魔法の世界で新たな人生を~捨てられた人生のやり直し~

天羽睦月

第25話 抽選結果と美桜のプレゼント


「で、出た! 何番!? 何番の玉なの!?」

美桜が身を乗り出して出た玉の番号を見ようとすると、態勢を崩しそうになってしまう。

「おっと、危ない。 気を付けてね」

出雲が美桜の身体を支えて起こすと、ありがとうと美桜が言う。出雲は大丈夫だよと言い、美桜に抽選で出た玉を見ようと言う。すると、出た番号とは当てはまらない人たちが悲鳴を上げていた。

「外れた! 何でだよ!」

一人の男性が言うと、女性も外れたと叫び、周囲の人たちがせっかくのチャンスがと肩を落としていた。そして美桜と出雲が前に進んで出た玉を見ると、美桜がその場で固まった。

「は、外れた……え、でも……一番って……出雲?」

一番という声を聞いて出雲は手に持っている番号札を見ると一番と書かれていた。

「い、一番……俺が一番です!」

出雲が叫ぶと、若い男性店員がこちらにどうぞと出雲を呼んだ。

「では番号札を確認いたします」

そう言われて出雲は手荷物番号札を手渡す。すると、手渡した店員が確認しましたと言って、ハンドベルを鳴らした。

「こちらのお客様が当たりです! おめでとうございます!」

出雲におめでとうと言った店員は、限定フィギュアを袋に入れて出雲に手渡す。そして、こちら三万円になりますと言われた。

「三万円!? そんなにするの!?」

出雲が驚いていると、美桜が横から出てきて超限定品だからねと言った。

「お金ある?」

美桜がそう聞くと出雲は一瞬考え込んでしまった。

「よし、買います! これ三万円です!」

出雲はズボンのポケットから長方形の黒い両手幅で収まる大きさの財布を取り出し、そこから三万円を若い店員に手渡した。

「これでお願いします!」

出雲は笑顔でお金を渡すと、若い店員はありがとうございますと言ってフィギュアを出雲に渡す。

「これが美桜が欲しかったフィギュア……」

出雲がそのフィギュアをマジマジと見ると、静かに頷いた。

「美桜にあげるよ」

そう言いながら美桜にフィギュアを渡す。しかし、美桜はそれを受取ろうとはしなかった。出雲は美桜が欲しがっていたものではなかったのかと疑問に思うが、美桜は出雲が手に入れたものだからと言ってくる。

「俺のものだとしても、美桜に受け取ってほしいから渡すんだ。 受け取ってほしい」

出雲が身の目を真っ直ぐ見て思っていることを言うと、美桜は顔を紅くしながらそこまで言うからと言って出雲からフィギュアを受け取った。そんな二人の様子を見ていた周囲の人たちや店員たちは、惚気やがってと野次を飛ばしていた。

「ちょ、ち、違います! そんなんじゃありません! 行こう!」

美桜は恥ずかしくなって出雲の手を引いて階段を上って店から出ていった。そして駅の方向に走っていき、脇道にあるゲームセンターに入る。そこではクレーンゲームが主に置かれており、美桜は店内をクレーンゲームを見ながら歩いて行く。

「突然入ってどうしたの!? 美桜!」

出雲がそう呼ぶも、美桜は歩くことを止めない。何個かのクレーンゲームを見ると、美桜はこれにしようと呟いて一個のクレーンゲームの前に立つ。

「うおッ!? 突然止まってどうしたの!?」

出雲が突然止まった美桜の横で焦っていると、美桜がこれを取ってあげるとクレーンゲームを指さして出雲に言う。その美桜の指先の先を出雲が見ると、そこには魔法使いの剪定の主人公である三枝詩織の戦っている姿のフィギュアがあった。

「衣装も違うし限定品じゃないけど、同じ主人公のフィギュアを出雲にあげる!」

そう言う美桜の顔を見て、出雲は嬉しすぎて泣きそうになっていた。

「ちょっと!? 急に泣かないでよ! 私が泣かせたみたいじゃない!」

美桜は突然泣き出した出雲に戸惑いながらも、ハンカチを持っていた鞄から取り出して出雲も涙を拭った。その様子はカップルと言うよりは家族のように見える。

出雲はこの世界に来て人の温かさや、両親のように自身を捨てて邪魔者扱いをしない人もいるのだなと気づかない中で感じている部分はあった。その気持ちの代表格が美桜であった。突然現れた自身を家族のように扱ってくれて、家にも住まわせてくれた。それに蓮や琴音のような友達も出来た。

出雲は美桜に感謝してもしきれないのである。なので、美桜を守ることを決めたが今は美桜に守られてばかりなので、いつか命を懸けてでも美桜を守るために今は力を付けたいと考えている。

「ごめんね……突然泣いちゃって……美桜の気持ちが嬉しくてさ、心が温かくなって」

素直な気持ちを言う出雲に、美桜は馬鹿言ってないで早く取るわよと言う。一回百円なので、美桜は千円札を出雲に渡して両替してきてと言った。

「分かった! 待ってて!」

出雲がそう言って両替機に行くと、美桜は一人でクレーンゲームの前で待っている。すると美桜はその出雲の後姿を自然と眺めていた。

「え? 自然と出雲を見てた? 私が? 出雲はただの家族なのに……」

自身が出雲を見ていた理由が分からずに困惑していると、出雲がお待たせと言って両替したお金を持って小走りで美桜の側に戻って来た。

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