魔王様は学校にいきたい!
再生魔法
ラドックスの魔手を掴み取る、白く小さな救いの手。暗闇を裂いて現れる、最強無敵の魔王様。
「そこまでじゃ」
「なんだ貴様は──ぬわっ!?」
現れるや否やウルリカ様は、ポイッとラドックスを放り投げる。まるで小枝でも放るかのような軽々しい投擲だ。
「もう出てきてよいのじゃ」
「よし、いくよシャルロット!」
「はい、お兄様!」
救援へと駆けつけたのはウルリカ様だけではなかった。ウルリカ様の呼びかけに応じ、暗闇から飛び出すシャルロットとアルフレッド。
飛び出して数秒、アルフレッドは即座に状況を判断しエリッサを縛っていた麻縄を切り捨てる。僅かに遅れて飛び出したシャルロットは、よろけるエリッサをひっしと抱き締める。
「エリッサ!」
「シャルロ──」
「エリッサ、無事でよかったですわ!」
「──はうっ」
手加減なしの抱擁に思わず呻き声をあげるエリッサ。苦しそうにしながらも、その表情は嬉しそうだ。
「シャルロット、どうしてここに?」
「決まっていますわ、エリッサを助けにきましたのよ!」
「でも私は……その……。私は他国の人間なのよ、その上シャルロットに酷いことをしたわ」
「そんなこと関係ありませんわ、エリッサはワタクシの大切な友達ですもの!」
「シャルロット……ううぅ……」
シャルロットの真っ直ぐな言葉を受け、感極まったエリッサはボロボロと大粒の涙を流す。しかしすぐに冷静さを取り戻し、泣いている場合ではないと涙を拭う。
「あの子は?」
「魔王様ですわ」
「ま、魔王!?」
「ええ、ワタクシ達の強い味方ですわよ!」
一方のアルフレッドは、クリスティーナを抱き起こしたまま言葉を失っていた。
四肢は内出血で黒く変色し、顔は見る影もないほど腫れあがっている。血だまりの中で横たわる姿はあまりにも痛々しい。
「そんな……クリスティーナ……」
「……お……お兄様……?」
「クリスティーナ、しっかりするんだ!」
兄の声に反応したのか、クリスティーナは意識を取り戻す。残された僅かな力で弱々しく唇を震わせる。
「う……ごめんなさい……、私の力では……守れなかった……」
「いいんだよクリスティーナ、謝らなくていい! むしろ謝るのは私の方だ、遅くなってごめんよ」
「お兄……様……」
エリッサを庇い暴力に晒され続けたクリスティーナは、とっくに限界を超えていた。吹けば飛ぶような命の火、助けることなど不可能に思える。
しかし忘れてはならない、救援へと駆けつけた不可能を可能にする存在を。
「クリスティーナは生きておるのじゃな?」
「辛うじて息はしている、だがこのままでは……」
「大丈夫じゃ、妾に任せておくのじゃ」
ニッコリと笑うウルリカ様、この世で最も頼もしい笑顔だ。
「いくのじゃ、第七階梯……再生魔法、デモニカ・ヒール」
第七階梯魔法、全ての魔法の最上位に位置する魔法の到達点。
溢れ出た膨大な魔力は光の粒子へと姿を変える。それは尊き癒しの輝き、瞬く再生の光。降り注ぐ光の粒子は、クリスティーナの傷を跡形もなく消し去る。
そして驚くべきはここから、光の粒子は洞窟を満たし傷ついた全ての者を癒したのである。エリッサはもちろんのこと、ロムルス王国の騎兵隊までも瞬時に全快させたのだ。
「ふむ、これで一安心じゃな!」
「これは……信じられない、まさに奇跡の光……っ」
はじめて目にするウルリカ様の力に、普段は冷静沈着なアルフレッドも唖然とせざるを得ない。
何はともあれクリスティーナの命は救われた、しかし依然として脅威は健在だ。
「クフフッ、これはこれは……」
暗闇の奥で静かに佇むラドックス。ウルリカ様を前にしてなお、焦りや恐れといった感情は見受けられない。
