魔王様は学校にいきたい!
特別編 ~魔王と大公達の日常~
──これはまだウルリカ様が、魔界にいた頃のお話──
ここは魔王城。
魔界の中心に建つ、巨大な城である。
城の中心に位置する広い謁見の間には、六体の強大な魔物が集まっていた。ウルリカ様直属の、魔界を統べる大公達である。
「ゼーファード殿よ、緊急の要件とはなんだ?」
「ボクは研究で忙しいのですよ、急に呼び出されると困ります」
「私だって忙しいのよぉ? 本当に緊急の要件なんでしょうねぇ?」
どうやら大公達は、宰相ゼーファードから緊急で呼び出されたらしい。突然の呼び出しをくらって、エミリオやヴァーミリアはイライラと不満を口にしている。
「ふぅ……実はですね……」
深刻そうな表情を浮かべたゼーファードは、ゆっくりと重い口を開く。
「今朝から……ウルリカ様の元気がありません」
「「「「「ウルリカ様の元気がない!?」」」」」
ゼーファードの言葉を聞いて、慌てふためく大公達。動揺のあまり溢れ出た魔力は、魔王城をミシミシと軋ませるほどだ。
「ウルリカ様の元気がないだなんて、一大事だよ!」
「ドウイウコトダ! 説明セヨ!!」
「ちょっ……私も事情までは分かっていないのですよ……」
一斉にゼーファードへと詰め寄る大公達。あまりの勢いと迫力にゼーファードはたじたじである。
そんな中近くの通路を、偶然ウルリカ様が通りかかる。下を向いてトボトボと歩く姿は、普段のウルリカ様とは別人のようだ。
「大変だわぁ! もの凄くトボトボと歩いてるわよぉ!!」
「落チ込ンデイル! ウルリカ様ハ間違イナク落チ込ンデイルゾ!!」
「なんとかしなくては! これは魔界の滅亡に繋がるかもしれん!!」
「アタイ達の力を結集させて、なんとしてもウルリカ様を元気にしなくちゃ!!」
「ゼーファードさん! 早く事情を聞いてきてください!!」
元気のなさそうなウルリカ様を見ただけで、大公達は右往左往の大騒ぎである。半狂乱の大公達に急かされて、ゼーファードは意を決してウルリカ様に事情を聞きにいく。
「あの……ウルリカ様……?」
「うむ? みんな揃って、一体どうしたのじゃ?」
「実はですね……元気のなさそうなウルリカ様を心配して集まっているのです。なにか悪いことでもありましたか? 我々で力になれることはありませんか?」
「なんと! それは心配をかけてしまったのじゃ!」
そう言ってウルリカ様はニコッと明るい笑顔を浮かべる。しかしその笑顔は、どこか陰りのある暗い笑顔だ。
「実はじゃの……楽しみにしていた“魔王城ケーキ”を誰かに食べられてしまったのじゃ……」
「「「「「「魔王城ケーキ?」」」」」」
「魔王城の形をした、特製のケーキだったのじゃ……凄く楽しみにしておったのじゃ……」
ションボリとするウルリカ様を見て、大公達はとても心配そうだ。そんな中ゼーファードは一人、ダラダラと額から冷汗を流している。ガタガタと体を震わせて、明らかにただ事ではな様子である。
「……ゼーファードさん?」
「ギクリッ……」
「……おや? ゼーファードさんの口元にクリームが……」
「バカな! 口についたクリームは綺麗に拭いたはず……はっ!?」
「なるほどぉ……ウルリカ様のケーキを食べた犯人はゼーファードなのねぇ?」
「ふむ? そうなのかの?」
「いえ……その……っ」
顔を真っ青に染めたゼーファードは、勢いよくビョンっと空中に飛びあがる。
「申し訳ございませんっ! ウルリカ様のケーキだとは知らなかったのですぅっ!!」
勢いよく飛びあがったゼーファードは、謝罪の言葉を口にしながら空中でクルクルと回転すると、そのままウルリカ様の足元にビターンッと土下座で着地する。
なんとも凄まじく勢いの乗った、全身全霊の見事な土下座である。
