音を知らない鈴

布袋アオイ

#43 二度目

 「どうしたの!?すずちゃん!!」

 「かた…片岡さん…」

 見られてしまった…。泣いてるところ。

 混乱している、みっともないところを見られた………!!

 驚きのあまり、真昼にも関わらず目の中に光が増して飛び込んでくる。

 「あ!!また!ごめん、すずちゃん!痛くなかった?」

 「へ…?」

 情けない声が出た。

 痛いとは?

 片岡さんは謝りながら私の腕をさすった。

 なるほど、また強く握られたのか。

 「ごめんね〜!加減が出来なくて…」

 見れば、またもや真っ赤だ。

 華奢な腕なのに、何でこうも強く痕がつくほど力が入るのだろうか。

 「痛かった…?」

 長い髪を耳にかけ、私の顔を覗った。

 「痛く……」

 そうだ、この人は痛そうな痕をつけるくせに腕は何の感覚も感じない程痛くないのだ。

 本当に不思議な人だ。

 「痛く…ないです…」

 「そう!!良かったぁ」
 
 「すいません…」

 体勢を整えて素早く立ち上がった。

 「おっ…大丈夫?」

 「大丈夫です。ごめんなさい。帰ります」

 逃げ足は速い。

 すぐに帰ろうとした。

 「すずちゃん!」

 もうやめてくれ……!

 今は平気な顔出来ないのだから…聞こえないふりをして足早に歩いた。

 「泣いてていいから」

 「…」

 境内の砂利の音が変わった。

 足で地面を踏み込むことが出来ない。

 重なる、塊のような音は個体ひとつずつの単調な音になった。

 「ここが落ち着くんでしょう?」

 あぁ、そうだね。

 でもそれは、ここに誰もいない時だけだ!

 今は、全然そんな空間じゃない。

 勘違いしないで。

 「大丈夫です、お参りに来ただけなので」

 「そんなはずない」

 はっきり言われた。

 片岡さんはまるで、嘘つきの子を叱るような目で私を見てきた。

 「なんで…そんな目をするの…」

 「すずちゃん、嘘は良くない」

 この人は、どういうつもりでいるのだ。

 まだ二回しか会っていない私に、説教をしようとしているのか。

 こういう人、本当に嫌いだ。

 私の事を分かりきっているかのような振る舞いが、鼻につく。

 いつだってそんな人を見ると不思議に思う。

 どうしてそんなに自信満々に人を決めつけられるのだろう。

 「嘘なんてついてないですけど」

 「それも嘘」

 「違う!!」

 声を荒げてしまった。

 「ねぇ、すずちゃん…何があったの」

 「何もない!!」

 「何もない子が膝をついて泣くわけないでしょ!!」

 「泣いてないって!!」

 「泣いてたよ!」

 「見てないでしょ!」

 「見たから」

 「クッ…」

 「すずちゃんが一人で苦しんでるの、私は見たから」

 「なんで……」

 「それを放っておけって言うの」

 「………」

 見ていないフリも人を救う事だってある。

 少なくとも、それは今の私だ!

 「お願い…あなたの本当の声を私に聞かせて」

 鋭く光る目が丸くなった。

 風の音が良く聞こえる。

 こんなに曇っているのに風は軽く透明になった。

 「おいで、あの時みたいに」

 あの時……

 丁度、風が木の葉を強く揺らしだし、片岡さんの声を複雑なものにしたせいで鮮明には聞こえなかったが、そんな風に聞こえた。

 けれど、かき消された言葉の前のおいでって一言に、どこかの私が身を委ねていった。

 あなたは本当に不思議だ。











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