音を知らない鈴
#56 上出来だ
「おい…大丈夫か…」
しまった…大丈夫の問いかけで一気に体が寒くなった。
思いっきり自分を出してしまった…それも、こんなに深く関わりたくない人の前で。
神社にいるせいか、埋もれていた思い出に目を奪われたせいか、自分を制御できていなかった。
私の手の中に納まるす鈴がさっきは安心をくれたのに、今は氷のように冷たい。
産声のような音色を奏でず、呼吸を止めたかのように、私の手に隠れている。
私はこの時こんな勘が働いた。後ろに茫然と立ち尽くしているこの人に知られたことは、面倒を巻き起こすだろうと。
こんな言い方をしては失礼だが、どうせ苦労をせずここまで育った君に、今の私が何を思い、考えているか説明したところでハテナを浮かべるだけだ。
それだけならまだしも、納得した様子を見せて頭では不思議ちゃん、何を言ってるんだって変人扱いされるのは腹が立つし、変に深入りしてこられるのも困る。
人に説明出来る程私の中で整理がついている訳でもない。
まだ…まだまだ足りない!
こんなの、人はともかく私自身が私の人生を知らなすぎる。
頼むから、何の言葉も交わさず帰ってくれ……!!
「………」
夏だというのに、寒い。
「俺は…」
「……」
「俺は分かってるから」
「っ!?」
「お前のこと、分かってる」
(何言ってんの………)
「お前がずっと何かを抱えて、一人で頑張ってるの」
想像していなかった言葉を並べられ、聞き慣れない言語を聞かされているようだ。
不愉快な…雑音…
「やっぱり、あの時泣いてたのお前だったんだな。ごめんな、声をかけてやれなくて」
おやおや…?これは…私が大っ嫌いな演出をされているなぁ。
「俺はお前の味方だ、だから」
フッ…私を悲劇のヒロインによくも仕立て上げたな…
しゃがみ込む女は弱そうかい?泣いてる女は可哀想かい?
小さな王子様…いや世間知らずの坊や。
「俺はお前の力になりたいんだ、あの時みたいなことはもうしない」
ここは神社、声を荒げる場所ではない。
我慢だ…相手にしたって仕方ない。
また自制心が奪われる前にこいつから離れよう。
あともう一言でも無能な発言をしてみろ…
殺すからなッ…
「すぅーーはぁーー」
「…?」
言葉になる前に怒りを吐き出す。
「大丈夫!!!なんにもない。確かに私だったのかもね、ハハ」
「…」
止まる気配の無かった涙を拍子抜けするような言葉のおかげで、さっと引いてった。
私の心が生む涙なんて、所詮こんなもんよ。
はぁっ、短く吐いて、勢いよく立った。
「ありがと、帰ろ」
やはり神社は人と来るところではないな。
後々面倒を起こすだけだ。私は私を隠して生きていく。
けれど、ここだけなのだ。世間体を脱ぎ捨てられるのは。
拝殿にある鞄を取りに、明るく歩いた。
砂利を短く、軽やかに鳴らして。
もう帰ろ。きっと忘れるだろ。私が過去を忘れているように。
「疲れた………」
砂利の音が聞こえない。金木君はいつまでも立ち尽くしている様だ。
まあいい、そこにいな。あと数十メートルで別れるといっても、もう一緒にいたくない。
置いてでも帰る。そんな気でいた。
ザッザッザッザッ!
嫌な予感が背中を走った。
「鈴音!!!」
パン!!!
「………………………!!」
最悪だ。
近づいてほしくなかったのに、声をかけないでほしかったのに。
この人はいつも私の想像の斜め上をくる。
心臓を握りしめられたような気分になった。
金木君の手が私の左手を掴んできた。
「そうやって抱え込むなって!!!俺じゃダメなのか!?」
何でお前なんだ。
「俺はお前の力になりたいんだよ!我慢すんなって!」
まだ分かんないのか。
「鈴音!!」
チッ…何で名前で呼ぶ…
「俺は何でも受け入れるから!!」
お前如きがっ……
「…………………………………」
「鈴音…」
なんなんだよ…こいつ!
もうやめてくれ……!!
