音を知らない鈴

布袋アオイ

#23 月光に照らされし貴様

 帰りなさい、そう言って姉はまた歩き出した。

 (意識があるなら、大丈夫か…)

 「いやいや!明らかにおかしい!」

 ここで姉を置いて帰るわけにはいかない。

 姉に気付かれないようにこっそり後をつけた。

 なるべく遠く、見失うか見失わないかギリギリまで距離を取った。

 心臓がバクバクする。

 いつもと違いすぎる姉に冷静ではいられなかった。

 きちんと生きている、生きているんだが

 こう……息をしていない…といいのか話をしたから呼吸はしているんだけど、酸素や二酸化炭素を循環させていないというか…

 とにかく雰囲気が全く

 「…!?」

  しまった!  

 距離を取り過ぎてしまった!

 混乱していたせいで姉が木に隠れ見えなくなってしまった。

 「ヤバい…!」

 直ぐ走って、姉を探した。

 「どこに行っちゃったんだ」

 木の辺りまで来たが姉がいない。

 「お姉ちゃん……」

 (…!?)

 居た!……ん?

 ここは……
 
 姉が立ち止まっていた場所、それが神社だった。

 夜に神社なんて、怖すぎるだろ!

 おかしい、姉はホラー映画なんて見ているところ見たことないし、好んでスリルを味わうよな人ではない。

 平穏がモットーのような人間だ。

 隠していたのか?

 姉のコアな部分を知ってしまった気がして冷や汗が止まらない。

 「…?」

 だが姉はピタリと

 鳥居の前に止まったまま動かない。

 ずっと鳥居の上の方を眺めている。

 「何をしているんだ…正気に戻ったのかな」

 だとしたらここまで来て正解だ。

 今話しかければ気付くかもしれない。

 きっと立ち止まっているのも混乱してしまっているせいだろう。

 (…よし…!)

 物影から出て声をかけようとした時だった。


 トストストス…

 誰か来る…!

 鳥居の向こう側、神殿の方からだ。

 (もしかして…!姉が立ち止まって見ていたのは鳥居ではなく………)

 「この人を見ていたのか…?」

 鳥居の階段の一番上に大柄な影が一つ。

 ゆっくりと階段を降り、月の光の下に姿を見せた。

 大きな人型の影が足元から照らされていく。

 そしてハッキリ見えたのは…

 (…何!?)

 これは現実なのだろうか、リアル過ぎる夢なのだろうか。

 僕の目に映り込んだのは六十前後の男の姿だった。




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