「食べてしまったのはゼファだったのじゃな!」
ガタガタと震えながら、ゴンゴンと床に頭を叩きつけるゼーファード。一方のウルリカ様はケロリとした様子で、大して怒ってはいないようだ。
ホッと一安心したのもつかの間、ゼーファードの背中に凄まじい魔力が圧しかかる。
「ウルリカ様ノ元気ガナイカラト……我々ヲ集メテオイテ……」
「犯人はゼーファードさんだったというわけですか……」
「ウルリカ様の大切なケーキを食べちゃうなんてねぇ……」
「ゼーファード殿……腹を切る覚悟は出来ているのだろうな……?」
宰相であるゼーファードは、魔界ではウルリカ様に次ぐ実力者だ。しかし大公達の怒りの魔力は、ゼーファードでさえ身の危険を感じるほど凄まじい。
「くうぅ……撤退!」
土下座の体勢から一瞬で起きあがったゼーファードは、脱兎のごとく謁見の間から飛び出していく。しかし大公達がゼーファードの逃走を許すはずはない。
「逃がすもんか! アタイの神器で消し炭にしてやるんだから!!」
「ゼーファードさんを捕らえます! 第七階梯……牢獄魔法──!」
「我ノ率イルドラゴン軍団デ、地ノ果テマデモ追イ詰メテヤルゾ!!」
こうして逃走したゼーファードを捕らえるべく、魔王城は大混乱に見舞われるのであった。
そしてこの数ヶ月後、ウルリカ様の「魔王も真祖も飽きたのじゃ!」という言葉とともに、魔界と人間界は更なる大混乱に見舞われることになる。
しかしそれは、また別のお話……。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
セリフの頭にキャラクター名を入れました。
「誰が喋っているか分からない!」という方は、以下から読んでみてください。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
──これはまだウルリカ様が、魔界にいた頃のお話──
ここは魔王城。
魔界の中心に建つ、巨大な城である。
城の中心に位置する広い謁見の間には、六体の強大な魔物が集まっていた。ウルリカ様直属の、魔界を統べる大公達である。
ジュウベエ「ゼーファード殿よ、緊急の要件とはなんだ?」
エミリオ「ボクは研究で忙しいのですよ、急に呼び出されると困ります」
ヴァーミリア「私だって忙しいのよぉ? 本当に緊急の要件なんでしょうねぇ?」
どうやら大公達は、宰相ゼーファードから緊急で呼び出されたらしい。突然の呼び出しをくらって、エミリオやヴァーミリアはイライラと不満を口にしている。
ゼーファード「ふぅ……実はですね……」
深刻そうな表情を浮かべたゼーファードは、ゆっくりと重い口を開く。
ゼーファード「今朝から……ウルリカ様の元気がありません」
ゼーファード以外の大公達「「「「「ウルリカ様の元気がない!?」」」」」
ゼーファードの言葉を聞いて、慌てふためく大公達。動揺のあまり溢れ出た魔力は、魔王城をミシミシと軋ませるほどだ。
ミーア「ウルリカ様の元気がないだなんて、一大事だよ!」
ドラルグ「ドウイウコトダ! 説明セヨ!!」
ゼーファード「ちょっ……私も事情までは分かっていないのですよ……」
一斉にゼーファードへと詰め寄る大公達。あまりの勢いと迫力にゼーファードはたじたじである。
そんな中近くの通路を、偶然ウルリカ様が通りかかる。下を向いてトボトボと歩く姿は、普段のウルリカ様とは別人のようだ。
ヴァーミリア「大変だわぁ! もの凄くトボトボと歩いてるわよぉ!!」
ドラルグ「落チ込ンデイル! ウルリカ様ハ間違イナク落チ込ンデイルゾ!!」
ジュウベエ「なんとかしなくては! これは魔界の滅亡に繋がるかもしれん!!」
ミーア「アタイ達の力を結集させて、なんとしてもウルリカ様を元気にしなくちゃ!!」
