魔王様は学校にいきたい!
ご褒美なのじゃ!
一方こちらはロームルス城、ゼノン王の執務室。
ヴィクトリア女王と娘達が抱きしめあっている頃、ウルリカ様とジュウベエは、広い執務室でゆったりくつろいでいた。
「ポリポリ……このクッキーはとても美味しいのじゃ……ポリポリ……」
「幸せそうなウルリカ様を見られて、俺も幸せです」
一心不乱にクッキーを食べるウルリカ様を、ジュウベエは蕩けるような目で見つめ続けている。可愛らしいウルリカ様の仕草に、デレデレとだらけきった表情だ。
和やかな雰囲気の執務室、そこにゼノン王がやってくる。
「すまない、待たせたな」
「うむ! そろそろクッキーを食べ終わるところだったのじゃ、丁度よかったのじゃ!」
「山盛りのクッキーはどこへ?」と呆れるゼノン王。コホンと咳払いをすると、気をとり直してソファに腰かける。
「まずはウルリカ、そしてジュウベエ殿、改めて礼を言わせてくれ。娘達を助けてくれて、心から感謝する」
「こちらこそ礼を言いたい、おかげで人間界に来られたのだ。これでまたウルリカ様と一緒にいられる……クックック……」
ニヤニヤと至福の笑みを浮かべながら、ジュウベエは満足そうに頷いている。そんなジュウベエに、ウルリカ様は絶望の一言を告げる。
「ジュウベエの役目は終わったのじゃ、もう魔界に帰ってよいのじゃ」
「そっ、そんなっ!!」
ガーンッと絶望の表情を浮かべながら、ジュウベエはガックリと膝をついてうなだれてしまう。そんなジュウベエの頭を、ウルリカ様はポンポンと撫でてあげる。
「分かった分かったなのじゃ。ならば一日だけ、妾と一緒に遊ぼうなのじゃ!」
「たったの一日だけ……しかし一日、ウルリカ様と一緒に遊べるのか! よしっ!!」
こぶしを振りあげて喜ぶジュウベエ。振られたこぶしの風圧で、積みあがっていた書類はバラバラと散らばり、窓ガラスにはヒビが走る。ちょっとした動作ですら規格外の破壊力だ。
ジュウベエの破壊力に冷や汗を流しながら、ゼノン王はウルリカ様の方へと顔を向ける。
「あー……ところでウルリカよ、今回は無理を言ってすまなかったな」
「うむ! 学校に行けなかったのは辛かったのじゃ……しかし、友達の頼みは断れぬのじゃ!」
「ウルリカ様、頼みとは一体なんのことですか?」
ジュウベエの疑問に、ゼノン王は順を追って答えていく。
「今回の魔物討伐において、ウルリカには出来るだけ手を出さぬように頼んでおいたのだ。人間側の動きを見守り、危なくなった時のみ手助けをするように依頼していた」
「全員集まって作戦会議をしたあとに、こそっと頼まれたのじゃ」
「その作戦会議で俺は、各勢力で協力するよう指示を出した。しかし騎士団も学園も、協力しないのは分かっていたからな……」
ゼノン王は作戦会議の様子を思い浮かべる。お互いに相手の話を聞かず、もめまくる会議の様子だ。
「騎士団も学園も、一度痛い目にあわなければ身にしみないと感じたのでな、それで一計を案じたのだ。あえて危機に陥らせて、そのうえでウルリカに見守ってもらった」
「ゼノンは策士じゃな! 安心して命の危機に陥れる場面など、なかなかないからの」
「ウルリカには本当に感謝している、おかげで随分と成果を得られた」
「うむ!」
ウルリカ様とゼノン王は、視線をあわせてニヤリと笑みを浮かべる。魔王と国王、なにか通じるものがあるのだろうか。
「騎士団と学園の課題は見えた。エリザベスの考えを改めさせることも出来た。なによりシャルロットの成長は素晴らしかった! そして一人の被害も出ていない。流石はウルリカ、完璧だな!」
