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その心が白銀色に染まるなら

じんまーた

プロローグ



 薄暗い部屋の中に鎖につながれた一人の青年がいた。

 窓の外から入り込む冷たい風は青年の頬をいたずらに撫でる。
 地面には辺りに散乱したであろう黒くこべりついた血と青年から今も絶え間なく流れる血が、窓から射し込む光によって艶めかしく輝いていた。

「……く…………そ……」

 青年の体は至る所に刺し傷と打撲の跡。右脚と左腕は雑に修復されたように欠損していて、見るからに無惨な姿であった。既に死んでいてもおかしくない程に酷いありさまだ。

 何者かはわからないが、人間の所業とは思えない程に惨い。
 正常な心の持ち主であれば思わず目を逸らしてしまうだろう。

 優しさのかけらのない、そんな空気にさらされると傷口がずきりと痛む。いやもっと。中から抉られるような、そんな痛み。

 慣れた。と言ってしまえば簡単なのだろうが。青年はこの痛みに慣れることはなかった。次から次にへとくる絶え間ない痛みは、それを許してくれないのだ。

 青年は思う。

 ――どうしてこうなった。

 ――何故俺がこんな目に。

 けれど、それに答えてくれるものは存在しなくて。
 無慈悲にもただその死を待つことしかできなかった。


 だが、青年は生きるのを諦めていなっかった。いや、諦められなかったのだ。必ず生きると、自分は絶対に死にはしないと、あの日約束をしたのだから。

 青年の瞼の下に熱い何かが浮かぶ。黄色い髪をした何者かの顔が。

 いくら死にそうな目にあっても耐えた。あの幸せな日々を思い出しながら。

「でも……もぅ、いい……かな…………」

 青年の声にならないかすれた声は、もはやだれにも届かない。

 青年は朦朧とする意識の中で自分の死を悟っていた。もう自分は生きられない。希望も何もない。   最初の頃に抱いていた様々な感情は今の青年にはなにも響かなかった。

 憎しみ、怒り。殺してやりたいと何度も思った。その憎悪も、もはや消え去り。

 青年はゆっくりと意識を手放していくーー。


 その時、重々しく鳴る金属音とともに厚みのある鉄のドアが火花を散らしながら開けられた。


「……貴様がアーク・エルニクスだな。取り調べの時間だ」

 そこに立っている者の姿は見えないけれど。


――微かに聞こえたその声に、青年は何故だか救われた気がした。





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