エミリオ「ゼーファードさん! 早く事情を聞いてきてください!!」
元気のなさそうなウルリカ様を見ただけで、大公達は右往左往の大騒ぎである。半狂乱の大公達に急かされて、ゼーファードは意を決してウルリカ様に事情を聞きにいく。
ゼーファード「あの……ウルリカ様……?」
ウルリカ様「うむ? みんな揃って、一体どうしたのじゃ?」
ゼーファード「実はですね……元気のなさそうなウルリカ様を心配して集まっているのです。なにか悪いことでもありましたか? 我々で力になれることはありませんか?」
ウルリカ様「なんと! それは心配をかけてしまったのじゃ!」
そう言ってウルリカ様はニコッと明るい笑顔を浮かべる。しかしその笑顔は、どこか陰りのある暗い笑顔だ。
ウルリカ様「実はじゃの……楽しみにしていた“魔王城ケーキ”を誰かに食べられてしまったのじゃ……」
大公達「「「「「「魔王城ケーキ?」」」」」」
ウルリカ様「魔王城の形をした、特製のケーキだったのじゃ……凄く楽しみにしておったのじゃ……」
ションボリとするウルリカ様を見て、大公達はとても心配そうだ。そんな中ゼーファードは一人、ダラダラと額から冷汗を流している。ガタガタと体を震わせて、明らかにただ事ではな様子である。
エミリオ「……ゼーファードさん?」
ゼーファード「ギクリッ……」
エミリオ「……おや? ゼーファードさんの口元にクリームが……」
ゼーファード「バカな! 口についたクリームは綺麗に拭いたはず……はっ!?」
ヴァーミリア「なるほどぉ……ウルリカ様のケーキを食べた犯人はゼーファードなのねぇ?」
ウルリカ様「ふむ? そうなのかの?」
ゼーファード「いえ……その……っ」
顔を真っ青に染めたゼーファードは、勢いよくビョンっと空中に飛びあがる。
ゼーファード「申し訳ございませんっ! ウルリカ様のケーキだとは知らなかったのですぅっ!!」
勢いよく飛びあがったゼーファードは、謝罪の言葉を口にしながら空中でクルクルと回転すると、そのままウルリカ様の足元にビターンッと土下座で着地する。
なんとも凄まじく勢いの乗った、全身全霊の見事な土下座である。
ウルリカ様「食べてしまったのはゼファだったのじゃな!」
ガタガタと震えながら、ゴンゴンと床に頭を叩きつけるゼーファード。一方のウルリカ様はケロリとした様子で、大して怒ってはいないようだ。
ホッと一安心したのもつかの間、ゼーファードの背中に凄まじい魔力が圧しかかる。
ドラルグ「ウルリカ様ノ元気ガナイカラト……我々ヲ集メテオイテ……」
エミリオ「犯人はゼーファードさんだったというわけですか……」
ヴァーミリア「ウルリカ様の大切なケーキを食べちゃうなんてねぇ……」
ジュウベエ「ゼーファード殿……腹を切る覚悟は出来ているのだろうな……?」
宰相であるゼーファードは、魔界ではウルリカ様に次ぐ実力者だ。しかし大公達の怒りの魔力は、ゼーファードでさえ身の危険を感じるほど凄まじい。
ゼーファード「くうぅ……撤退!」
土下座の体勢から一瞬で起きあがったゼーファードは、脱兎のごとく謁見の間から飛び出していく。しかし大公達がゼーファードの逃走を許すはずはない。
ミーア「逃がすもんか! アタイの神器で消し炭にしてやるんだから!!」
エミリオ「ゼーファードさんを捕らえます! 第七階梯……牢獄魔法──!」
ドラルグ「我ノ率イルドラゴン軍団デ、地ノ果テマデモ追イ詰メテヤルゾ!!」
こうして逃走したゼーファードを捕らえるべく、魔王城は大混乱に見舞われるのであった。
そしてこの数ヶ月後、ウルリカ様の「魔王も真祖も飽きたのじゃ!」という言葉とともに、魔界と人間界は更なる大混乱に見舞われることになる。
