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じんまーた

第八話 『路地裏の密会』

――リアナは路地裏に場所を移し何者かの気配を探していた。

街道とは違い物静かで陰湿な場所だ。視線を横に向けると陽光が微かに壁を照らしている。その光に若干目を細めながら、リアナは背後を振り向いた。

「――申し訳ございません……遅れてしまいました」

現れたのは外套のフードを目深く被った女性だった。遅れたと言っているが、それは数秒程度の遅れだ。そしてその女性はゆっくりとリアナに近づいてくる。顔は見えないがその動きの所作からして気品が溢れていた。
リアナには無い上品さ。それに口惜しい息が漏れてしまう。そう唇をさ迷わせリアナは言葉を紡いだ。

「心配するな。私も今来たところだ」

男女の待ち合わせの常套句。けれど恋愛に疎いリアナはそれを知らない。最も、今の状況は暗い路地裏に女性二人。それを気にする必要は何もないのだが。

「ふふっ。リアナ様がエスコートしてくださるのですか? 随分と紳士的ですね」

「む……何を言っているんだ?」

「リアナ様が格好いい、ということです」

「意味が分からん……」

リアナには女性の言葉の意味が理解できなかった。今回もそうだが、彼女は毎回のことながら言葉に揶揄いを含める。それが癖なのだろうか。リアナはむっと眉を顰める。

それに気づいたのか、女性が口を開いた。

「――冗談はさておき」

そして空気が変わる。女性の鈴を転がすような声はそのまま。だが、リアナにはそれがずんと重々しく感じられた。その緊張感に喉がひりつく。きっとここからの会話は、この女性にとって重大なことなのだろう。何よりリアナにとってもだ。
リアナは周りに人の気配がないか確認し、女性の次の言葉を待つ。

「逃走経路、馬車の調達は完了しました。物資も馬車の中にあるので心配ないでしょう。リアナさんの方はどうですか?」

「ああ、私の方も心配ない。うまくいけば一瞬で片が付く。それに……これが一番確実だろうしな」

「その概要を聞いても?」

「……すまない、それは言えない。だがアークは必ず助けられる。信じてくれ」

リアナから出た男の名前。彼女たちの目的はそれだった。リアナがここに訪れ彼女と会話したのは一度や二度ではない。この目的のために路地裏に幾度となく足を運んだのだ。
そして入念な計画を立てた。リアナがその概要を話さなかったのは、決して悪い意味があった訳ではない。
それは今彼女の見せる瞳が示していた。偽りのない、それでいて決意のような灯。その意志を汲み取ったのか、女性はフードの鍔を軽く撫で息を吐く。

「ええ、いいでしょう。その代わり必ず成功させてくださいね。機会は一度しかないのですから……」

機会は一度。その言葉にリアナは顔を強張らせた。
リアナとてそれはわかっている。失敗したら――それは死を意味する。けれどそんな危険を伴って尚、彼女は行動してしまうのだ。だから自分が救えなかった者たちに、これが最後だといい聞かせる。胸に手を当て、深く深呼吸をして。

「任せろ。私が何とかしてやる」

リアナは柔らかな笑みをもって言い放った。その表情にはもう、いつかの陰りは窺えない。だが何かが可笑しかったのか、女性はくすくすと笑い口元を袖で隠しながらリアナを見る。

「ふふ……頼もしい限りで何よりです。ですが無理はなさらないように。私はリアナ様のことも心配なのです。この事だけは忘れないでください」

「ああ、了承した」

無理をしない。出来るのならそうしたいとリアナは思っている。しかし、それは全てが上手くいってからの話だ。そう言葉では了承しつつも心の内では強く否定していた。

ふと女性が懐から小瓶を取り出した。中には緑色の液体が透明に輝いているように見える。リアナは首を傾げつつもそれに見覚えがあった。あれは回復薬ポーションだ。けれどその本質は違うと直感する。何かと問われれば、もっと上質なものと答えるだろう。
そして女性は小瓶をリアナに手渡した。

「これは神薬エリクサーです。無くさないよう注意してくださいね」

「――なっ、何だと!?」

女性の囁くような声とは反対に、リアナは驚愕に声を上げてしまった。
神薬を入手するのは非常に困難なはずだ。それも国宝級と言われるほどに。リアナも当然それを理解していた。故に神薬を唐突に差し出され驚くのも無理はない。
彼女が何故神薬を所持しているかなど色々聞きたいことはあるが、リアナは一先ずそれを空間にしまった。その上で確認を取る。

「……神薬で欠損は治るのか?」

「治ります。それも確実に」

取り敢えず治ることは把握した。ともすればとリアナは考える。万が一があったとしても彼は一人で逃げられる。そして自分が居れば確実にと。そう思いリアナは安堵の吐息を漏らす。

その時、何かを思い出したのか女性は空を見上げて。

「……そろそろ時間ですね。私は馬車で待機しているので、後はお願いします」

一方で女性の言葉を聞き、リアナも空を見上げる。空は幾らか茜色に染まっており日暮れが近いように思えた。それから視線を前に戻し、リアナは返事をする。

「こちらこそよろしく頼む」

リアナの声を聞きとったのか、女性はフードでしっかりと顔を隠し静かに呟いた。

「ええ、それでは――」

瞬間――女性の姿が音もなく消え、何事もなかったかのように風が流れる。どうやら行ったようだ、と呟きリアナは女性が居た場所を眺めた。正面、遠方には街道広がっており、薄暗い路地裏とは風景が一変している。それからゆっくりと歩き出し、リアナは思考する。

監獄の中での実験――それは、いつか彼から聞いた言葉。そして王都で見た黒い首輪。それが監獄にもあったのだ。これだけで危険と感じるのは早計だろうか。けれどリアナはその不安を拭い切れなかった。先の女性に計画の概要を話せなかったのもこれが理由だ。
故に自分のこれまでの覚悟とは別に、再びリアナは胸中に悩みを抱える事になる。

そうして街道にでて、リアナは僅かな憂慮を抱えて監獄へ向かった。





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