魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

第二王女

「聖騎士エリザベス! ここに推参!!」

 突如として会議室に飛び込んできた、エリザベスと名乗る女騎士。
 全員の注目が集まる中、さらに二人の騎士が会議室へと入ってくる。
 深紅の鎧を着た女性騎士と、淡い水色の鎧を着た男性騎士だ。

「パムパム……あれは誰じゃろうな?」

「あれはワタクシのお姉様ですわ」

「ほう、ロティの姉か!」

「エリザベス・メイ・ランス・ロムルス。ロムルス王国の第二王女にして、国内でも有数の剣の使い手ですわ。そして聖騎士の筆頭でもありますの」

「ふむふむ……パムパム……」

「赤い鎧の騎士はスカーレット、水色の鎧の騎士はカイウス。この二人も聖騎士であり、お姉様の腹心の部下ですの」

「なるほどのう……パムパム……」

 会議室へと入ってきたエリザベスは、一目散にゼノン王の元へと向かう。

「父上! 状況は来る途中で聞かせてもらった! 魔物の討伐、このエリザベスと騎士団で引き受けよう!!」

 自信満々な表情で仁王立ちをするエリザベス。
 その様子を見て、ゼノン王も大きく頷く。

「うむ、そのつもりでお前を呼んだのだ、頼りにしているぞエリザベスよ」

「ああ! 任せておいてくれ!」

「なお今回は、王国騎士団とロームルス学園で合同作戦を立てる。お前は聖騎士の筆頭として、騎士団の統率もしっかり頼むぞ」

「……学園との合同作戦?」

 合同作戦と聞いて、エリザベスの表情は一変する。
 不信感に満ちた険しい表情だ。

「戦いに際して、学園の関係者、お前の妹シャルロット、そして俺の友人ウルリカを呼んである。全員で協力し、魔物の討伐を──」

「不要だ!」

 バンッと机を叩いて、エリザベスは抗議の声をあげる。

「学園の関係者? シャルロット? 父上の友人? そんな素人共に戦場をウロつかれては、騎士の邪魔になる!」

「おい、落ちつけエリザベス」

「これが落ちついていられるか! とにかく素人を戦場によこさないでくれ!!」

 怒鳴るエリザベスを見て、ウルリカ様はポソリと呟く。

「ふーむ……ロティよ、お主の姉はずいぶんと激しい性格じゃのう」

「激しいというか……お姉様は“脳筋”なのですわ」

「パムパム……脳筋?」

「小さい頃から騎士に憧れすぎて、騎士こそ至上の存在だと思い込んでいるのですわ。その結果、騎士以外は弱者だと考えるようになって……剣術バカで脳筋なのですわ」

「剣術バカで脳筋か……パムパム……」

 エリザベスの発言によって、ピリつく会議室の空気。
 そんな中、小さな笑い声を漏らすラヴレス副学長。

「クククッ……相変わらずエリザベス様は、剣のことばかり考えているようですね」

 ラヴレス副学長の言葉に、エリザベスはピクリと反応する。

「……ラヴレス副学長、それはどういう意味だ?」

「言葉通りの意味ですよ? 剣のことばかり考えていて、冷静な状況判断を出来ていないでしょう?」

「なんだと?」

 不気味に笑顔を浮かべながら、ラヴレス副学長はゆっくりと立ちあがる。

「いいですかエリザベス様、戦いの舞台はパラテノ森林とロームルス学園。つまり地の利は、我々学園側にあるということです」

「……」

「さらに、学園の教師や上級生の中には、騎士を上回る実力者も大勢います。この意味を理解していますか?」

「回りくどい! ハッキリ言ったらどうだ?」

「地の利を得て、戦力も潤沢にある。もはや魔物など我々学園だけで撃退出来るでしょう……そうなると騎士団は、ただの邪魔な存在なのですよ?」

「なっ、騎士団が邪魔だと!? ふざけるな!」

 エリザベスに続いて、スカーレットとカイウスも猛烈に抗議する。

「ラヴレス副学長! エリザベス様に向かって、なんてことを言うの!」

「あまりにも失礼な物言いですね、今の発言に対して撤回を申し入れます」

 一方のハインリヒも、負けじと抗議の声をあげる。

「そちらこそ! 歴史あるロームルス学園をバカにするような発言、今すぐ撤回するべきだ!」

 白熱する両者を見て、慌てて止めに入るシャルロット。

「ちょっと、両方とも落ちついて──」

「「「黙れ!」」」

 しかし一斉に怒鳴りつけられて、シュンと落ち込んでしまう。
 そんなシャルロットに、そっとマカロンを差し出すウルリカ様。

「ロティよ、マカロンでも食べるかの?」

「……ええ、いただくわ……パムパム……」

 激しく言い争いを続ける、聖騎士とハインリヒ。
 黙々とマカロンを食べる、ウルリカ様とシャルロット。
 呆れた顔で状況を見ている、ヴィクトリア女王とルードルフ、そしてゴーヴァン。
 もはや収拾のつかない状況である。

 そこへ、ゼノン王の雷が落ちる。

「貴様等! いい加減にしろ!!」

 バンッと机を叩いて、全員を睨みつけるゼノン王。

「明日にも魔物は襲ってくるのだぞ! 言い争っている場合ではないだろう!!」

 ゼノン王のあまりの迫力に、シンと静まり返る会議室。

「ここにいる全員で協力し、今回の事態を乗り切る! これは緊急事態における特別命令だ、逆らうことは許さん!!」

 静寂の中、ラヴレス副学長とエリザベスは静かに頷く。

「……ゼノン王に従いましょう……」

「……分かりました、父上……」

「よし! ではこれにて会議を終了とする!」

 こうして、ゼノン王の怒りの号令により、会議は幕を閉じる。


 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡


「あの……一つ質問をしてもよろしいかしら?」

 会議の終了から少し経った頃、シャルロットはふとした疑問を口にする。

「どうしてノイマン学長は、ここにいませんの?」

 シャルロットの疑問に、そっと顔を背けるハインリヒ。
 少し間を開けて、小さな声でゆっくりと答える。

「爺様は……ギックリ腰で寝込んでいる……」

「ギ、ギックリ腰ですの!?」

「ああ……だから今回の作戦は……不参加なんだ……」

「そ……そうですの……それはお大事に……」

「……爺様に伝えておくよ……」

 なんとも言えない空気のまま、会議はお開きとなるのだった。

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