魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん / UnicornNovel

不合格!?

 翌日、ロームルス城。

 謁見の間に、ロームルス学園の教師達が集められていた。
 シャルロット王女とルードルフ大臣も同席している。

 玉座にはゼノン王。
 正面に立っているのは、立派なひげをたくわえた、一人の老人だ。
 彼こそ、ロームルス学園の最高責任者。そして、賢者の異名を持つ魔導士、ノイマン学長である。

「ノイマン学長、無理を言って悪かったな」

「ホッホッホッ、気にしなさるなゼノン王。大したことではありませんでな」

 親しい雰囲気で会話をする、ゼノン王とノイマン学長。
 しかし、お互いに目はまったく笑っていない。
 腹を探りあっているような、ピリピリとした空気が流れる。

「お父様……作り笑顔が下手すぎますわ……」

「相変わらず仲が悪いですね……」

 呆れた声をあげる、シャルロット王女とルードルフ大臣の二人。
 王家と学園、お互いの仲の悪さを物語る雰囲気だ。

「さて本日は、入学試験の結果を知りたい、ということでしたな?」

「その通りだ、国家存亡の危機なものでな。早めに結果を知っておきたい、よろしく頼む」

 二人のやり取りを聞いていた教師達から、不満の声があがる。

「本来ならば王族といえども、先に結果を知ることは出来ないはずだ……」

「国家存亡の危機? 娘の合否が国家存亡の危機か? あまりに大げさすぎるだろう……」

 ぶつくさと文句を言う教師達。国王の前だというのに、まったくお構いなしだ。
 険悪な雰囲気の中、ノイマン学長は一枚の紙を取り出す。
 試験結果の書かれた紙である。

「では、シャルロット王女殿下の結果を──」

「いやいや、シャルロットの結果はどうでもいい。それよりウルリカの結果を教えてくれ!」

「……は? どうでもいい?」

 ゼノン王の発言に、謁見の間はざわざわとざわつく。
 集められた教師全員が、シャルロット王女の結果報告だと思っていたのだ。
 そんな中、一人ガーンッと傷つくシャルロット王女。

「お父様! ワタクシの試験結果はどうでもいいですのっ!?」

「ん? あぁっ、すまんすまん! シャルロットの結果も聞かせてくれ」

 慌てて取りつくろうゼノン王。
 ノイマン学長はコホンッと咳払いをして、試験結果を読み上げる。

「シャルロット王女殿下は、上級クラスでの合格ですな」

 上級クラスといえば、特に優秀な生徒だけが選ばれる特別なクラスだ。
 教師達からも、「おぉ!」と歓声が上がる。

「筆記、実技、ともに申し分のない実力でしたな。実地の成果はなかったものの──」

「分かった分かった、シャルロットのことはもういい。それで、ウルリカは?」

 娘の試験結果よりも、ウルリカ様の試験結果に前のめりなゼノン王。
 シャルロット王女は「お父様……」とげんなりしてしまう。
 再び紙に目をやるノイマン学長、試験結果を読み上げる。

「ウルリカという受験生は、残念ながら不合格ですな」

「不合格!?」

 まさか、の試験結果に、ゼノン王は玉座から立ち上がる。
 シャルロット王女の時とは打って変わって、凄い迫力だ。

「不合格? 一体どういうことだ!?」

「筆記、実技、実地、いずれも最低点数ですな。はっきり言って才能がなさすぎますな」

「そんな馬鹿な!?」

 ゼノン王は真っ青な顔で、玉座から崩れ落ちる。
 そこへ、事情を知っているルードルフがやってくる。

「どうするのですか? このままでは国が滅びますよ……」

「ああ……分かっている……どうしようか……?」

「私に聞かれても知りませんよ、きちんと陛下が責任を持ってください」

「ぐぅ……」

 咳払いをし、キリッとした表情で玉座に座りなおすゼノン王。
 表情は凛々しいが、額には冷汗がびっしょりだ。

「んん……ノイマン学長、一つ相談があるのだが──」

「残念ながら、合否は覆りませんな」

 先手を打たれてしまったゼノン王、しかし諦めずに食らいつく。

「ぐ……しかし、国家存亡の危機なのだ。なんとか合格に出来んか?」

「我が校の理念をお忘れですかな? “学問と政は分けて然るべし”ですな。王家といえども、結果を覆すことは出来ませんな」

 シンと静まりかえる謁見の間。
 その時、勢いよく扉が開く。

「ゼノン! シャルロット! 遊びにきたのじゃ!!」

「ダメですよウルリカ様! 勝手に入ってはいけません!!」

 元気よく飛び込んでくるウルリカ様。
 すぐ後ろから、慌てたオリヴィアが追いかけてくる。
 そのやり取りを見ていた教師達から、失笑まじりの声があがる。

「ハハハッ、この子がウルリカかな?」

「まだ小さな子供じゃないか、本当に入学の条件を満たしているのか?」

「まさか……王家の力で無理やり入学させようとしていた?」

 謁見の間に、不穏な空気が流れる。
 「はぁ」とため息をつくゼノン王。

「ウルリカ、今はタイミングが──」

「ひいいぃぃっ!?」

 ゼノン王の声は、鋭い悲鳴にかき消されてしまう。
 悲鳴をあげたのはノイマン学長だ。
 ウルリカ様を見て、腰を抜かしてしまっている。

「こここっ、こちらのお方は一体!?」

「む? お主は誰じゃ?」

「なんという強大な魔力! 圧倒的な気配!! 恐ろしや恐ろしや……」

 ビシッとした土下座の体勢で、何度も何度も頭を下げるノイマン学長。
 突然の奇行に、誰もが口を開けて固まってしまう。

「こちらのお方は勇者様か……いや大賢者様……いやいや、神か魔王か……ふおおぉぉっ……」

 ノイマン学長は一心不乱に祈っている。
 ボロボロと涙を流し、全身を震わせ、完全に異常行動である。
 その様子を見て、ニヤリと悪い笑みを浮かべるゼノン王。

「おおっと、そういえばノイマン学長には紹介していなかったな! 俺の友人のウルリカだ」

「ウルリカ!? まさか……」

「その通りだ、たった今不合格となった、ウルリカだ……」

「馬鹿なあぁっ! 不合格などあり得ん!!」

 半狂乱のノイマン学長は、試験結果の紙をビリビリに破り捨てる。
 そして、ウルリカ様の足元に、頭をズリズリこすりつける。

「ウルリカ様! 是非とも我がロームルス学園に入学してくだされ、この通りですうぅっ!!」

「いけませんノイマン学長、合否の変更は──」

「黙れ小童ども! ウルリカ様を不合格にするとは、貴様等の目は節穴かぁ!!」

 ノイマン学長の“喝”をくらって、教師達は黙ってしまう。
 老人とは思えない、尋常ではない迫力だ。

「もしや学校の話かの? 妾は学校にいけるのか?」

「もちろんですとも! 是非ロームルス学園にいらしてくださいませぇ!!」

「やったのじゃ! 嬉しいのじゃ!! ゼノ~ン、合格したのじゃ~」

 ピョンピョンと飛び跳ねてはしゃぐウルリカ様。
 ホッと息を吐き、ニコニコと手を振るゼノン王。

「お父様……悪ですわね……」

「よかったですね……滅亡を免れて……」

 呆れるシャルロット王女とルードルフ。

 こうして、ウルリカ様の入学が決定したのだった。

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