ったよ」


 ももかが慌てた手つきで、握っていた鍵を穴に入れる。
 回そうとすると、扉がガタガタと音を立てた。


「あっ……あれ?」


 どうやら鍵が開かないらしい。回す方向が逆だったとか、ユキが邪魔をしていたとか考えられるけど、どっちも違うようだ。


「あっ……これ自転車の鍵だった!」
「……なんで間違えるの?」


「うーん……と」などとつぶやきながら、上着のポケット、スカートのポケット、鞄、靴、髪留めなど、あちこち探してようやく内ポケットから鍵が出てきた。


「良かった。見つかった~」


 ももかの取り出した鍵を見る。確かに形は似てるけど、キーホルダーが全然違うぞ。どうやって間違えてるんだろう……。幽霊より謎が多い子だな。


 中に入ると、以前と同じ、微かな埃っぽさを含んだ甘い空気に包まれる。
 僕らは、入り口付近にある、古そうな机の前に並んだ椅子に座った。


「ごめんね。今週はみんな掃除当番だから、もうちょっと待ってね」
「いいよ。待つから」


 ……そういえば、部員の人数を訊いてなかったな。幽霊部員ばかりって言ってたから、2,3人くらいかな。
 そんなことを考えていると、ももかが隣で、消え入りそうな声で呟いた。


「あの……昨日のことはナイショにしてね」
「うん、いいけど。どうして?」


 訊いてから気づいたけど「幽霊を退治しに行った」なんて知れたら笑いものになるからだよね。
 ――あ、ひょっとしてさっきみんなに見られてたのって、そのせいなのかな? 
 幽霊を信じている変な人達と思われているのかもしれない。


「うぅ……恥ずかしいから」


 ももかは頬を染め、少しうつむき加減に言う。昨日の堂々とした態度が嘘みたいだ。
 でも、自分しか知らないももかの一面がある、というのは心地良い。


「うん。秘密にしようか」


 正直、僕は秘密を守るのは苦手だ。口には出さないけど、顔には出やすいタイプだからだ。
 コンビニで立ち読みしてても、すぐに顔がにやけてしまう。
 こんなに気軽に約束しちゃって大丈夫かな……。


「ねぇ、れいくんはここに来る途中、誰かに何かされなかった?」


 さっきと変わって、少し真剣な表情になる。


「何かって、何?」
「良くない噂話を聞いたとか、誰かにものを投げられたとか」
「別にないけど……ひょっとしてももかは何かされたの?」


 僕がそう言うと、ももかは驚いたような表情を見せて否定する。


「そうじゃないよ。ただ、れいくんのことが心配だったから」
「ありがとう。けど、僕は別に大丈夫。仲間はずれにされるほど友達いないし」


 悲しい事実で笑いをとったつもりだったが、ももかは曖昧な笑みを浮かべてぽつりとつぶやいた。


「わたしたちの活動って、どこか変なの」
「そんなことないさ。他の部活だって、どこか変だよ。同じところをぐるぐる回ったり、意味のない叫び声を上げたりしてね。
 それに、人を判断する基準は様々なのに、1つの側面を取り上げて問題視するのはおかしい」


 部活の正しいあり方なんて決められない。
 教育の効果は数十年単位で見なければわからないことばかりだ。


 それなのに「本当の部活とは」などと無意味なことを考え、健全な精神がうんたらかんたらと言い出す。
 彼らには哲学がないのだ。だから本質的問題を見ることができない。


「ありがとう」


 ももかは数秒の沈黙のあと、僕の数歩前へ進んでくるっと回る。
 あどけない笑顔がそこにあった。


「じゃ、さっそく入部テストだね」
「どんなテスト?」
「手を広げて、中指と薬指を曲げて、人差し指と小指をくっつけるの」


 うーむ……簡単だと思ったけど、やってみるとかなり難しい。
 もっと指が長ければくっつくかもしれない。霊感のある人って背が高いのかな? あまり関係ないと思うけど。


「ちなみに私は出来るよ、ほら」


 ももかが得意げに手を見せてくれる。確かに、人差し指と小指のアーチがかかっていた。ももかの指は僕より少し小さいのに……。
 左手の人差し指と右手の小指をくっつけているユキは無視だ。


