魔王様は学校にいきたい!
大変!
サンサンと降り注ぐ日の光、やんわりと空を覆うかすみ雲。
平和な朝のロームルス学園に、元気いっぱいな声が響いていた。
「今日も学校じゃ! 楽しい楽しい学校じゃ!」
軽やかな足取りで教室塔へと向かうウルリカ様。両手にはオリヴィアお手製のクッキーを握りしめて、朝からとっても幸せそうだ。
「ウルリカ様? 落ちついて食べないと喉に詰まらせてしまいますよ?」
「平気なのじゃ、クッキーは喉に詰まらんのじゃ! なぜなら美味しいからなのじゃ! ポリポリ……」
クッキーは喉に詰まらないという謎の主張に、オリヴィアは「はい?」と声をあげて呆れてしまう。
一方のウルリカ様はというと、ほっぺたをクッキーでいっぱいにしながら教室塔へ向かっていく。すると前を歩く一人の男子生徒を発見する。
「シャルルなのじゃ! おはようなのじゃ!」
前を歩いていたのは、同じ下級クラスのシャルルである。ウルリカ様の声に振り返ると、沈んだ声で挨拶を返す。
「あぁ……ウルリカ嬢にオリヴィア嬢、おはよう……」
「うむ? なにやらシャルルは元気がなさそうじゃな?」
「いつも元気なシャルル様ですのに、今日はお疲れのように見えますね」
「もしやクッキー不足かのう? 妾のクッキーを食べるかのう?」
「いや……クッキー不足ではなくてだな……最近は実家のことで忙しいのだ……」
以前より少しやつれ気味なシャルルは、「はぁ……」と大きなため息をこぼす。
「確かシャルル様のご実家は、王都の端にある小さな教会でしたよね。教会でなにかあったのですか?」
「あぁ……実は先日から王都ロームルスに、教会の教主様がいらしているんだ。普段は総本山にいる教主様が王都にいらしたということで、王都中の教会は大騒ぎなんだ」
「教主様のお話は私も知っています、町中の噂になってますよね。もしかしてシャルル様のご実家も、その大騒ぎに巻き込まれているのですか?」
「そうなんだ……教主様におもてなしをするため、王都中の教会から人手を集めているんだ。それに父も招集されて……そういうわけで自分は、父の代理で実家の教会を任されてしまったんだ」
「急に教会を任されるだなんて、それは大変そうですね……」
再び「はぁ……」とため息をこぼすシャルル。教会での仕事に追われているのだろう、すっかり疲れ切った様子である。
「シャルルは偉いのじゃ! 父の代わりに教会を守る頑張り屋さんなのじゃ! ポリポリ……」
そう言いながらウルリカ様は、シャルルの頭を撫でようとしてグッと背を伸ばす。ところが背伸びをした拍子に、フラリと足をもつれさせてしまう。ほっぺたいっぱいにクッキーを頬張ったままフラフラとよろけてしまい、そして──。
「むむぐっ!?」
「ウルリカ様!?」
「大変だ! よろけた拍子にクッキーを喉に詰まらせてしまったようだ!」
「むぐぅーっ!」
クッキーを喉に詰まらせてしまい、バタバタを暴れ回るウルリカ様。オリヴィアとシャルルは二人がかりで、なんとかウルリカ様を抑え込む。そしてクッキーを吐き出させるために背中を叩こうとした、その時──。
「大変ですわ! 大変ですわーっ!!」
大声をあげながら走ってくるのは、同じ下級クラスのシャルロットである。走るシャルロットの真上を見ると、なにやら巨大な影がバサバサと羽ばたいている。
「グルオオォッ!」
「きゃあぁっ! ド……ドラゴンですぅ!?」
「ドラゴン!? なぜ学園内にドラゴンがいるのだ!?」
真紅のうろこに覆われた巨大な体。ギラリと光る鋭い爪と牙。突如として現れたドラゴンに、オリヴィアとシャルルは大慌てだ。
「はぁ……はぁ……助けてくださいですの……。教室塔に向かっていたら……突然ドラゴンに襲われましたの……」
「くっ……このままドラゴンを放っておくわけにはいかない、しかし自分達だけでどうにか出来る相手か!?」
「むぐぅっ! むぐぅっ!」
「大変です! ウルリカ様の顔が真っ青です!」
「そうだった! 先にウルリカ嬢をなんとかしなければ!」
上空には真紅の巨大なドラゴン、地上には真っ青な顔のウルリカ様。あっちもこっちも大騒ぎの大混乱である。そんな中さらに──。
「大変だー! 大変だぞー!」
聞き覚えのある声の主は、同じ下級クラスのベッポである。どこにいるのかと探してみれば、なんとドラゴンの背中からヒョッコリと顔を覗かせているではないか。
「「「ベッポォ!?」」」
「むぐんっ!? ぷはぁ!」
思いがけないベッポの登場に、大声をあげて驚くオリヴィアとシャルロット、そしてシャルルの三人。三人の大きな声に驚いたウルリカ様は、喉に詰まらせていたクッキーを飲み込んでしまう。
「はぁ……はぁ……死ぬところだったのじゃ……」
クッキーを飲み込んで、ホッと一安心のウルリカ様。舞い降りてくるドラゴンを前に、まったく一安心ではないオリヴィア、シャルロット、シャルルの三人。
そんな中ドラゴンの背中から、ベッポはピョンと飛び降りてくる。
「ちょっとベッポ! このドラゴンは一体なんですの!?」
「このドラゴンはですね……って、今はそれよりも一大事です!」
「「「「一大事?」」」」
「ナターシャが……ナターシャが誘拐された!」
「ナターシャが誘拐……って、なんじゃとー!?」
大混乱に次ぐ大混乱、新たな事件の幕開けである。
平和な朝のロームルス学園に、元気いっぱいな声が響いていた。