しかしそれは、また別のお話……。
ここは魔王城。
魔界の中心に建つ、巨大な城である。
城の中心に位置する広い謁見の間には、六体の強大な魔物が集まっていた。ウルリカ様直属の、魔界を統べる大公達である。
「ゼーファード殿よ、緊急の要件とはなんだ?」
「ボクは研究で忙しいのですよ、急に呼び出されると困ります」
「私だって忙しいのよぉ? 本当に緊急の要件なんでしょうねぇ?」
どうやら大公達は、宰相ゼーファードから緊急で呼び出されたらしい。突然の呼び出しをくらって、エミリオやヴァーミリアはイライラと不満を口にしている。
「ふぅ……実はですね……」
深刻そうな表情を浮かべたゼーファードは、ゆっくりと重い口を開く。
「今朝から……ウルリカ様の元気がありません」
「「「「「ウルリカ様の元気がない!?」」」」」
ゼーファードの言葉を聞いて、慌てふためく大公達。動揺のあまり溢れ出た魔力は、魔王城をミシミシと軋ませるほどだ。
「ウルリカ様の元気がないだなんて、一大事だよ!」
「ドウイウコトダ! 説明セヨ!!」
「ちょっ……私も事情までは分かっていないのですよ……」
一斉にゼーファードへと詰め寄る大公達。あまりの勢いと迫力にゼーファードはたじたじである。
そんな中近くの通路を、偶然ウルリカ様が通りかかる。下を向いてトボトボと歩く姿は、普段のウルリカ様とは別人のようだ。
「大変だわぁ! もの凄くトボトボと歩いてるわよぉ!!」
「落チ込ンデイル! ウルリカ様ハ間違イナク落チ込ンデイルゾ!!」
「なんとかしなくては! これは魔界の滅亡に繋がるかもしれん!!」
「アタイ達の力を結集させて、なんとしてもウルリカ様を元気にしなくちゃ!!」
「ゼーファードさん! 早く事情を聞いてきてください!!」
元気のなさそうなウルリカ様を見ただけで、大公達は右往左往の大騒ぎである。半狂乱の大公達に急かされて、ゼーファードは意を決してウルリカ様に事情を聞きにいく。
「あの……ウルリカ様……?」
「うむ? みんな揃って、一体どうしたのじゃ?」
「実はですね……元気のなさそうなウルリカ様を心配して集まっているのです。なにか悪いことでもありましたか? 我々で力になれることはありませんか?」
「なんと! それは心配をかけてしまったのじゃ!」
そう言ってウルリカ様はニコッと明るい笑顔を浮かべる。しかしその笑顔は、どこか陰りのある暗い笑顔だ。
「実はじゃの……楽しみにしていた“魔王城ケーキ”を誰かに食べられてしまったのじゃ……」
「「「「「「魔王城ケーキ?」」」」」」
「魔王城の形をした、特製のケーキだったのじゃ……凄く楽しみにしておったのじゃ……」
ションボリとするウルリカ様を見て、大公達はとても心配そうだ。そんな中ゼーファードは一人、ダラダラと額から冷汗を流している。ガタガタと体を震わせて、明らかにただ事ではな様子である。
「……ゼーファードさん?」
「ギクリッ……」
「……おや? ゼーファードさんの口元にクリームが……」
「バカな! 口についたクリームは綺麗に拭いたはず……はっ!?」
「なるほどぉ……ウルリカ様のケーキを食べた犯人はゼーファードなのねぇ?」
「ふむ? そうなのかの?」
「いえ……その……っ」
顔を真っ青に染めたゼーファードは、勢いよくビョンっと空中に飛びあがる。
「申し訳ございませんっ! ウルリカ様のケーキだとは知らなかったのですぅっ!!」
勢いよく飛びあがったゼーファードは、謝罪の言葉を口にしながら空中でクルクルと回転すると、そのままウルリカ様の足元にビターンッと土下座で着地する。
なんとも凄まじく勢いの乗った、全身全霊の見事な土下座である。
「食べてしまったのはゼファだったのじゃな!」
