第9話 晩御飯

出雲はまだ一日目であるが、休憩をしながらトレーニングを終えることが出来た。初めはここまで動けるとは思えなかったが、動くことの面白さや身体を動かすことが気持ちいことを思い出せた気がした。

「何とか今日の訓練が終わった……この世界に来てから生きてる感じがするし、何より守りたい人や目標が出来たことが嬉しい！」

そのことを抱き起こしてくれた美桜に言うと、はいはいと受け流されるも生きる目標を持ってくれたことは嬉しいと言ってくれる。

「今日はもう終わりにして部屋に戻りましょう。 出雲の部屋を用意したから、これからはそこで暮らしてね」

そう言われ、出雲はありがとうと返した。美桜の右肩に自身の左腕を回して、美桜に連れられる形で屋敷に入っていく。

「出雲の部屋は私の部屋の隣にしたから、いつでも私の部屋に来ていいからね」

出雲はそれにありがとうと返すと、日用品とかはどうしようかと悩んでいる出雲に気がついたのか、美桜が日用品も用意しているわと言ってくれる。

「何から何までありがとう……」

出雲がそう言うと、美桜が当然よと言った。出雲はその後も他愛のない話をしていると、自室に辿り着いた。

「さ、ここが出雲の部屋よ。 部屋の大きさは私のより少し小さいけど、それでも大きい部類だと思うわ」

そう言われ、出雲は部屋の扉を開けた。 するとまず出雲の眼に入ったのは部屋の大きさである。美桜が言ったように美桜の部屋程大きくはないが、それでも十五畳はありそうな大きさである。

部屋の左奥の窓の側に茶色のラック付きベットが置いてあり、その横に茶色の長方形の小さなサイドテーブルが置いてあった。また、反対側の問いらから右側には長方形の長い棚や小さい本棚があり、その棚の横に小さな小棚を置き、その上に三十二型のテレビが置かれていた。そして、部屋の真ん中に小さな長方形の小机が置いてありその下に円形の黒色の座り心地がいいカーペットが敷かれていた。

「こ……これは……凄い！ 凄い部屋！」

出雲は用意された自室を見てこれが俺の部屋かと喜びと共に驚きもあった。今まで自分の身体がギリギリ入る程度の段ボールで作った自作の家とも呼べない雨が凌げる程度のものだったので、この与えられた部屋の豪華さに喜びと驚きを隠せなかった。

「美桜！ ありがとう！ こんな良い部屋で暮らせるなんて夢みたいだ！」

出雲がウキクキで部屋の中を歩き回ると、ベットにダイブした。

「美桜のベットほどじゃないけど、ふかふかで良いベットだ……」

出雲はそのまま布団を被る。すると、瞼が自然と落ちてきて寝そうになってしまう。美桜は寝息を立て始めた出雲の左頬を軽く叩いて寝るなと起こした。

「あ、ごめん！ 疲れすぎて寝ちゃった！」

そういう出雲に、美桜が晩御飯まだでしょうと言う。

「それにお風呂も入らないと！」

そう言われた出雲は自身の体臭を嗅ぐと、かなり汗臭かった。

「あ、俺こんなに汗臭かった……抱えてくれた時にかなり臭くなかった？」

出雲が恐る恐る聞いてみると、美桜が頑張って訓練したんだからそんなこと思うわけないじゃないと言ってくれた。

「ありがとう！ 美桜って優しいな。 俺の世界にも美桜みたいな女の子がいたらいいのに」

そう言う出雲に美桜が、いると思うけど私は出雲の側にいるでしょと言ってくれた。出雲はその言葉を聞いてありがとうと言った瞬間に、出雲のお腹が大きく鳴った。

「そんなにお腹空いてたのね。 今雫が作ってるから食堂に行きましょう！」

美桜がそう言って出雲をベットから出して右手を引いて食堂がある二階エリアに連れて行く。二階には使用人の部屋や食堂に職務室などがあり、美桜は出雲が来るまでは毎日食堂で三食を食べていた。

食事は使用人たちが作ってくれるのだが、今回は雫が作ると言って聞かなかったので晩御飯を作ることを美桜が許したのだった。出雲はどんな晩御飯なんだろうと楽しみにしていると、食堂前に懐かしい匂いが漂っていた。

「この匂いは……カレー！？」

出雲が懐かしい匂いを感じると、食堂の赤い扉を勢いよく開けるとそこには大きな長テーブルに雫が鍋を置いている姿が眼に映った。

「も、もう来たのですか！？ まだ準備は終わっていなのですが……」

雫が食堂に入ってきた出雲と美桜に言うと、出雲が手伝いますと言う。しかし、雫は疲れているだろうから席に座ってゆっくり待っててと言った。

「ありがとうございます！ 待ってます！」

出雲はそう言い、席に座って待つことにした。この食堂は使用人の五人を含めて出雲と合わせて八人が入っても有り余るほどに広さがあった。入り口から数十歩歩くと長方形の木で出来た長机があり、そこには二十席分の椅子が置いてある。そして入り口とは反対側に厨房があり、そこで調理などが出来るようになっている。