「へぇ、すごいね」


 柔らかい指が珍しくて、僕はついももかの指を掴んでしまう。


「きゃっ」
「あ、ごめん!」


 驚いて手を引っ込める。ももかは、触られた部分を治癒するかのように逆の手で包み込み、ぼんやりと見つめている。
 ええと……どうしよう……。


「それ以上ももかに近づくな! このヘンタイっ!」


 ドカッ!!
 二人の甘い雰囲気に怒号が突き刺さったことを知覚する間もなく、後頭部に衝撃。為す術もなく、僕はうつ伏せに倒れてしまった。


「いててて……何が起こったんだ……」


 痛みに耐えながら目を開けると、真っ赤に染まったももかの顔がなぜか目の前にあった。艶のある唇が、光って見える。
 ……どうやら倒れるときにももかを巻き込んで、押し倒す格好になってしまったようだ。


「な、何やってんのよこのっ!」


 怒号の主が追撃を加えられ、今度は僕だけがふっとばされる。
「良かった。ももかを巻き込まなくて」と思ったのも束の間、すぐに壁にぶつかった衝撃が伝わってくる。


 ユキが側に寄って、心配そうに頭を撫でてくれているが、触られると余計に痛い。


「あんたね! 最近ももかにちょっかいだしてるのは」


 薄ら目で声の方を見ると、殺気立った視線とぶつかり、思わずたじろいでしまう。


 声の主は、なかなかの美人だった。
 すらりと伸びた長身に映える長いダブルポニーテール(要するにツインテ)、整った顔立ちに鎮座する大きな瞳。
 その瞳が鋭い光線を放っていることを除けば、いつまでも見ていたいと思わせる容姿だ。


「ももかから聞いたわ。透視ができる変態男に付きまとわれてるって!
 さっきも、能力を利用して、ももかのこと触ろうとしてたでしょ!」


 は?
 どうやらあらぬ誤解を受けているらしい。だが、怒涛の剣幕に押されているのか、うまく体が動かない。
 女の子相手なのに、少し情けない。
 僕はももかが誤解を解いてくれることを祈った。


「あ、愛樹ちゃん……それは誤解だって……」
「いいのよ、ももか。今まで気づいてあげられなくてゴメン」


 愛樹という名の少女は、ももかを抱き寄せて頭を撫でた。
 ……なんか絵になるな。女神様が廃墟で佇む少女を慈しんでいるかのようだ。


「違うよ。私はただ『幽霊が見える人がいる』って言っただけだよ~」
「そんな人いるわけないでしょ。男なんて女の下着を見ることしか考えてないに決まってるんだから。ももかは楽観的すぎるのよ」


 二人のテンポの速さについていけず、傍観する格好になってしまう。スポンジ脳同士の会話は振れ幅が大きい。片方はスカスカで、もう片方は狂牛と、正反対だからだ。


「うぅ……愛樹ちゃんはすぐに下着の話になるよね……」
「そ、そんなわけないでしょ! どうして私が下着の話ばかりするの?」
「君が普段、そういうことを考えてるからじゃないの?」


 愛樹が少し狼狽えているので、僕も攻めに便乗する。


「なっ……?! そ、そんなわけないでしょ! バッカじゃないの?!」


 至近距離まで詰め寄って罵声を浴びせられる。


「ももか、早くこの歩く猥褻物をつまみ出しましょう。ウチの部に入りたがる男は、幽霊の話を悪用してエロいことするヤツらばっかりなのよ。
 この前の心霊写真撮影会のこと、忘れちゃったの? それとも、ああいう写真を撮られるのが趣味なわけ?」
「う……た、確かにそうだけど……でも、れいくんはそんな人じゃないと思う」


 愛樹の説得にももかがたじろいでいる。どうやら愛樹の言っていることは間違いではないらしい。
 確かに、ももかはかわいいけど、隙があるんだよね。狙う男子が多いのも頷ける。
 あと、心霊写真撮影会の内容も気になる。できれば写真を見てみたい。


「詐欺師は見た目を着飾るものなのよ。羽織ゴロはとっとと帰りなさい!」
「だめだよ。私が呼んだんだから」
「……へ? 呼んだ?」


 暴力少女の手が緩んだ。いいぞももか、もっとやれ。


「幽霊部に入ってもらおうと思って……友達は多いほうが楽しいから」
「友達ねぇ……」


 愛樹が髪をなびかせながら僕の方を睨む。
 僕はとりあえず、宥めるためにできる限りの笑顔で手を降ってみる。


「胡散臭いから却下」


 う……面と向かって言われると凹むなぁ。確かにあんまり良い顔ではないけど。


「言っとくけど……私はアンタみたいな変態は絶対にももかの友達として認めないからっ!」


 愛樹が至近距離まで詰め寄って罵声を浴びせてくる。
 間近で大声を出すもんだから、耳が痛む。誰か助けに来てくれないか。




 ◇◆◇◆




「……ほぅ。お前たち、そういう関係だったのか」


  勝ち誇ったような声と共に、部室の奥のドアが開けられる。


 そこから出てきたのは、女王様みたいな雰囲気の女の子だった。
 愛樹よりも高そうな背をボリュームのあるウェーブのかかった髪が覆い、第一ボタンを開けられた胸元は他のボタンを弾き飛ばしてしまいそうなほどの存在感がある。