ガタガタと震えながら、ゴンゴンと床に頭を叩きつけるゼーファード。一方のウルリカ様はケロリとした様子で、大して怒ってはいないようだ。
ホッと一安心したのもつかの間、ゼーファードの背中に凄まじい魔力が圧しかかる。
「ウルリカ様ノ元気ガナイカラト……我々ヲ集メテオイテ……」
「犯人はゼーファードさんだったというわけですか……」
「ウルリカ様の大切なケーキを食べちゃうなんてねぇ……」
「ゼーファード殿……腹を切る覚悟は出来ているのだろうな……?」
宰相であるゼーファードは、魔界ではウルリカ様に次ぐ実力者だ。しかし大公達の怒りの魔力は、ゼーファードでさえ身の危険を感じるほど凄まじい。
「くうぅ……撤退!」
土下座の体勢から一瞬で起きあがったゼーファードは、脱兎のごとく謁見の間から飛び出していく。しかし大公達がゼーファードの逃走を許すはずはない。
「逃がすもんか! アタイの神器で消し炭にしてやるんだから!!」
「ゼーファードさんを捕らえます! 第七階梯……牢獄魔法──!」
「我ノ率イルドラゴン軍団デ、地ノ果テマデモ追イ詰メテヤルゾ!!」
こうして逃走したゼーファードを捕らえるべく、魔王城は大混乱に見舞われるのであった。
そしてこの数ヶ月後、ウルリカ様の「魔王も真祖も飽きたのじゃ!」という言葉とともに、魔界と人間界は更なる大混乱に見舞われることになる。
しかしそれは、また別のお話……。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
セリフの頭にキャラクター名を入れました。
「誰が喋っているか分からない!」という方は、以下から読んでみてください。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
──これはまだウルリカ様が、魔界にいた頃のお話──
ここは魔王城。
魔界の中心に建つ、巨大な城である。
城の中心に位置する広い謁見の間には、六体の強大な魔物が集まっていた。ウルリカ様直属の、魔界を統べる大公達である。
ジュウベエ「ゼーファード殿よ、緊急の要件とはなんだ?」
エミリオ「ボクは研究で忙しいのですよ、急に呼び出されると困ります」
ヴァーミリア「私だって忙しいのよぉ? 本当に緊急の要件なんでしょうねぇ?」
どうやら大公達は、宰相ゼーファードから緊急で呼び出されたらしい。突然の呼び出しをくらって、エミリオやヴァーミリアはイライラと不満を口にしている。
ゼーファード「ふぅ……実はですね……」
深刻そうな表情を浮かべたゼーファードは、ゆっくりと重い口を開く。
ゼーファード「今朝から……ウルリカ様の元気がありません」
ゼーファード以外の大公達「「「「「ウルリカ様の元気がない!?」」」」」
ゼーファードの言葉を聞いて、慌てふためく大公達。動揺のあまり溢れ出た魔力は、魔王城をミシミシと軋ませるほどだ。
ミーア「ウルリカ様の元気がないだなんて、一大事だよ!」
ドラルグ「ドウイウコトダ! 説明セヨ!!」
ゼーファード「ちょっ……私も事情までは分かっていないのですよ……」
一斉にゼーファードへと詰め寄る大公達。あまりの勢いと迫力にゼーファードはたじたじである。
そんな中近くの通路を、偶然ウルリカ様が通りかかる。下を向いてトボトボと歩く姿は、普段のウルリカ様とは別人のようだ。
ヴァーミリア「大変だわぁ! もの凄くトボトボと歩いてるわよぉ!!」
ドラルグ「落チ込ンデイル! ウルリカ様ハ間違イナク落チ込ンデイルゾ!!」
ジュウベエ「なんとかしなくては! これは魔界の滅亡に繋がるかもしれん!!」
ミーア「アタイ達の力を結集させて、なんとしてもウルリカ様を元気にしなくちゃ!!」
エミリオ「ゼーファードさん! 早く事情を聞いてきてください!!」
