魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

探す者

 王都ロームルスの夜は暗い
 月明りは雲にかくされ、町は漆黒の闇に包まれている。

 ゼノン王によって発令された、夜間外出の禁止令。
 それによって、出歩く者は誰一人いなくなっていた。

 そんな中、薄暗い街路をコソコソと動く人影がある。
 どうやらロームルス学園の女子生徒のようだ。
 怪しい動きで、建物の影から影へと素早く移動していく。

 人影はロームルス学園前の大通りへと差しかかる。
 そこで、ふと足を止める。

「そこの……」

「えっ……」

「そこのお嬢さん……少しよろしいかな?」

 建物の影の暗がりから、男の声が聞こえてくる。

「誰……?」

「安心なさい、私はロームルス学園の教師です」

 建物の影から現れたのは、背の高い痩せた男だ。
 ロームルス学園の教師の証である、黒いローブを着ている。

「教師……?」

「ええ、魔法の授業を担当しているブラムといいます。そういうあなたは生徒のようですね」

「ええ、先日入学したばかりで……」

 ブラムと名乗った教師は、「そうですか」とニッコリ微笑む。

「新入生でしたか、ではいずれ私の授業を受けるかもしれませんね。ところで、こんな夜中に一体なにをしているのですか? 王都では夜間の外出を禁止されているのですよ?」

「ちょっと散歩を……」

「いけませんねぇ……なんでも王都には、吸血鬼が潜んでいるらしいです……」

「それは不注意でした……」

「いえいえ、分かればいいのですよ……」

 夜の闇に顔を隠したまま、二人の会話は続く。

「ところでブラム先生? 夜間の外出は禁止なのですよね、先生は外出してよろしいんですの?」

「私は教師ですからね、特別に許されているのですよ」

「しかし国王陛下からの命令では、警備隊の者以外は誰であろうとも、どんな事情があろうとも、外出は禁止だったはずですわよ?」

「……」

「もしかして、ブラム先生が吸血鬼だったりして……?」

「ヒヒヒッ……面白いことを言いますねぇ……」

 月にかかっていた雲が、ゆっくりと切れていく。

「さて、ブラム先生はこんな夜中に、一体なにをしていますの?」

「探し物をしていましてね……」

「あら、実はワタクシも探し物をしていましたのよ……」

 雲が切れ、月明りが二人の顔を照らす。

「それは奇遇ですねぇ……私の探し物は見つかりましたよ……」

「ええ、ワタクシの探し物も見つかったようですわ……」

 女子生徒──シャルロットは、不敵に笑みを浮かべる。
 それを見たブラムは、「はあぁ」と息を吐いて不気味に笑う。
 月明りに照らされて、開いた口から鋭い牙が覗く。

「シャルロット・アン・ロムルス……最高の獲物だ……」

 ブラムの全身から、殺気と魔力がほとばしる。

「今宵の獲物は大物だ……王族を手にかけたとなれば、あのお方も誉めてくださる……」

「見つけましたわよ、吸血鬼!」

 シャルロットは素早く杖を取り出す。
 しかし、杖の先に男の姿はない。

「なっ……どこに!?」

「……後ろですよ……」

 シャルロットの背後で、ヌッと立ち上がる黒い影。
 ブラムは一瞬にして霧に変化し、シャルロットの背後に回ったのだ。
 そして──。

「後ろです!」

 ブラムの背後で、可愛らしい声があがる。
 次の瞬間、ブラムの背中に強い衝撃が走る。

「なっ、ぐあぁっ!?」

 慌てて振り向くブラム。
 目の前には、二人の少女が立っていた。

 剣を構えたナターシャと、杖を構えたオリヴィアである。
 シャルロットは二人と合流し、改めて杖を構える。

「吸血鬼! 覚悟なさい!!」

 こうして、吸血鬼ブラムとの戦いが幕を開ける。

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