魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

キマイラ

 大蛇はシュルシュルと身を縮めヴァーミリアの左腕へと戻っていき、獅子の頭部は渦を巻くようにヴァーミリアの右肩へと潜っていく。
 あまりにも現実離れした光景に、エリザベスは立ちあがろうとした姿勢のまま固まっていた。

「なんだ今のは……」

「すんすん……あなたはシャルロットちゃんのお姉さんかしらぁ?」

「あ、ああ……」

「一つ聞いてもいいかしらぁ、この騒ぎの大元は──」

「「「「「クエエエッ!」」」」」

 イビルバードを撃退して一安心かと思いきや、再び響き渡る甲高い鳴き声。
 見あげるとイビルバードの群れが、隙間なく空を埋め尽くしていた。

「なっ、なんて数ですの!?」

「大変です、早く逃げましょう」

「ダメです、間にあいません!」

 我先にと急降下してくるイビルバードの群れ。今さら走って逃げたとしても逃げ切れはしないだろう。

「お店が閉まっちゃった原因は、あのイビルバードのせいみたいねぇ」
 
 そんな危機的状況にもかかわらず、相変わらず余裕な態度を崩さないヴァーミリア。ウルリカ様を地面におろすと、左右に大きく両腕を広げる。

「食らい尽くしてあげるわぁ」

 それは目を疑う光景だった。
 ヴァーミリアの両腕は無数の触手へと分裂し、鞭のようにしなり襲いくるイビルバードを次々と打ち落としていく。
 触手に打たれたイビルバードは胴体をゴッソリ抉り取られている、まるで獣に食い千切られたかのような傷跡だ。

「クエエ──グエッ!?」

「どんどん食べちゃうわよぉ」

「ググエ……グエェ……」

「まだまだお腹ペコペコだわぁ」

 イビルバードの群れは瞬く間に数を減らしていく。魔界に君臨する大公爵の前では、数の力など無意味ということなのであろう。

「あらぁ、もうお終いなのかしらぁ?」

「ク……クァ……」

「ご馳走様、さて」

 イビルバードを全滅させたヴァーミリアは、触手の一本を器用に操りエリザベスを抱き起こしてあげる。

「大丈夫かしらぁ?」

「わ、私は大丈夫だ」

 声をかけられたことで、エリザベスはようやく正気を取り戻す。

「ところで貴女は一体?」

「私のことはどうでもいいのよぉ、それより一つ聞いてもいいかしらぁ」

「なんだ?」

「この騒ぎの大元は、さっきのイビルバードなのかしらぁ?」

「騒ぎの大元はサンダーバードだ、通りの先で大暴れしている」

「サンダーバードねぇ、それはご馳走ねぇ……」

 通りの先へと視線を送り、ゴクリと喉を鳴らすヴァーミリア。その仕草は獲物を前にした獣そのものである。

「サンダーバードを片づければ、お店は再開するかしらぁ?」

「そうだな、騒ぎが収まれば再開すると思うが……」

「分かったわぁ、どうもありがとう」

 ヴァーミリアはシュルシュルと触手を縮め、続いて巨大な翼へと変化させる。
 コウモリの翼に酷似した、飛膜の張られた黒い翼だ。

「ぐすん……妾のお菓子屋さん……」

「待っててねウルリカ様ぁ、すぐに騒ぎが収めてくるからぁ」

「まさかサンダーバードの元へいくつもりか!?」

「もちろんよぉ、早くこの騒ぎを収めて休日を楽しみたいものぉ。それに……」

「それに……なんだ?」

「私のウルリカ様を泣かせるなんて、絶対に許せないわぁ。食い千切ってやらないと気が済まないわよぉ!」

 そして怒れる大公爵は、サンダーバード目掛けて飛び去るのであった。

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