病と恋愛事情

遠藤良二

第1話 心の傷

今日も俺はあくせくと必死に働いている。

いろんな客がいて、昼間から酔ったいきおいで商品の文句を言ってくるやつもいれば、万引きをするやつもなかにはいる。もちろん、そういう客は見つけ次第事務所に連行して、警察を呼ぶ。

今は、夕方で客層は主婦なのか女が多い。結構混んできた。あと、年配の客や仕事帰りなのか作業服を着ている客もいる。

俺は疲れた体にムチを打つように売り場で発注をはじめた。発注をするのは俺と副店長の福原ふくはらさんだけ。

いまの時間帯のシフトはパート従業員が三人に店長の俺。レジは二台あって、両方とも客が二、三人並んでいる。

俺がいま、仕事をしている場所は北海道の田舎町のなかにある。

一応、店長という肩書を持っていて氏名は伊勢川晃いせかわあきらという。

俺はいまだ婚姻歴は無く、彼女もいないし、もちろん子どももいない。でも、趣味ならある。それもかなり強い思い入れがあり、小説を書くことと読書だ。一応、毎年出版社の公募には投稿している。いつになるかはわからないが、作家になって一攫千金を夢見ている。読書は毎日切れのいいところまで読んでいる。それくらい俺は小説が好きだ。書いているジャンルは恋愛小説で、好きな読書のジャンルは恋愛とミステリー。

仕事が終わる時間は午後六時。今日は何事もなく勤務が終了した。帰ってからは、まずビールを一本だけ飲み、そのあと食事を済ます。食事と言っても自炊することはほとんどなく、ほぼ毎日自分の職場のコンビニ弁当か、気が向けば食堂に食いに行くこともある。

いまは自宅でゆっくりくつろいでいた。そこに携帯が鳴った。だれだと思って画面を見ると、母親からだった。

『もしもし』
「晃? 仕事終わったんでしょ。何してたの」
『疲れたからくつろいでた。どうした?』
「あんた、明日病院の日でしょ? 調子はどうなの?」
病院に行く日をよく覚えているなと、俺は思った。
『調子はよかったり悪かったりだ』
「いまでも聞こえるの?」
『たまにな』
俺はだんだん母親との会話が面倒になってきた。
「心配だから、たまにはわたしもあんたと一緒に先生の話聞きたいんだけど」
『いいよ、ひとりで行くから! それに恥ずかしいだろ! この年で親と一緒に病院なんて』
強い口調でそう言うと、母親は黙ってしまった。
「そんな言いかたしなくたっていいじゃない。こっちは心配して言ってるだけなのに」
『心配は無用だ!』
「あっそう! 心配して損した!」

母親の心配なんかいらない。発病した当時はだいぶ世話になったから、その恩をわすれたわけではない。ただ、母親が大した理解もないのに心配だ、心配だというのが気に食わない。おやじも同じだけど、病気になって約1年はたしかに世話になった。一人暮らしだった俺を同居させてくれた。でも、回復してくると働けない俺にふたりして不満が募ったのだろう。なまけ者、働かざる者食うべからず、など親とは思えない誹謗中傷を浴びせられてきた。その心の傷が未だに消えないで残っている。だから、つい怒鳴ってしまった。俺だって病気にさえならなかったら両親とはもっと円滑にいっていたかもしれないのに……。すべてはこの病気のせいだと俺は思っている。

そのまま、電話は切れた。俺だって本当はわかっている。いくら両親の理解がなくても、どれだけ心配しているかぐらいは。

ただ……ただ、いまも残る心の傷が俺を素直にさせないのだ。でも、またやってしまったという気持ちが正直なところだ。

こういう感じでたまに親と口ケンカしては後悔の念に駆られる。悪い癖なのか、そういう性分なのかはわからないが。

母親も言っていたように俺は明日、有給をとってある。副店長の福原さんには俺が病気を患っているということは伝えてある。

ほかのパートさんは知らないが。

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