「まあの!」
自信満々にトンッと胸を叩くウルリカ様。そして、おもむろに立ちあがると、ソワソワとした様子でゼノン王の元へ近づいていく。
「ところでゼノンよ、約束のものは……?」
「あぁ、ちゃんと準備している」
そう言うとゼノン王は、懐から一枚の書状をとり出してウルリカ様に手渡す。王家の印の押された、豪華な装飾の書状だ。
「約束の報酬、“王都のおかし屋さん、永久に食べ放題礼状”だ」
「これじゃ! 待っておったのじゃ!!」
「これをおかし屋に見せれば、いつでもどこでも食べ放題だ。無理をきいてくれた礼だからな、好きに使ってくれ」
目をキラキラとさせながら、ウルリカ様は“王都のおかし屋さん、永久に食べ放題礼状”を受けとる。
「さて、今日はもう遅い。おかしは明日にでも──」
「よし、ジュウベエよ! 早速食べに行くのじゃ!!」
「いや待てウルリカ、そろそろ店も閉まる時間だ──」
「大丈夫なのじゃ! 時空間魔法で跳んでいけば一瞬なのじゃ!!」
興奮して立ちあがったウルリカ様は、ジュウベエの首根っこに手をかける。自分の倍以上も身長のあるジュウベエを片手で引っ張ると、全身からとてつもない魔力を迸らせる。
「ウルリカ様!? お待ちを──」
「時空間魔法じゃ! 待っておるのじゃ、おかし達よ!!」
発動した時空間魔法の余波で、本棚は崩れ扉は吹き飛び、窓は粉々に砕け散る。魔法陣に飲み込まれて、消え去っていくウルリカ様とジュウベエ。あとに残ったのはボロボロになった執務室と、本に埋まったゼノン王だけだ。
「はぁ……やはりウルリカには敵わないな……」
深いため息をつくゼノン王。
このあと、王都中のおかし屋さんで、おかしを食い荒らす謎の少女と謎の大男の噂が広まるのだが、それはまた別のお話である。
ヴィクトリア女王と娘達が抱きしめあっている頃、ウルリカ様とジュウベエは、広い執務室でゆったりくつろいでいた。
「ポリポリ……このクッキーはとても美味しいのじゃ……ポリポリ……」
「幸せそうなウルリカ様を見られて、俺も幸せです」
一心不乱にクッキーを食べるウルリカ様を、ジュウベエは蕩けるような目で見つめ続けている。可愛らしいウルリカ様の仕草に、デレデレとだらけきった表情だ。
和やかな雰囲気の執務室、そこにゼノン王がやってくる。
「すまない、待たせたな」
「うむ! そろそろクッキーを食べ終わるところだったのじゃ、丁度よかったのじゃ!」
「山盛りのクッキーはどこへ?」と呆れるゼノン王。コホンと咳払いをすると、気をとり直してソファに腰かける。
「まずはウルリカ、そしてジュウベエ殿、改めて礼を言わせてくれ。娘達を助けてくれて、心から感謝する」
「こちらこそ礼を言いたい、おかげで人間界に来られたのだ。これでまたウルリカ様と一緒にいられる……クックック……」
ニヤニヤと至福の笑みを浮かべながら、ジュウベエは満足そうに頷いている。そんなジュウベエに、ウルリカ様は絶望の一言を告げる。
「ジュウベエの役目は終わったのじゃ、もう魔界に帰ってよいのじゃ」
「そっ、そんなっ!!」
ガーンッと絶望の表情を浮かべながら、ジュウベエはガックリと膝をついてうなだれてしまう。そんなジュウベエの頭を、ウルリカ様はポンポンと撫でてあげる。
「分かった分かったなのじゃ。ならば一日だけ、妾と一緒に遊ぼうなのじゃ!」
「たったの一日だけ……しかし一日、ウルリカ様と一緒に遊べるのか! よしっ!!」
