魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

みんなの希望全部乗せ教室

 ノイマン学長の活躍で、正式な教室を手に入れた下級クラス。
 ハインリヒとの騒動も落ちついたところで、いよいよ教室塔の内部をお披露目である。

「さあみんな、教室に入ってみましょうか!」

「いやぁ~、ウルリカ様の作った教室! 楽しみですな!!」

「学園長……誰よりも楽しそうにしていますわね……」

 そして一行は、教室塔の中へと足を踏み入れるのだった。


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 まずは一階。
 扉を開けて中へ入ると、円形の広い空間が広がっていた。

 南側に出入り口の扉、北側には大きな掲示板、東西にそれぞれ昇降機。
 そして中央には、女性の石像が設置されている。

 ゾロゾロと教室塔の中へ入ってくる生徒達。
 すると、石像の目にキラリと光が宿る。

《おはようございます》

「なっ、喋りましたわよ!?」

「うむ! これは“受付ゴーレム”なのじゃ。創造魔法と召喚魔法を組みあわせて作ったものじゃ」

「受付ゴーレムですの? ゴーレムという魔物は知っていますけれど……それとは違いますの?」

「少し違うのじゃ。普通のゴーレムは、むやみやたらと人を襲ったりするのじゃ。しかしこのゴーレムは、与えた役割通りの行動をするのじゃ」

「ほう? どのような役割を与えているのですかな?」

「登校と下校の時に、それぞれ挨拶をしてくれるのじゃ。質問をすると、ある程度なら答えてくれるのじゃ。さらに、部外者を撃退してくれるのじゃ」

 ギギギッと音を立てて、ペコリとお辞儀をする受付ゴーレム。

《みなさま、どうぞよろしくお願いいたします》

「これほど高度な人工ゴーレムは、はじめて見ましたな」

「一階から凄い設備ですわね」

「さて、一階は終わりじゃ! 昇降機に乗って、上の階も見て回るのじゃ!」

 そして一行は、二階へと昇っていく。


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 二階。
 昇降機からおりると、そこには円形の大きな教室が広がっていた。

 ずらりと並ぶ机と椅子。広々とした黒板。巨大な世界地図。
 解放的な高い天井に、風通しのよい高窓まで備えつけられている。

「ほおぉ~、これはなんとも立派な教室ですな!」

「世界地図ですわ! ワタクシの希望していたものですわ!」

「高い天井! 風通しのよい窓! 理想的な教室だ!」

 立派な教室を見て、ワッと湧きあがる生徒達。
 自分の希望を反映されたシャルロットとシャルルは、とても嬉しそうだ。

「とっても素敵な教室だわ! ここでなら、必ず素敵な授業を出来るわね!」

「うむ! ヴィクトリアの授業、楽しみにしておるのじゃ」

「ええ、楽しみにしていてね」

 一通り教室内を見て回ったところで、みんな昇降機の前に集まってくる。

「予想以上に素晴らしい教室でしたわ!」

「ウルリカ様、まだ上もあるのですよね?」

「もちろんなのじゃ! 次も見にいくのじゃ!」

 そして一行は、次の階へと進んでいく。


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 三階。
 昇降機からおりると、そこには一面緑色の爽やかな空間が広がっていた。

 緑の芝に覆われた床。色とりどりの綺麗な花。日の光の差し込むガラス窓。
 そして中央に備えつけられた、豪華なティーテーブルのセット。

「ウルリカ! ここはまさか!」

「シャルロットの希望していた、“優雅なるお茶会教室”じゃな!」

「凄いわウルリカ! なんて素敵なの!!」

 シャルロットは興奮した様子で、教室の中を見て回る。

「室内とは思えない解放感! 穏やかで落ちついた雰囲気! 豪華なティーテーブルのセット! まさしく理想の“優雅なるお茶会教室”だわ!」

「シャルロット、そろそろ次の教室に行くわよ」

「待ってお母様! 試しに一杯だけお茶を飲んで──」

「はいはい、次に行くわよ~」

「ああんっ、お母様ぁ~!」

 こうしてシャルロットは、ズルズルと昇降機まで引きずられて行くのだった。


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 四階。
 昇降機からおりると、そこには大量の本に囲まれた空間が広がっていた。

 壁一面を埋め尽くす大量の本。通路も全て本棚によって区切られている。
 右を見ても左を見ても、とにかく目に映るのは本ばかりだ。

「ウルリカさん、ここはまさか!」

「うむ! ヘンリーの希望していた“研究書大量教室”じゃ!」

「やはり! これ全て研究書なのですか!?」

「うむ、ただし……」

 ウルリカ様は、少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「ここにある本は、全て魔界の研究書なのじゃ」

「魔界の研究書!?」

「人間界の研究書はよく分からんのじゃ、それで仕方なく魔界の研究書を──」

「まったく問題ありません! むしろ興味をそそられますね!!」

 大騒ぎのヘンリーは、手当たり次第に本を開いていく。

「最高の教室です! もうボクはここに引っ越しますよ!!」

「さあヘンリー君、そろそろ次に行くわよ」

「待ってください! ボクはここで読書を──」

「読書はあとにしましょうね~」

「そんなっ、研究書ぉ~!」

 こうしてヘンリーは、ズルズルと昇降機まで引きずられて行くのだった。


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 五階。
 昇降機からおりると、そこには石と金属の無骨な空間が広がっていた。