元気のなさそうなウルリカ様を見ただけで、大公達は右往左往の大騒ぎである。半狂乱の大公達に急かされて、ゼーファードは意を決してウルリカ様に事情を聞きにいく。
ゼーファード「あの……ウルリカ様……?」
ウルリカ様「うむ? みんな揃って、一体どうしたのじゃ?」
ゼーファード「実はですね……元気のなさそうなウルリカ様を心配して集まっているのです。なにか悪いことでもありましたか? 我々で力になれることはありませんか?」
ウルリカ様「なんと! それは心配をかけてしまったのじゃ!」
そう言ってウルリカ様はニコッと明るい笑顔を浮かべる。しかしその笑顔は、どこか陰りのある暗い笑顔だ。
ウルリカ様「実はじゃの……楽しみにしていた“魔王城ケーキ”を誰かに食べられてしまったのじゃ……」
大公達「「「「「「魔王城ケーキ?」」」」」」
ウルリカ様「魔王城の形をした、特製のケーキだったのじゃ……凄く楽しみにしておったのじゃ……」
ションボリとするウルリカ様を見て、大公達はとても心配そうだ。そんな中ゼーファードは一人、ダラダラと額から冷汗を流している。ガタガタと体を震わせて、明らかにただ事ではな様子である。
エミリオ「……ゼーファードさん?」
ゼーファード「ギクリッ……」
エミリオ「……おや? ゼーファードさんの口元にクリームが……」
ゼーファード「バカな! 口についたクリームは綺麗に拭いたはず……はっ!?」
ヴァーミリア「なるほどぉ……ウルリカ様のケーキを食べた犯人はゼーファードなのねぇ?」
ウルリカ様「ふむ? そうなのかの?」
ゼーファード「いえ……その……っ」
顔を真っ青に染めたゼーファードは、勢いよくビョンっと空中に飛びあがる。
ゼーファード「申し訳ございませんっ! ウルリカ様のケーキだとは知らなかったのですぅっ!!」
勢いよく飛びあがったゼーファードは、謝罪の言葉を口にしながら空中でクルクルと回転すると、そのままウルリカ様の足元にビターンッと土下座で着地する。
なんとも凄まじく勢いの乗った、全身全霊の見事な土下座である。
ウルリカ様「食べてしまったのはゼファだったのじゃな!」
ガタガタと震えながら、ゴンゴンと床に頭を叩きつけるゼーファード。一方のウルリカ様はケロリとした様子で、大して怒ってはいないようだ。
ホッと一安心したのもつかの間、ゼーファードの背中に凄まじい魔力が圧しかかる。
ドラルグ「ウルリカ様ノ元気ガナイカラト……我々ヲ集メテオイテ……」
エミリオ「犯人はゼーファードさんだったというわけですか……」
ヴァーミリア「ウルリカ様の大切なケーキを食べちゃうなんてねぇ……」
ジュウベエ「ゼーファード殿……腹を切る覚悟は出来ているのだろうな……?」
宰相であるゼーファードは、魔界ではウルリカ様に次ぐ実力者だ。しかし大公達の怒りの魔力は、ゼーファードでさえ身の危険を感じるほど凄まじい。
ゼーファード「くうぅ……撤退!」
土下座の体勢から一瞬で起きあがったゼーファードは、脱兎のごとく謁見の間から飛び出していく。しかし大公達がゼーファードの逃走を許すはずはない。
ミーア「逃がすもんか! アタイの神器で消し炭にしてやるんだから!!」
エミリオ「ゼーファードさんを捕らえます! 第七階梯……牢獄魔法──!」
ドラルグ「我ノ率イルドラゴン軍団デ、地ノ果テマデモ追イ詰メテヤルゾ!!」
こうして逃走したゼーファードを捕らえるべく、魔王城は大混乱に見舞われるのであった。
そしてこの数ヶ月後、ウルリカ様の「魔王も真祖も飽きたのじゃ!」という言葉とともに、魔界と人間界は更なる大混乱に見舞われることになる。
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