「今日も学校じゃ! 楽しい楽しい学校じゃ!」
軽やかな足取りで教室塔へと向かうウルリカ様。両手にはオリヴィアお手製のクッキーを握りしめて、朝からとっても幸せそうだ。
「ウルリカ様? 落ちついて食べないと喉に詰まらせてしまいますよ?」
「平気なのじゃ、クッキーは喉に詰まらんのじゃ! なぜなら美味しいからなのじゃ! ポリポリ……」
クッキーは喉に詰まらないという謎の主張に、オリヴィアは「はい?」と声をあげて呆れてしまう。
一方のウルリカ様はというと、ほっぺたをクッキーでいっぱいにしながら教室塔へ向かっていく。すると前を歩く一人の男子生徒を発見する。
「シャルルなのじゃ! おはようなのじゃ!」
前を歩いていたのは、同じ下級クラスのシャルルである。ウルリカ様の声に振り返ると、沈んだ声で挨拶を返す。
「あぁ……ウルリカ嬢にオリヴィア嬢、おはよう……」
「うむ? なにやらシャルルは元気がなさそうじゃな?」
「いつも元気なシャルル様ですのに、今日はお疲れのように見えますね」
「もしやクッキー不足かのう? 妾のクッキーを食べるかのう?」
「いや……クッキー不足ではなくてだな……最近は実家のことで忙しいのだ……」
以前より少しやつれ気味なシャルルは、「はぁ……」と大きなため息をこぼす。
「確かシャルル様のご実家は、王都の端にある小さな教会でしたよね。教会でなにかあったのですか?」
「あぁ……実は先日から王都ロームルスに、教会の教主様がいらしているんだ。普段は総本山にいる教主様が王都にいらしたということで、王都中の教会は大騒ぎなんだ」
「教主様のお話は私も知っています、町中の噂になってますよね。もしかしてシャルル様のご実家も、その大騒ぎに巻き込まれているのですか?」
「そうなんだ……教主様におもてなしをするため、王都中の教会から人手を集めているんだ。それに父も招集されて……そういうわけで自分は、父の代理で実家の教会を任されてしまったんだ」
「急に教会を任されるだなんて、それは大変そうですね……」
再び「はぁ……」とため息をこぼすシャルル。教会での仕事に追われているのだろう、すっかり疲れ切った様子である。
「シャルルは偉いのじゃ! 父の代わりに教会を守る頑張り屋さんなのじゃ! ポリポリ……」
そう言いながらウルリカ様は、シャルルの頭を撫でようとしてグッと背を伸ばす。ところが背伸びをした拍子に、フラリと足をもつれさせてしまう。ほっぺたいっぱいにクッキーを頬張ったままフラフラとよろけてしまい、そして──。
「むむぐっ!?」
「ウルリカ様!?」
「大変だ! よろけた拍子にクッキーを喉に詰まらせてしまったようだ!」
「むぐぅーっ!」
クッキーを喉に詰まらせてしまい、バタバタを暴れ回るウルリカ様。オリヴィアとシャルルは二人がかりで、なんとかウルリカ様を抑え込む。そしてクッキーを吐き出させるために背中を叩こうとした、その時──。
「大変ですわ! 大変ですわーっ!!」
大声をあげながら走ってくるのは、同じ下級クラスのシャルロットである。走るシャルロットの真上を見ると、なにやら巨大な影がバサバサと羽ばたいている。
「グルオオォッ!」
「きゃあぁっ! ド……ドラゴンですぅ!?」
「ドラゴン!? なぜ学園内にドラゴンがいるのだ!?」
真紅のうろこに覆われた巨大な体。ギラリと光る鋭い爪と牙。突如として現れたドラゴンに、オリヴィアとシャルルは大慌てだ。
「はぁ……はぁ……助けてくださいですの……。教室塔に向かっていたら……突然ドラゴンに襲われましたの……」
「くっ……このままドラゴンを放っておくわけにはいかない、しかし自分達だけでどうにか出来る相手か!?」
「むぐぅっ! むぐぅっ!」
「大変です! ウルリカ様の顔が真っ青です!」
「そうだった! 先にウルリカ嬢をなんとかしなければ!」
上空には真紅の巨大なドラゴン、地上には真っ青な顔のウルリカ様。あっちもこっちも大騒ぎの大混乱である。そんな中さらに──。
「大変だー! 大変だぞー!」
聞き覚えのある声の主は、同じ下級クラスのベッポである。どこにいるのかと探してみれば、なんとドラゴンの背中からヒョッコリと顔を覗かせているではないか。
「「「ベッポォ!?」」」
「むぐんっ!? ぷはぁ!」
思いがけないベッポの登場に、大声をあげて驚くオリヴィアとシャルロット、そしてシャルルの三人。三人の大きな声に驚いたウルリカ様は、喉に詰まらせていたクッキーを飲み込んでしまう。
「はぁ……はぁ……死ぬところだったのじゃ……」
クッキーを飲み込んで、ホッと一安心のウルリカ様。舞い降りてくるドラゴンを前に、まったく一安心ではないオリヴィア、シャルロット、シャルルの三人。
そんな中ドラゴンの背中から、ベッポはピョンと飛び降りてくる。
「ちょっとベッポ! このドラゴンは一体なんですの!?」
「このドラゴンはですね……って、今はそれよりも一大事です!」
「「「「一大事?」」」」
「ナターシャが……ナターシャが誘拐された!」
「ナターシャが誘拐……って、なんじゃとー!?」
大混乱に次ぐ大混乱、新たな事件の幕開けである。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
841
-
-
3
-
-
23252
-
-
39
-
-
768
-
-
11128
-
-
32
-
-
75
-
-
140
コメント