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その心が白銀色に染まるなら

じんまーた

第七話 『リアナ・アルジェント』

――サルドニクス王国最北端に位置する街〈ノルデン〉。

リアナは行きなれた街道に歩を進めていた。
というのもここは彼、アーク・エルニクスが囚われてている監獄に最も近く、リアナ自身巡回や物資の調達やらで何度も足を運んでいた。しかし、今回の目的はそれではないのだが。

辺りには屋台が立ち並びそこから香る匂いが妙に鼻を擽る。
その匂いに釣られそうになるが、リアナはいかんいかんと首を振り頬を引き締めた。

「何故ここはこんなに繁盛してるんだ……」

純粋な疑問が零れ出る。
ノルデンの街は一言で言ってしまえば田舎。けれど国境に近いこともあり、隣国からの俗人がわらわらとやって来る。
そのせいだろうか、やけに活気がある。

そうして迷い切った彼女は、串焼き鳥を二本買うと手に携えた。一本は自分に、もう一本は彼のためにと考えながら。

アークとは、初めて出会ったその頃から幾度となく会話を繰り返してきた。くだらない話も、時には真剣で惨烈な過去も。それから随分と打ち解けたように思える。
けれどあの夜の答えを、リアナは未だに出していなかった。それとも話していないと言うべきか。
決意は固めたはずなのに、その揺らぎは今も残っている。それはリアナが監獄に来た理由へと直結していた。




――――




リアナは幼い頃に両親を亡くしている。最初は失踪したと聞かされていた。その事からか必ず帰ってくると、幼いながらも両親の帰りを待っていた。そうして時が経つにつれ気づいたのだ。自分は一人では何もできないことに、それでいて守られていたことに。
今でも両親の帰りを待っている自分に、私は弱い人間だとリアナは嘆く。そして呆れる。

両親が失踪したことで孤児院生活を強いられていた彼女だが、ある時その中の子供が次々と姿を消した。それは異常で、突然消えるのだ。リアナは思った。次は自分だ、そして周りと同じように消えていくんだと。そう考えた矢先、自分を守れるようになるため剣を握った。ただ振るうだけ。それがやけに心地よかったのを覚えている。

それならばと、リアナは考えたのだ。自分を守れるなら他人を助けても、手を伸ばしてもいいんじゃないかと。それからは、自分より弱き者を救ってきた。救ったけれど、再び気づかされるのだ。それはリアナが両親に守られていたこと。それが原因で一人では何も出来なくなってしまったこと。同じだった。同じ道を歩ませている。そう思い自分を責めた。


そしてリアナは下を向く。そこには銀色の鎧が、何かを嘲笑うかのようにギシギシと音を立てていた。

「ああ……」

知らずに声が漏れる。
いつの間にか。そう、いつの間にか騎士になっていた。誰かを助けているうちに。
それが正義だと思っていた。純粋に前を向いていただけだった。
それなのに……と再び声が漏れる。

この鎧は黒く汚れていた。
言うなれば元凶。この鎧が、リアナを苦しめた。それを今着てしまっている。
辺りを見渡すと鎧を着ているのはリアナ一人だけ。その姿が馬鹿らしくて苦い笑みが表情を模る。

騎士を瞳に捉えただけで憧れの眼差しを向け、勝手に正義だと思い込んでいる者たち。それが異様に黒く見える。
実際、リアナは騎士たちの中で奇妙な動きがあるのは知っていた。けれど、その概要までは突き止められなかったのだ。垣間見えたのは黒い首輪だけ。それが何だったのかはわからない。
そして自分一人ではどうすることもできないと悟った。それはただの逃げだったのだろうか。

そうしてリアナは王都から左遷された。何者かに目を付けられた、そう言ってしまえば簡単だろう。

リアナは監獄に初めて来たとき驚愕した。そこにいる誰もが何者かに対し怯えていたからだ。騎士たちも、人を何人も殺したであろう咎人も。そしてリアナは、前任者が謎の死を遂げた原因である牢に足を踏み入れた。

けれど、そこにいたのは弱者であった。昔のリアナなら迷わず助けるだろう。だが、彼女は躊躇ってしまった。見るからに惨い有様で、時期に死ぬであろう弱者。
助けられなかったら、と差し伸べる手が止まってしまったのだ。

結局のところその命は救われた。けれど、リアナはその事を思い出すと後悔の念で押しつぶされる。あの時数秒遅れていたら、もしかしたら。そんな悔しさが圧力をかけるのだ。

リアナは、自分は最低な臆病者だと吐き捨てる。続けて、正義なんかあったものではないと悪態をつく。

けれどもそれを咎めてくれる者はいなくて。
――すると誰かと肩がぶつかる。

「だ、大丈夫ですか……?」

と声をかけられて、リアナは頬が薄っすらと濡れていることに気付いた。左目から流れるそれは嫌に心地が悪く、雑に手で拭う。

「……すまない」

名も知れず誰かに声をかけ、リアナは街道を歩く。すれ違う人達に背を向けるよう小走りに。
そして目的の場所へと向かう。無力な自分にも出来ることはある、そう呟きながら。


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