「ザナロワ達の噂していた怪物、その正体は幼き少女でしたか」
「ふーむ」
「外見は幼き少女でも有する力は驚異的、実に興味深い存在です。ところで一つ質問です、どのようにして私達の居場所を突き止めたのでしょう?」
問いかけるラドックスに対してウルリカ様はうわの空、というよりラドックスのことなど眼中にない様子。
「うむ、他に生きておる者はおらんの」
「私のことを無視するな、質問に答えろ!」
「ふむ? なんじゃったかの?」
キョトンと首を傾げるウルリカ様、なんともぞんざいな態度である。
「どのようにして私達の居場所を突き止めたのかと聞いている!」
「コウモリの目を通じて、ずっとお主を見ておったのじゃ」
「は? コウモリ?」
「コウモリの目は妾の目と通じておるのじゃ、コウモリ達は妾の眷属じゃからな」
「な、ならばどうやってこの場所へ現れた?」
「暗闇と暗闇を時空間魔法で繋げたのじゃ、暗闇も妾の眷属じゃからな」
「暗闇? 眷属? 貴様は一体なにを言っている?」
「なんじゃお主、理解力が乏しいのではないか?」
「くっ……」
ウルリカ様の言葉はラドックスを大いに困惑させる、とはいえラドックスの困惑も無理はない。なにしろウルリカ様の力はあらゆる生物にとって規格外なものである、完全に理解する方が難しいのだ。
「く……クフフフッ! 噂に違わぬ怪物のようです、相手にとって不足なし。私は土の魔人ラドックス、邪神ガレウス様にお仕えする最上位魔人の一角です。さあ名乗りなさ──」
「ふぁ……」
「あっ、欠伸だと!?」
「お主の話は長くて退屈なのじゃ」
「退屈!? 言わせておけば貴様!」
「ふーむ、ところでお主は誰じゃったかな?」
「……っ」
挑発しているようにさえ感じる自由奔放なウルリカ様の言動。ことごとく蔑ろにされ、ラドックスは怒りのあまり言葉すら出ない。
「まあ誰でもよいのじゃ! 退屈しておったからの、憂さ晴らしに少し遊んでやるのじゃ!」
怒りに燃えるラドックス、八重歯を覗かせ好戦的に笑うウルリカ様。
魔王と魔人、闘争の幕が切って落とされる
「そこまでじゃ」
「なんだ貴様は──ぬわっ!?」
現れるや否やウルリカ様は、ポイッとラドックスを放り投げる。まるで小枝でも放るかのような軽々しい投擲だ。
「もう出てきてよいのじゃ」
「よし、いくよシャルロット!」
「はい、お兄様!」
救援へと駆けつけたのはウルリカ様だけではなかった。ウルリカ様の呼びかけに応じ、暗闇から飛び出すシャルロットとアルフレッド。
飛び出して数秒、アルフレッドは即座に状況を判断しエリッサを縛っていた麻縄を切り捨てる。僅かに遅れて飛び出したシャルロットは、よろけるエリッサをひっしと抱き締める。
「エリッサ!」
「シャルロ──」
「エリッサ、無事でよかったですわ!」
「──はうっ」
手加減なしの抱擁に思わず呻き声をあげるエリッサ。苦しそうにしながらも、その表情は嬉しそうだ。
「シャルロット、どうしてここに?」
「決まっていますわ、エリッサを助けにきましたのよ!」
「でも私は……その……。私は他国の人間なのよ、その上シャルロットに酷いことをしたわ」
「そんなこと関係ありませんわ、エリッサはワタクシの大切な友達ですもの!」
「シャルロット……ううぅ……」
シャルロットの真っ直ぐな言葉を受け、感極まったエリッサはボロボロと大粒の涙を流す。しかしすぐに冷静さを取り戻し、泣いている場合ではないと涙を拭う。
「あの子は?」
「魔王様ですわ」
「ま、魔王!?」
「ええ、ワタクシ達の強い味方ですわよ!」
一方のアルフレッドは、クリスティーナを抱き起こしたまま言葉を失っていた。