 体を鍛えるための器具、古今東西の様々な武器、そして簡易的なお風呂場。
 男の空間、という空気で満ち溢れている。

「ウルリカ嬢! ここはまさか!」

「シャルルの言っておった、“筋力増強特別教室”じゃ!」

「うおおぉ~! 自分の希望を叶えてくれたのかぁ~!!」

 シャルルは雄叫びをあげながら、教室の中を見て回る。

「これは上腕二頭筋を鍛える器具だな! こっちは大腿四頭筋か! 背筋用の器具まであるじゃないか!!」

「さあシャルル君、そろそろ次に行くわよ」

「お待ちください! 自分は訓練を──」

「訓練はあとにしましょうね~」

「そんなっ、訓練をぉ~!」

 こうしてシャルルは、ズルズルと昇降機まで引きずられて行くのだった。


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 六階。
 昇降機からおりると、そこには──。

 “偉~大~なる~♪ 太陽の~天使~♪

 美~しき~♪ 我ら~が王~女~♪

 シャルロット♪ シャルロット♪ シャルロット・アン・ロムルス~♪

 シャルロット♪ シャルロット♪ シャルロット・アン・ロ~ム~ル~ス~♪”

 ──どこからともなく、謎の歌が流れていた。

「なんですの……今の歌は……」

「ここはナターシャの言っておった、“太陽の天使様教室”じゃな!」

「ウルリカさん! 私の希望も叶えてくれたのですね!」

「ウルリカ様! サーシャの希望まで叶えてしまったのですか?」

「えっ……リヴィ? 私の希望は叶ってはいけないの……?」

「えっ……だってサーシャ、ヘンテコすぎる希望しか出していなかったから……」

 じっと顔を見あわせる、オリヴィアとナターシャ。
 なんとも気まずい雰囲気だ。

「うーむ……“太陽の天使様教室”というのは、よく分からんかったのじゃ。とりあえず、ロティを神々しい感じにしてみたのじゃ」

 部屋の真ん中を見ると、シャルロットの形をした白亜の像が建っている。

「ワタクシ……この部屋には二度と来たくありませんわ……」

 ボソリと呟くシャルロット。
 そして──。

 “偉~大~なる~♪ 太陽の~天使~♪”

 ──どこからともなく、再び謎の歌が流れてくるのだった。


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 七階。
 昇降機からおりると、そこには金銀財宝で埋めつくされた空間が広がっていた。

 黄金の壁。黄金の床。黄金の天井。そして宝石に彩られた玉座。
 煌びやかなことこの上ない、超成金趣味の教室である。

「おいウルリカ! これはまさか!」

「ベッポの言っておった、“金ぴか黄金教室”じゃ!」

「凄い! 黄金に金銀財宝! 最高だ!!」

 ベッポは目を輝かせながら、教室の中を見て回る。
 そんなベッポを、シャルロットは白い目で見つめている。

「ベッポ……これは流石に趣味悪すぎですわよ……」

「う……シャルロット様……でも好きなものは好きなのです、仕方ないでしょう……」

「それにしても……趣味悪すぎですわ……」

「ぐうぅ……」

 じとーっとした視線を受けて、額から汗を流すベッポ。
 しばらく黙っていたかと思うと、ゆっくりと口を開く。

「さ……さあ、次の階に行こうか……!」

 こうして微妙な空気のまま、一行は“金ぴか黄金教室”をあとにするのだった。


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 八階。
 昇降機からおりると、そこには魔界のような空間が広がっていた。

 地を這う謎の生物。空中を舞う謎の生物。天井に張りつく謎の生物。
 室内を埋め尽くす、見たこともない生物達。

 そして、部屋の真ん中には、豪華な調理場が備えつけられている。
 わけの分からない光景に、全員ポカーンと固まってしまう。

「ウルリカ様……ここは一体……?」

「ここはナターシャの、“世界の珍味教室”じゃ! そこにオリヴィアの希望していた、豪華な調理場を合体させたのじゃ!」

「本当ですかウルリカさん! この生物達は全て珍味なのですか?」

「その通りじゃ! 魔界で珍味とされている生物を放しておるのじゃ」

「ウルリカ様……なぜ私の希望した調理場を、よりによってサーシャの謎教室と合体させたのですか?」

「珍味は調理しなければならぬ、調理場と一緒なら好都合じゃろう?」

 ウルリカ様の答えを聞いて、ガックリと膝から崩れ落ちるオリヴィア。
 一方ナターシャは、早くも謎生物を捕まえにかかっている。

「さて、次の教室じゃな! 次は──」

 次の階へ行こうとするウルリカ様を、ヴィクトリア女王はガシッとおさえる。

「ちょっと待ってウルリカちゃん、一体いくつの教室を作ったの?」

「うーむ……分からんのじゃ! とにかく全員の希望を詰め込んだからのう」

 それを聞いたヴィクトリア女王は、パンッと手を叩く。

「はい! 今日はこれまで!!」

「なんじゃと!? まだまだ教室はあるのじゃ……」

「全部見てると日が暮れてしまうわ、続きはまた今度にしましょう」

 こうして、ヴィクトリア女王の強制終了によって、見学会は幕を閉じるのだった。

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