「俺に頼れって」
その瞬間金木君の手は私の腕を強く引き、自分に手繰り寄せようとした。
「ちょっ!!!」
ドン!
すぐさま金木君を突き放し、距離をとった。
体中が真冬のように寒い!寒気がする!
鳥肌がとまらない。
限界だ……!もう無理だ!!
見れば金木君はなんのこっちゃ分からないような顔をしてこちらを不思議そうに見ている。
「鈴音…」
「やめて」
「え?」
「そういうのやめて!」
「…?」
「気持ち悪い!何?何でそんなズカズカと人の事に入り込んでくるの!?」
「…」
「言えないから!何にもないし!解決しようとなんてしてこないで!これは私の問題なの!!金木君の問題じゃない!!!」
「でも俺はお前の力に」
「それが嫌なの!!!何で私にそんな関わってくるの!?小さい時のことならいいから!私が忘れてたくらいの事をわざわざ掘り出してこなくていいの!」
「俺は後悔してるんだよ!あの日お前を見捨てた事を」
「見捨ててないから!勝手に私が一人でここにいただけだから!金木君にはなんの関係もないの!変に後悔とかして今更話題にされる方がつらい!」
「俺はっ!!!」
「……」
「お前が好きなんだよ!!」
「はあ?」
なんでそこに飛ぶんだ!
「お前を俺が助けたい!!」
「助ける!?」
「いつも辛そうな顔を隠してるお前の力になりたいんだ!本当のお前を知りたいし、お前に心から笑ってほしい」
「……」
呆れるんだが…本気で言ってんのか…
「だから、俺の前では泣くことも弱音を吐くことも我慢しなくていいから!俺はお前を誰よりも受け入れるし、お前のことが誰よりも好きだ!!」
チッ…
「はぁ、金木君が好きなのは私じゃないよ」
「え…?」
「金木君が好きなのは可哀想な私だよ」
「…」
「私のこと可哀想な女の子としか思ってないんでしょ。一人じゃ歩けないような弱い子だと思ってるんでしょ」
「そうじゃなくて」
「いや、そうだよ」
分かんないなら言ってやる。
「私が泣いてるのは弱いからだと思ったの?俺の力がないと立てないと思ったの?助けなかった後悔は好きになるの?」
「いや、それだけじゃない!俺はお前が」
「いいから、金木君は他の誰もが知らない私を知ってると思ってるんでしょ…」
「……」
「あんなの、あんな一瞬のことが私の全てだと思わないで?私は金木君に何一つ私の事を話したことはないし、話す気もない。知ってほしいとも思わない。人を助ける正義感を好きという感情に混ぜてるだけだよ。本当は好きじゃない、私のことなんか誰も。仮に好きだとしてもそれは私じゃない。可哀想に恋をしてるんだよ。金木君は、他の誰でもいいの」
「それは違う!!俺はお前が好きなん」
「違うって!!!!!」
「…!?」
「違うんだって、私を好きなんてあり得ない!私は私のこと嫌いなの!!何にも分かんないの!!私は私を認めていない!私自身がそうなのに何で…」
こんな…
「なんで金木君が好きになるの…」
「鈴音…」
「私が好きっていう気がしれない、何も知らないくせに。私だって…」
私だって…自分のこと分かんないのに…
人はそんなに容易く好きと言えるのだろうか。
待てよ……言い過ぎた…か…
金木君の顔は……落ち込んでいる
そうも分かりやすく顔に出せるなんて、それこそ私があんたを救えそうだ。
そんなガラスみたいなハートでよくも好きとか救うとか言えたもんだ。
結局、後悔からきているだけで、私のことなんか何も見えちゃいない。
好き勝手に可哀想な子妄想を繰り広げられ、いい迷惑だ。
まだまだ言い足りないが、これ以上はか弱い王子様にはお気の毒だ。
ふと拝殿を振り返ると神様の笑みを感じた。どうやらやられたみたいだ。
目の前の金木君に励ましの一言を
「ごめん、言い過ぎた。これは私が悪いの。金木君のせいじゃない。気にかけてくれてありがとう」
「い…いや…いいんだ…。俺も一方的で悪かった」
フゥー…
こんなもんでいかがかな、神様。
「上出来だ」
しまった…大丈夫の問いかけで一気に体が寒くなった。
思いっきり自分を出してしまった…それも、こんなに深く関わりたくない人の前で。
神社にいるせいか、埋もれていた思い出に目を奪われたせいか、自分を制御できていなかった。
私の手の中に納まるす鈴がさっきは安心をくれたのに、今は氷のように冷たい。
産声のような音色を奏でず、呼吸を止めたかのように、私の手に隠れている。
私はこの時こんな勘が働いた。後ろに茫然と立ち尽くしているこの人に知られたことは、面倒を巻き起こすだろうと。
こんな言い方をしては失礼だが、どうせ苦労をせずここまで育った君に、今の私が何を思い、考えているか説明したところでハテナを浮かべるだけだ。
それだけならまだしも、納得した様子を見せて頭では不思議ちゃん、何を言ってるんだって変人扱いされるのは腹が立つし、変に深入りしてこられるのも困る。
人に説明出来る程私の中で整理がついている訳でもない。
まだ…まだまだ足りない!