四肢は内出血で黒く変色し、顔は見る影もないほど腫れあがっている。血だまりの中で横たわる姿はあまりにも痛々しい。
「そんな……クリスティーナ……」
「……お……お兄様……?」
「クリスティーナ、しっかりするんだ!」
兄の声に反応したのか、クリスティーナは意識を取り戻す。残された僅かな力で弱々しく唇を震わせる。
「う……ごめんなさい……、私の力では……守れなかった……」
「いいんだよクリスティーナ、謝らなくていい! むしろ謝るのは私の方だ、遅くなってごめんよ」
「お兄……様……」
エリッサを庇い暴力に晒され続けたクリスティーナは、とっくに限界を超えていた。吹けば飛ぶような命の火、助けることなど不可能に思える。
しかし忘れてはならない、救援へと駆けつけた不可能を可能にする存在を。
「クリスティーナは生きておるのじゃな?」
「辛うじて息はしている、だがこのままでは……」
「大丈夫じゃ、妾に任せておくのじゃ」
ニッコリと笑うウルリカ様、この世で最も頼もしい笑顔だ。
「いくのじゃ、第七階梯……再生魔法、デモニカ・ヒール」
第七階梯魔法、全ての魔法の最上位に位置する魔法の到達点。
溢れ出た膨大な魔力は光の粒子へと姿を変える。それは尊き癒しの輝き、瞬く再生の光。降り注ぐ光の粒子は、クリスティーナの傷を跡形もなく消し去る。
そして驚くべきはここから、光の粒子は洞窟を満たし傷ついた全ての者を癒したのである。エリッサはもちろんのこと、ロムルス王国の騎兵隊までも瞬時に全快させたのだ。
「ふむ、これで一安心じゃな!」
「これは……信じられない、まさに奇跡の光……っ」
はじめて目にするウルリカ様の力に、普段は冷静沈着なアルフレッドも唖然とせざるを得ない。
何はともあれクリスティーナの命は救われた、しかし依然として脅威は健在だ。
「クフフッ、これはこれは……」
暗闇の奥で静かに佇むラドックス。ウルリカ様を前にしてなお、焦りや恐れといった感情は見受けられない。
「ザナロワ達の噂していた怪物、その正体は幼き少女でしたか」
「ふーむ」
「外見は幼き少女でも有する力は驚異的、実に興味深い存在です。ところで一つ質問です、どのようにして私達の居場所を突き止めたのでしょう?」
問いかけるラドックスに対してウルリカ様はうわの空、というよりラドックスのことなど眼中にない様子。
「うむ、他に生きておる者はおらんの」
「私のことを無視するな、質問に答えろ!」
「ふむ? なんじゃったかの?」
キョトンと首を傾げるウルリカ様、なんともぞんざいな態度である。
「どのようにして私達の居場所を突き止めたのかと聞いている!」
「コウモリの目を通じて、ずっとお主を見ておったのじゃ」
「は? コウモリ?」
「コウモリの目は妾の目と通じておるのじゃ、コウモリ達は妾の眷属じゃからな」
「な、ならばどうやってこの場所へ現れた?」
「暗闇と暗闇を時空間魔法で繋げたのじゃ、暗闇も妾の眷属じゃからな」
「暗闇? 眷属? 貴様は一体なにを言っている?」
「なんじゃお主、理解力が乏しいのではないか?」
「くっ……」
ウルリカ様の言葉はラドックスを大いに困惑させる、とはいえラドックスの困惑も無理はない。なにしろウルリカ様の力はあらゆる生物にとって規格外なものである、完全に理解する方が難しいのだ。
「く……クフフフッ! 噂に違わぬ怪物のようです、相手にとって不足なし。私は土の魔人ラドックス、邪神ガレウス様にお仕えする最上位魔人の一角です。さあ名乗りなさ──」
「ふぁ……」
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