音を知らない鈴

布袋アオイ

存在しない特技

改めて私を紹介します。
今の私を。
名前は楠鈴音。
高校生2年生です。
大体はすずって呼ばれる。
ごくごく普通の女の子です。
いや、普通以下の女の子です。
最初に言ったように
私は何かに長けている部分もなく、特徴がある訳でもない。
そのせいか、私には特に夢がない。
小学生の時、将来の夢を発表しろと言われた。
かわいい子はパティシエ、運動ができる子はスポーツ選手、勉強ができる子は夢が具体的に膨らんでいた。
将来なれる像のヒントが自分に隠されているのだ。
それに比べて私はどうだ。
浮かぶはずがない。
ヒントが無いのだ。
さっきから小学生の回想を繰り返しているが、気にしないで。
今思えば私は小学生の時点で気づいてしまったらしい。
自分に期待することの無意味さを。
可哀想に。
だからその授業では皆が知っている王道の職業を言った。
皆が深く考えなくても納得いくものを。
小学生ながらに上手くやってのけたと思う。
そういうところは得意らしい。
誰にも言えない特技だ。
となれば実質無いのと同じだ。
あるようで無い特技、それが
偽りを真実かの如く存在させること。
将来の夢だって皆へぇーって言ってくれた。
そして、その唯一の特技が奈落の底への道標になるだなんて誰が知っていたでしょう。

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