こんなの、人はともかく私自身が私の人生を知らなすぎる。
頼むから、何の言葉も交わさず帰ってくれ……!!
「………」
夏だというのに、寒い。
「俺は…」
「……」
「俺は分かってるから」
「っ!?」
「お前のこと、分かってる」
(何言ってんの………)
「お前がずっと何かを抱えて、一人で頑張ってるの」
想像していなかった言葉を並べられ、聞き慣れない言語を聞かされているようだ。
不愉快な…雑音…
「やっぱり、あの時泣いてたのお前だったんだな。ごめんな、声をかけてやれなくて」
おやおや…?これは…私が大っ嫌いな演出をされているなぁ。
「俺はお前の味方だ、だから」
フッ…私を悲劇のヒロインによくも仕立て上げたな…
しゃがみ込む女は弱そうかい?泣いてる女は可哀想かい?
小さな王子様…いや世間知らずの坊や。
「俺はお前の力になりたいんだ、あの時みたいなことはもうしない」
ここは神社、声を荒げる場所ではない。
我慢だ…相手にしたって仕方ない。
また自制心が奪われる前にこいつから離れよう。
あともう一言でも無能な発言をしてみろ…
殺すからなッ…
「すぅーーはぁーー」
「…?」
言葉になる前に怒りを吐き出す。
「大丈夫!!!なんにもない。確かに私だったのかもね、ハハ」
「…」
止まる気配の無かった涙を拍子抜けするような言葉のおかげで、さっと引いてった。
私の心が生む涙なんて、所詮こんなもんよ。
はぁっ、短く吐いて、勢いよく立った。
「ありがと、帰ろ」
やはり神社は人と来るところではないな。
後々面倒を起こすだけだ。私は私を隠して生きていく。
けれど、ここだけなのだ。世間体を脱ぎ捨てられるのは。
拝殿にある鞄を取りに、明るく歩いた。
砂利を短く、軽やかに鳴らして。
もう帰ろ。きっと忘れるだろ。私が過去を忘れているように。
「疲れた………」
砂利の音が聞こえない。金木君はいつまでも立ち尽くしている様だ。
まあいい、そこにいな。あと数十メートルで別れるといっても、もう一緒にいたくない。
置いてでも帰る。そんな気でいた。
ザッザッザッザッ!
嫌な予感が背中を走った。
「鈴音!!!」
パン!!!
「………………………!!」
最悪だ。
近づいてほしくなかったのに、声をかけないでほしかったのに。
この人はいつも私の想像の斜め上をくる。
心臓を握りしめられたような気分になった。
金木君の手が私の左手を掴んできた。
「そうやって抱え込むなって!!!俺じゃダメなのか!?」
何でお前なんだ。
「俺はお前の力になりたいんだよ!我慢すんなって!」
まだ分かんないのか。
「鈴音!!」
チッ…何で名前で呼ぶ…
「俺は何でも受け入れるから!!」
お前如きがっ……
「…………………………………」
「鈴音…」
なんなんだよ…こいつ!
もうやめてくれ……!!