「あっ……千聖、それは誤解……」


 千聖という少女が登場するやいなや、愛樹は借りてきた猫みたいに大人しくなった。
 千聖さんの校章の色から察するに上級生なので、遠慮しているのだろう。


 愛樹はさっきまで力一杯振り上げていた手を、顔の前で必死に横に振っている。……結構かわいいとこもあるんだな。


「誤解? どこがどう誤解だったんだ?」
「わ、私とコイツがイイ関係になってるってことよ」


 声を震わせて必死に弁解する愛樹に対して、千聖さんは微笑を絶やさずに追及する。


「ほぅ。私は『部活仲間という関係だったんだな』と言おうとしただけで、恋愛関係だとは一言も言ってないぞ」
「な……ななな……」


 トリックに囚われた愛樹が、顔を赤くしている。
 それにしても、そんな技があるのか。今度使ってみようかな。


「な、の次は何だい?」
「なんでもない! それに、私も恋愛関係だなんて一言も言ってない!」
「なら初めからそういえばいいじゃないか」


 愛樹が「くっ……」と、言葉に詰まった。どうやら、この千聖さんという人を敵に回すのは死を意味するらしい。
 しかも死をもたらす手段は公開処刑だ。それならさくっと殺してもらいたい。


「ちなみに私は、恋愛は大歓迎だ。部活内恋愛は内部抗争を起こす恐れもあるが、少しぐらいスリルがあったほうが面白いからな」
「だから違うって!」


 肩で息をしながら必死に弁解する


「ふ……ふたりとも喧嘩はやめて……」


 ももかがか細い声で訴える。


「ところで、そこの少年は何者だ? 愛樹の愛人でないなら、ももかのか?」
「え……そ、そんなっ! 私には勿体無いよ~」


 真っ赤になってでぶんぶん顔を振る。なんか、この部は初々しいなぁ……


「ふむ。なら私が貰ってもいいのだな」
「うぅ……それはちょっと……。あ、そう言えばちぃちゃんはもう付き合ってる人がいるんじゃ……」


 なるほど。性格は悪そうだけど、外見はいいから付き合ってる人はいるのかもね。


「あぁ、あれは使い魔だ」
「また使い魔作ってるの? そんなことしてるから性悪女って思われんのよ」
「暴力女よりはかわいいだろ?」


 愛樹が拳をわなわなと震わせている。気にしてるのかな。


「冗談はさておき……」


 千聖さんが僕の方へ振り返る。そう言えば僕、いつまで壁にもたれて座ってるんだろう。なかなか立つきっかけが掴めないんだよな。


「君はどういう人間なんだ」


 いきなり重い質問をぶつけられて、圧迫面接を受けている気分になった。
 何か面白い答えを要求しているのかもしれないが、僕にはそんなスキルはない。


「僕はももかに誘われてきたんですけど」
「それは嬉しい。我が部はちょうど男手を募集していたところだ」


 ……幽霊部に男手って要るのだろうか。


「最近、愛樹の暴力はエスカレートする一方だからな。私は言葉で抑えるくらいしか出来ないし、ももかが宥めても効かなくて困ってたんだ」
「……人を暴れ牛みたいに言うの止めてくれない?」


 僕は迫力に押されて一歩も動けなかったんだけど……まぁ不意をつかれなければ抑えられるかもしれない。


「わかりました。全力をつくします」
「尽くすなっ!」


 愛樹から視線のレーザービームが飛んでくるが無視して仁王立ちする。よし、ようやく立てた。


「では、君達を歓迎しよう」


 千聖さんは、僕にふんわりとした笑顔を向けてくる。
 急に女の子っぽい表情を魅せられてドキッとする。そして、隣のユキを一瞥した……ように見えた。


「君たち……って?」


 心臓の音を聞きながら、恐る恐るたずねる。もしかしてこの人、「見えてる」?


「もちろん、愛樹と玲の関係をだよ」
「だから違うって言ってるでしょ!!」


 愛樹が騒ぐ声を遠くに聞きながら、僕は千聖さんに対する警戒心を強くした。



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