こぶしを振りあげて喜ぶジュウベエ。振られたこぶしの風圧で、積みあがっていた書類はバラバラと散らばり、窓ガラスにはヒビが走る。ちょっとした動作ですら規格外の破壊力だ。
ジュウベエの破壊力に冷や汗を流しながら、ゼノン王はウルリカ様の方へと顔を向ける。
「あー……ところでウルリカよ、今回は無理を言ってすまなかったな」
「うむ! 学校に行けなかったのは辛かったのじゃ……しかし、友達の頼みは断れぬのじゃ!」
「ウルリカ様、頼みとは一体なんのことですか?」
ジュウベエの疑問に、ゼノン王は順を追って答えていく。
「今回の魔物討伐において、ウルリカには出来るだけ手を出さぬように頼んでおいたのだ。人間側の動きを見守り、危なくなった時のみ手助けをするように依頼していた」
「全員集まって作戦会議をしたあとに、こそっと頼まれたのじゃ」
「その作戦会議で俺は、各勢力で協力するよう指示を出した。しかし騎士団も学園も、協力しないのは分かっていたからな……」
ゼノン王は作戦会議の様子を思い浮かべる。お互いに相手の話を聞かず、もめまくる会議の様子だ。
「騎士団も学園も、一度痛い目にあわなければ身にしみないと感じたのでな、それで一計を案じたのだ。あえて危機に陥らせて、そのうえでウルリカに見守ってもらった」
「ゼノンは策士じゃな! 安心して命の危機に陥れる場面など、なかなかないからの」
「ウルリカには本当に感謝している、おかげで随分と成果を得られた」
「うむ!」
ウルリカ様とゼノン王は、視線をあわせてニヤリと笑みを浮かべる。魔王と国王、なにか通じるものがあるのだろうか。
「騎士団と学園の課題は見えた。エリザベスの考えを改めさせることも出来た。なによりシャルロットの成長は素晴らしかった! そして一人の被害も出ていない。流石はウルリカ、完璧だな!」
「まあの!」
自信満々にトンッと胸を叩くウルリカ様。そして、おもむろに立ちあがると、ソワソワとした様子でゼノン王の元へ近づいていく。
「ところでゼノンよ、約束のものは……?」
「あぁ、ちゃんと準備している」
そう言うとゼノン王は、懐から一枚の書状をとり出してウルリカ様に手渡す。王家の印の押された、豪華な装飾の書状だ。
「約束の報酬、“王都のおかし屋さん、永久に食べ放題礼状”だ」
「これじゃ! 待っておったのじゃ!!」
「これをおかし屋に見せれば、いつでもどこでも食べ放題だ。無理をきいてくれた礼だからな、好きに使ってくれ」
目をキラキラとさせながら、ウルリカ様は“王都のおかし屋さん、永久に食べ放題礼状”を受けとる。
「さて、今日はもう遅い。おかしは明日にでも──」
「よし、ジュウベエよ! 早速食べに行くのじゃ!!」
「いや待てウルリカ、そろそろ店も閉まる時間だ──」
「大丈夫なのじゃ! 時空間魔法で跳んでいけば一瞬なのじゃ!!」
興奮して立ちあがったウルリカ様は、ジュウベエの首根っこに手をかける。自分の倍以上も身長のあるジュウベエを片手で引っ張ると、全身からとてつもない魔力を迸らせる。
「ウルリカ様!? お待ちを──」
「時空間魔法じゃ! 待っておるのじゃ、おかし達よ!!」
発動した時空間魔法の余波で、本棚は崩れ扉は吹き飛び、窓は粉々に砕け散る。魔法陣に飲み込まれて、消え去っていくウルリカ様とジュウベエ。あとに残ったのはボロボロになった執務室と、本に埋まったゼノン王だけだ。
「はぁ……やはりウルリカには敵わないな……」
深いため息をつくゼノン王。
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