音を知らない鈴

布袋アオイ

#42 例え曇っていたとしても

 「お前の力が確かな力として存在していた時代に移って、修行をさせられていたんだ。
その時代ではお前の力は生きているとされているからな。自分でも確実に手応えを感じ、心置きなく力を発揮出来たんだろう」

 「……」

 「世間の声、つまり常識は言わば結界だ。
思想と空間を時代毎にしっかりと隔っていくからな。言霊というのかな…どうやらその力は偉大で、あらゆる物に影響するみたいだ」

 「じゃあ、私は過去に移動して修行をしていたって事…」

 「そうだな…」

 「そんな事出来る?」

 「出来たんだよ、親父は」

 「過去にいく力なんて聞いたことない」

 「確かに、そんな事できたら」

 「現在が変化する」

 「ふん、そうだな」

 「…」

 「お前が小さい時に花と話せるって言ってたな」

 「覚えてたの…」

 「あぁ、だがお前がそれを自覚したらこの時代を生きるのには寧ろ足かせな力に気付いてしまう、そう思って否定していた」

 そういう事だったのか。

 「お前は感じた事がないか、植物も又時代によって違う事を…」

 「…確かに雰囲気といか神秘さというか」

 「俺にはあまり分からないが、どうやらお前の中で確かな感覚があるみたいだな。俺はこう考えている。お前自身が過去に行かなくても過去という空間を作ることは出来るってな」

 過去という…空間…

 「あっ!?」

 「気付いたな、そうだ。過去の雰囲気を持つものでこの空間を囲むという方法だ」

 「つまり、私が感じやすい自然のエネルギーを過去の物に置き換えるだけで私は過去にいるという錯覚を起こし、思う存分修行が出来た…」

 「あぁ、これがいわゆる結界だ」

 この空間の時の流れに違和感を感じていたのは事実だ…。

 まさかその結界の名残りで今でもそう感じていたなんて…。

 「信じられない…」

 「これが、お前の過去だ」

 「どうして……黙ってたの…」

 「言っただろ、お前の力は今の時代では生かすことが出来ない。知らない方が楽なんだよ」

 「じゃあ何で今教えるの」

 「お前がもう気付きだしていると思ったからな。俺はお前に、普通に生きてくれればそれでいいんだ」

 「……」

 「だから、お前に霊力なんて必要ない。普通に生きればきっと幸せになれる。お前を思っての判断だ。今を生き抜いてほしい。間違っていたとは思っていない。」

 何故か清々しい父親の顔に苛立ちが湧いてくる。

 どうも私を見てくれていないような気がした。

 「自己満足…」

 「ん?どうした?」

 「ううん、何にも無い」

 「そうか、じゃあ帰るか」

 「先に帰ってて…」

 「………」

 「すぐ帰るから」

 「あぁ、早く帰ってくるんだぞ」

 「うん!」

 とびっきりの笑顔でありがとうと言った。

 「おう」

 そう返事してスタスタと家に父親は帰っていった。

 改めて父親がバカで良かった。

 何も不信感を抱かず素直に帰ってくれて…。

 私の事何も知らないんだ。

 ガクン

 膝から崩れ落ちた。
 
 この短時間で物凄い量の過去が、記憶が掘り起こされた。

 追いつかない…!

 「私は……何なの!!」

 振り返ってみれば、

 結局、無能と言われた気分だ。

 今の時代?過去??

 どこでなら私は私でいられるの!?

 心臓より上の辺りでグルグル感情が動き回る。

 ひとつひとつ言葉に出来ない感情だ。

 頭までクラクラして立ってなんていられない。

 酷い…酷すぎる……

 「私は…私はっ……!!」

 吐き出したい気持ちがあるにも関わらず、
整理しきれていないものばかりでどこにどう出せばいいか分からない!

 言葉にも涙にも変えられない。

 行き場を失った思いが膨れて体中をかき回す。

 この数分で私が一体何なのか分からなくなった。

 冷や汗が止まらない。

 全てを思い出して事実を知りたい気持ちと、思い出してしまうのが怖い気持ちが戦っている。

 何かある、まだ私の知らない何かが!

 「お前の力はこの時代には生きていない」

 父親の言葉が頭に残る。

 「チッ……あいつのせいで…!」

 父親の言葉のせいでブレーキがかかる。

 知らない方がいいなんて事無いはずなのに…!

 鈴音、鈴音……鈴音……

 鈴音…鈴音…鈴音……

 色んな人の声で私を呼ぶ声が聞こえる。

 「誰……誰……!!」

 鈴音………鈴音……鈴音……

 「いやだ…」

 この響き、不快だ…!

 鈴音……鈴音………鈴音……

 鈴音……鈴音……鈴音………

 胸の奥をこじ開けられそう。

 怖い!!

 「聞きたくない!!聞きたくない!!」

 鳴り止まない!
 
 頭の中で複数人も私を呼ぶ声が

 聞こえてくる!

 「うるさい…うるさい!!」

 「すずちゃん?」

 「やめてーーー!!!」

 「すずちゃん!!!」

 「はっ!?」

 叩くように耳を塞いだ私の手に衝撃が走った。

 「どうしたの!?」

 「………」

 会えた…

 救われた…そう思った。

 目の前に再び、あの女性が立っていた。

 今日の天気はこんなにも悪いのに。

 まさか会えるなんて思いもしなかった。


 「かた……おか…さん…」

 「大丈夫!?」

 「………」

 また暗闇の中で会う事が出来た。

 一筋の光る糸…その輝きに暫く目を奪われた。










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