様々な性 

遠藤良二

第10話 デート

カラオケは三時間歌った。加奈さんはそうでも無いように見えるけれど、僕は疲れてしまった。加奈さんが話し掛けてくれた。
「晩御飯、どうする? もう夕方だけど」
「悪いけど、夕飯食ったら解散しない?」
そう言うと加奈さんは残念そうに、
「具合悪いの?」
と、訊いた。
「いや、疲れた」
うーん、と唸り、
「あたしの家でカレーでも作って食べようと思ったの。だから、休んでいきなよ」
本音は自宅で休みたかったけど、ここで断るのも折角の好意を無にするようで悪いからそうすることにした。

僕は車の中で加奈さんに話し掛けた。
「具材はあるの?」
「さっき、待ち合わせしたスーパーで買い物してくよ」
と、加奈さんは言った。
「明日は日曜日で仕事もないから、呑もうかなぁ。山宮さんは呑むの?」
「うーん、少しね。薬とも相性悪いからさ」
加奈さんは、うんうんと頷きながら、
「確かにそうねぇ。じゃあ、ビール一本だけは?」
「あ、それだけならいいよ」
加奈さんは車をスーパーの方に向けて走り出した。
「結構呑むの?」
僕は尋ねた。すると、
「めっちゃ呑むよ」
言いながら笑っている。
「下ネタ言っていい?」
「え! 呑む前から?」
「駄目なら良いけど」
彼女はまた笑いながら、
「いや、良いよ。別に」
と、言った。なので僕は、
「看護師ってストレス溜まりやすいから、あっちの方も好きって聞くけど本当?」
「アッハハ! まあ、そういう看護師は多いよ。あたしもそうだけど」
僕は黙っていた。
「訊いといて、黙らないでよ」
「あ、ごめん」
加奈さんは首を左右に振りながら、
「いやいや、別に謝らなくていいよ」
そう言いながらまた笑っている。本当によく笑う人だ。

喋っている間に先程待ち合わせしたスーパーに到着した。中に入ってみると、結構混雑していた。買い物は二人分のブタステーキ二枚と玉葱一個、ミニトマト一パックと、三百五十ミリの六缶パックビールを一つ、二リットルのウーロン茶を赤い買い物かごに入れた。かごは僕が持っている。女性に持たせたくないから。レジへ向かうと、今日は売り出しなのか分からないが、ズラッと長蛇の列。五台、レジがあるけどすべていっぱいだ。

「しかたない。待とう」
僕は、赤いかごを静かに床に置いた。その光景を加奈さんは見ていて、
「床に置いたらよくないよ」
と、言われてしまいもつことにした。内心、加奈さんは結構細かいんだな、と思った。

十五分くらい待ってようやく順番がきた。店内は寒すぎるくらいクーラーがきいている。

並んでいる客層は年配の人が多いように見える。

僕等の買い物はそんなに多くないので、数分で終わった。

僕は、「あとで払うから立て替えておいてくれない?」というと、
「いやいや、あたしが誘ったんだからあたしが払うよ」
その言葉に驚いた。
「それは悪いよ」
「大丈夫。あたし、看護婦よ」
僕は屈服して、「わかった」と言った。
レジの前でのやりとりに店員のおばちゃんは迷惑そうな顔をしていた。
すみません、と僕は言いながら赤いかごを持って、袋に入れるために台の上に持っていった。加奈さんはそのまま支払いをしている。

袋に詰め終わって、「ありがとうございます」と礼を言うと、
「全然だよ」と言ってくれた。

二人で並んで歩いている姿はカップルか夫婦にみえるだろうか。

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