「俺に頼れって」
その瞬間金木君の手は私の腕を強く引き、自分に手繰り寄せようとした。
「ちょっ!!!」
ドン!
すぐさま金木君を突き放し、距離をとった。
体中が真冬のように寒い!寒気がする!
鳥肌がとまらない。
限界だ……!もう無理だ!!
見れば金木君はなんのこっちゃ分からないような顔をしてこちらを不思議そうに見ている。
「鈴音…」
「やめて」
「え?」
「そういうのやめて!」
「…?」
「気持ち悪い!何?何でそんなズカズカと人の事に入り込んでくるの!?」
「…」
「言えないから!何にもないし!解決しようとなんてしてこないで!これは私の問題なの!!金木君の問題じゃない!!!」
「でも俺はお前の力に」
「それが嫌なの!!!何で私にそんな関わってくるの!?小さい時のことならいいから!私が忘れてたくらいの事をわざわざ掘り出してこなくていいの!」
「俺は後悔してるんだよ!あの日お前を見捨てた事を」
「見捨ててないから!勝手に私が一人でここにいただけだから!金木君にはなんの関係もないの!変に後悔とかして今更話題にされる方がつらい!」
「俺はっ!!!」
「……」
「お前が好きなんだよ!!」
「はあ?」
なんでそこに飛ぶんだ!
「お前を俺が助けたい!!」
「助ける!?」
「いつも辛そうな顔を隠してるお前の力になりたいんだ!本当のお前を知りたいし、お前に心から笑ってほしい」
「……」
呆れるんだが…本気で言ってんのか…
「だから、俺の前では泣くことも弱音を吐くことも我慢しなくていいから!俺はお前を誰よりも受け入れるし、お前のことが誰よりも好きだ!!」
チッ…
「はぁ、金木君が好きなのは私じゃないよ」
「え…?」
「金木君が好きなのは可哀想な私だよ」
「…」
「私のこと可哀想な女の子としか思ってないんでしょ。一人じゃ歩けないような弱い子だと思ってるんでしょ」
「そうじゃなくて」
「いや、そうだよ」
分かんないなら言ってやる。
「私が泣いてるのは弱いからだと思ったの?俺の力がないと立てないと思ったの?助けなかった後悔は好きになるの?」
「いや、それだけじゃない!俺はお前が」
「いいから、金木君は他の誰もが知らない私を知ってると思ってるんでしょ…」
「……」
「あんなの、あんな一瞬のことが私の全てだと思わないで?私は金木君に何一つ私の事を話したことはないし、話す気もない。知ってほしいとも思わない。人を助ける正義感を好きという感情に混ぜてるだけだよ。本当は好きじゃない、私のことなんか誰も。仮に好きだとしてもそれは私じゃない。可哀想に恋をしてるんだよ。金木君は、他の誰でもいいの」
「それは違う!!俺はお前が好きなん」
「違うって!!!!!」
「…!?」
「違うんだって、私を好きなんてあり得ない!私は私のこと嫌いなの!!何にも分かんないの!!私は私を認めていない!私自身がそうなのに何で…」
こんな…
「なんで金木君が好きになるの…」
「鈴音…」
「私が好きっていう気がしれない、何も知らないくせに。私だって…」
私だって…自分のこと分かんないのに…
人はそんなに容易く好きと言えるのだろうか。
待てよ……言い過ぎた…か…
金木君の顔は……落ち込んでいる
そうも分かりやすく顔に出せるなんて、それこそ私があんたを救えそうだ。
そんなガラスみたいなハートでよくも好きとか救うとか言えたもんだ。
結局、後悔からきているだけで、私のことなんか何も見えちゃいない。
好き勝手に可哀想な子妄想を繰り広げられ、いい迷惑だ。
まだまだ言い足りないが、これ以上はか弱い王子様にはお気の毒だ。
ふと拝殿を振り返ると神様の笑みを感じた。どうやらやられたみたいだ。
目の前の金木君に励ましの一言を
「ごめん、言い過ぎた。これは私が悪いの。金木君のせいじゃない。気にかけてくれてありがとう」
「い…いや…いいんだ…。俺も一方的で悪かった」
フゥー…
こんなもんでいかがかな、神様。
「上出来だ」
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