音を知らない鈴

布袋アオイ

#16 素敵な香りの人

 ここに来て何時間経っただろうか。

 帰りたくなくて、ずるずると時間を延ばしてしまっている。

 相変わらず、ボーッと町を眺めた。

 神様と同じ景色を一緒に見ているかのようだった。

 だが、そんな時間はいつまでも続きはしない。


 コツコツコツ

 (誰か来たのか…)

 大自然に浸る時間の終了を知らせる音がした。

 まだまだ続いて欲しかったのに、仕方が無い。

 逆に人が来てくれたおかげで区切りが着いた。

 きっかけが無ければ私はずっとここにいただろうから。

 朝の空気をいっぱい吸えたし、充分だ。

 ふとスマホを見ると、もうお昼時になっていた。

 ぐぅー…

 お昼と気づいて急にお腹が空いてきた。

 (帰ろう…。)

 この神社は拝殿の正面と右側に鳥居がある。足音は正面出ない方から聞こえてきた。

 来る人に気づかれないように静かに拝殿から降りて、 

 正面の鳥居の方に歩いた。

 「あっ…」

 足音はむこうから聞こえたと思ったのに、
その人は真正面の鳥居から来た。

  顔はよく見えなかったが、

 すっごくスタイルがいい人だった。

 (こんな人いたんだ…)

 背が高くて、華奢で。

 それでもオーラはふんわり優しい雰囲気を感じた。

 あまりの綺麗さに少し目を奪われた。

 「ん?」

 やばい!

 その女性がこちらに気づき目があってしまった。

 私の視線があまりにも強かったのか、首をかしげてこちらを見た。

 (見てしまった、サッサと帰ろう)

 お辞儀をするように下を向いて足早に歩いた。

 顔は見えなかったが、女性はゆっくり歩いている。

 数時間前の私のように。

 (この人もここが心の拠り所なんだ)

 分かる、分かります。

 心の中で深く共感して、すれ違った。

 (ん…何、この香り)

 すれ違った瞬間に優しい香りが頬をなでた。

 癒される香り、何処かで嗅いだことあるような…

 頭の中がピタッと止まってしまった。

 思考を停止させられた。

 (なんだろう……)

 考えているようで考えられない。

 「どうかしましたか?」

 「えっ!?」

 急に声がして慌てて振り返った。

 さっきの女性が私の後ろで立っていた。

 「あ、あの…すいませんっ」

 「ん?何が?

 私こそ急に声をかけてごめんなさい。でも、あなたが突然止まったから何かあったのかなって思って」

 (止まった………?)

 「はっ!!」

 また振り返ると自分はまだ鳥居の前にいた。

 「あ…あれ??」

 思考の停止と共に、足まで止まっていたらしい。

 絶対変だと思われたっ!!

 変人だって…

 だって、急に止まる人なんていないでしょ!?

 現に声かけられてるし!

 アワアワして冷や汗が止まらない。

 「あの、どうしたの?」

 「へっ!?嫌、何でもないんです!」

 「本当に?」

 「はっはい!すいませんっ!!!」

 取り敢えず謝ってその場を逃げようとした瞬間

 バシッ!

 「……?」

 驚いた。腕を掴まれている。

 (え………)

 声も出なかった。

 (何なの…この人……)

 体中に恐怖が走った。

 「ごめんなさい、ちょっと待って」

 人生で一番ドラマの様なシーンに思考は完全停止した。

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