魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

ディナール王との謁見

 一方アルフレッドはというと、ハミルカルに連れられ“デナリウス宮殿”を訪れていた。白亜の壁と紺碧の屋根が美しい、ディナール王の住む大宮殿である。
 特に謁見の間は美しく、訪れる者を魅了する。一面を覆う白亜の装飾、細工の施されたガラス窓、そして窓から覗く滄海、その絢爛さは誰しも思わず息を飲むほどだ。

「アルフレッド王子、遠路はるばるよくきてくれたね」

 最奥部の玉座には、中年の男が腰かけていた。ゼノン王よりやや年上であろうか、彼こそ南ディナール王国を統べる国王“フラム王”である。

「この度はお招きいただき感謝します、お体の具合はいかがでしょうか?」

「少し痩せてしまったが、見ての通りすっかり元気だとも。そちらのゼノン王は元気にしているかい?」

「元気すぎて困っております、一度フラム王にガツンと叱っていただきたい」

「ハハハッ、相変わらずなようだね」

 冗談混じりの砕けた会話、互いに表層は穏やかなもの。緊張感や居心地の悪さは感じられない、実に和やかな謁見だ。

「さてアルフレッド王子、挨拶は終わりにして本題へ入るとしよう」

 フラム王の一言で、アルフレッドの表情は一気に強張る。先ほどまでとは打って変わり、ピリピリと張り詰めた空気だ。

「ただ挨拶にきたわけではないだろう? ガレウス邪教団について、何か動きでもあったかな?」

「いやはやお見通しですか、フラム王のおっしゃる通りです。ガレウス邪教団への対抗策として、南ディナール王国にとあるお願いをしたく参りました」

「ふむ、聞かせてもらおうかな」

 ロムルス王国と南ディナール王国は、対ガレウス邪教団の同盟を結んでいる。ガレウス邪教団に打ち勝つため、いよいよ本格的に動くということだろう。
 フラム王は黙ってアルフレッドの言葉を待つ、とその時──。

「到着なのじゃーっ!」

「なっ、ウルウル!?」

 バーンッと豪快に扉を開き、バタバタと乱入してくるウルリカ様。相変わらず容赦のない振る舞いだ、追いかけてきたクラスメイトの顔は真っ青である。

「申し訳ございません、早くウルリカ様も謝って──」

「じゃーんなのじゃ、水着を買ったからアルフレッドにも見せにきたのじゃ!」

 凍りついた空気などまるで無視、ウルリカ様はアルフレッドの元へと駆け寄る。買ったばかりの水着を片手に、空いた手で制服のボタンをグイグイ。

「妾にピッタリの水着なのじゃ、着てみるから待っておるのじゃ──」

「「「ダメーッ!」」」

「「「止めろっ!」」」

 あろうことかウルリカ様は、その場で水着に着替えようとしたのだ。シャツとスカートを脱ぎ捨ててしまったところで、女子三人にギュッと拘束される。同時に男子三人の手で、シャツとスカートを着させられ水着を没収。
 クラス一丸とはこのこと、実に見事な連携である。

「信じられませんわ、こんな所で服を脱ぐなんて!」

「でも水着を見せたいのじゃ……」

「ダメです、明日まで我慢です!」

 間一髪ウルリカ様を止めたところで、ようやくクリスティーナとエリッサも合流。

「はぁ……はぁ……、ごめんなさいお兄様……ウルリカを……止められなかった……。お兄様……どうして……鼻血……?」

「ああいや、この鼻血は気にしないでくれ! それより仕方ないさ、何せ相手はウルウルだからね!」

 アルフレッドの言う通り、はしゃぐウルリカ様を止められる者などそうはいないのだ。
 一方フラム王はというと、ハッと我に返りエリッサの元へ。

「エリッサよ、この騒ぎはなんだい?」

「ごめんなさいお父様、いきなりウルウルが走り出して……」

「ウルウルだって!?」

 フラム王はギョッと目を見開き、そのままウルリカ様の元へツカツカ。何事かと思いきや、ウルリカ様の手をガッと掴み──。

「ロムルス王国でエリッサを救ってくれた恩人だな! うおおおっ、可愛いエリッサを救ってくれて感謝する!」

 ボロボロと涙を流しながら、ウルリカ様の手をブンブン振り回す。そのまま勢いよく膝をつき、ビタンビタンと頭を上下に。もはや完全に奇行である、まるでノイマン学長のよう。

「愛しいエリッサを救ってくれた恩、私は一生忘れない! ありがとうっ、ありがとうぅ!」

 どうやらフラム王はゼノン王以上に親バカらしい、傍で見ていたエリッサは恥ずかしそうだ。
 騒然とする謁見の間、そこへ遅れてアンナマリアも合流する。

「お久しぶりですフラム王、お元気そうで何よりです」

「なっ、アルテミア様ではございませんか!」

 アンナマリアはニッコリ笑顔、完全に余所行きの表情だ。フラム王は大慌てで姿勢を正す、先ほどから忙しい王様である。

「まさかお父様、この子はアルテミア正教会の教主様!?」

「そうだエリッサ、このお方こそアルテミア正教会の教主様、アンナマリア・アルテミア様だ!」

「そんなっ、てっきりシャルロットのクラスメイトかと思っていたわ……」

 アンナマリアの正体に気づいていなかったらしく、エリッサも大慌てで姿勢を正す。二人の急な態度の変化に、ウルリカ様はキョトンと首を傾げて不思議そう。

「おや、二人はどうしたのじゃろうな?」

「南ディナール王国の国教はアルテミア正教会ですの、フラム王やエリッサも敬虔なアルテミア正教会の信者ですのよ」

「つまりアンナを崇めておるのか? なんじゃそれは、物好きな国なのじゃな」

 恐れ多すぎるウルリカ様の発言に、場の空気は氷点下まで凍りつく。一同絶句し静まり返る中、アンナマリアだけは柔らかな態度を崩さずにいた。

「まあまあウルリカさん、なんて酷いことを言うのでしょうか……」

「なんじゃその喋り方は、猫を被りすぎてて気持ち悪いのじゃ」

「またご冗談を、おほほほほ……」

「ガサツなアンナに丁寧な言葉は似合わないのじゃ」

「なっ、ガサツなのはウルリカの方っすよ!」

 被っていた猫は無惨に崩壊、アンナマリアは素を曝け出して大絶叫。勢いよくウルリカ様に掴みかかり、その場で子供のように取っ組み合いの大ゲンカだ。

「ア、アルテミア様? 一体どうなされたと──」

「うるさいっす! フラム君は黙ってるっす!」

「ひいぃ!?」

 アンナマリアに怒られてしまい、フラム王はションボリ悲しそう。その上アンナマリアの豹変っぷりに衝撃を受け、もはやまともな思考を保てていない。
 フラム王との謁見は大混乱、この後事態の収拾までに小一時間も要したという。

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