言いたいことが言えない
親友からの手紙
親愛なる人へ
僕は、今でこそ皇帝マルクス・アウレリウス、ニーチェやアラン、夏目漱石らに影響を与えた人物だなんて言われているけれどね。
そんな風に人に影響を与えるようになるなんて、夢にも思ってなかったことなんだよ。だって、僕は貧しい奴隷の生まれだったのだから。親愛なる友よ、僕の秘密をどうか聞いてくれるか。
僕の母は、奴隷階級の人だった。
トルコ西部のヒエラポリスで生まれ、その後まもなくして、僕も奴隷として売り飛ばされた。
ー 時代はローマの五賢帝時代
ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスが皇帝として国を納め、繁栄していた。
僕、エピクテトスが生きた時代は、五賢帝のうちネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌスが皇帝の時代だ。ちなみにエピクテトスという名前はどっかの誰かがてきとうに付けたらしい。
僕は両親が奴隷というだけで、生まれた時から奴隷として生きるほかなかったのだ。しかも、片足は怪我を負っていてまともに歩けやしない。一方で皇帝ネルウァの治める国はというと、豊かになりつつあったので、人々は繁栄を享受し、豊かに暮らし、なんとも楽しそうにしていたのだった。
奴隷という立場で、ずいぶん辛い思いをしたことも多かったんだ。街の人々がどれだけ楽しそうにしていても、そうでなくても、僕の立場は奴隷から変わることはない。明日も重労働があるし、言いつけを守らなければならないし、人に命令され、それに従わなければいけない日々であることに、変わりはない。
こんな僕を、君はみじめだとか、哀れだとか、可哀想だとか思うだろうか?
そんな風に思ってくれてもかまわないさ。
でも、これだけは言わせて欲しい。僕は自分のこんな境遇に悲観して嘆いているわけでも、絶望して自棄になっていたわけでもないんだ。
世の中ってものは、広いもので、本当にいろんな人がいるんだね。お金も、時間も、影響力も持ち合わせている人。すべて、僕が持ち合わせていないものだ。
それを、生まれながらにして持ち合わせている者もいるのだと知った時には、さすがに愕然としたよ。当然、羨ましくも思ったりもしたさ。
だけど、彼らは彼らでどうやら大変そうだったよ。
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