第62話 力の限界

愛理は体力が限界に近付いており、動きが鈍くなっていた。 そんな愛理に気が付いたのか特殊魔法部隊の男性が愛理に後方で支援をしててくれと言う。

「そんな！ 私はまだ戦えます！ 奏だって支援してくれてるし！」

愛理のその言葉にダメだと続けて男性は言う。

「君はもう体力の限界だ！ 戦うことはできない！」

愛理はそう言われ後方に下がろうとすると、奏に甲冑の怪物が向かっていることに気が付いた。 特殊魔法部隊の男性は甲冑の怪物に吹き飛ばされており、自身しか助けることはできない状況であった。

「奏！ 危ない！」

愛理はライトスピードを発動させて奏の前に立った。 そして、ライトシールドで甲冑の怪物の刀での大振り攻撃を防ぐ。

「ぐぅ……がぁ……」

ライトシールドを持つ左手が激しく揺れている。 愛理は右手で左手を押さえるも尚も揺れが止まらない。 愛理はこれほどまでに威力がある攻撃を受けたのは初めてだと思いながらも、背後にいる奏に逃げてと叫ぶ。

「でも！ お姉ちゃんが危ないよ！ 私だけ逃げれない！」

奏がそう言うが、愛理は逃げてと声を上げて叫ぶ。 その声を聞いた奏は、涙を流しながら特殊魔法部隊の女性隊員がいる場所まで走っていく。 すると、甲冑の怪物は顔を奏は走った方向に向けた。

「何で奏を狙うの！ 奏を傷つけさせない！」

愛理が甲冑の怪物に言うと、愛理を見向きもせずに奏の方向に走っていった。
愛理はすぐに甲冑の怪物が走った奏の方向に走る。しかし、甲冑の怪物の速度が速すぎるため、追い付くことが出来ないと思った愛理は、ライトスピードの限界を引き出し、身体の軋みを歯を喰いしばりながら我慢をして奏の前に立つことが出来た。

「奏を殺させはしない！」

ライトソードを構えて、眼前に迫る刀を防ぐ。 しかし、大振りの力を込めている攻撃を簡単には抑えることが出来ずに、愛理は両手を震わせながら身体全体に力を入れて攻撃を抑えていく。しかし、甲冑の怪物は尚も力を入れて愛理を押し潰そうとする。

「こんな怪物に……負けるわけにはいかない！」

両足力を入れて、攻撃を防ぎながら奏に逃げてと言う。

「お、お姉ちゃん！ 負けないで！」

奏が愛理に声をかけた瞬間、甲冑の怪物の刀で押し切られてしまいライトソードを弾かれ、愛理の右腕が切断されてしまった。

「え……わ……私の腕が……」

空中を飛び力なく地面に落ちた自身の右腕と、右腕の切断面からおびただしい量の血が流れ落ちるのを見た愛理は、燃えるような熱さと痛みに気絶せずに声を押し殺して堪えていた。愛理の後ろにいた奏は愛理の血が顔にかかったが、一瞬何が起きたのか理解が出来なかった。

「お、お姉ちゃん……」

自身の顔についた愛理の血を両手で拭くも、血がついた範囲が伸びてしまう。 奏はその場で絶叫し、気絶してしまった。愛理は右腕の切断面を左腕で抑えていると、甲冑の怪物が愛理の左頬に蹴りを浴びせて愛理を吹き飛ばした。

愛理のその様子を見ていた周囲の避難者やテレビを視聴していた人たちは、その愛理の苦悶の表情を見て改めて怪物の恐ろしさを感じていた。今までは誰かしらが倒してくれるだろうと楽観視していたが、いざ目の前で少女が一人で戦って腕を失う現実を目にして、自身の隣に死があるのだと実感していた。

視聴者や周囲の住民たちは愛理の痛みに耐える姿や怪物の恐ろしさを見て、怪物の強さや残忍さを感じていた。以前愛理が戦っていた姿を中継で見ていたが、その時は勝ってくれるだろう、自身には関係のない出来事だと考えていたが、それは違うことだとこの戦いで日本中が再意識した瞬間であった。

「う……腕が……痛い……私の腕が……」

愛理は地面に力なく落ちている自身の右腕を見つつ、甲冑の怪物を睨む。甲冑の怪物は標的を奏から邪魔をしてきた愛理に変えたのか、刀を構えていた。特殊魔法部隊の男性は気絶をしているのか地面に倒れ続けている。

「私がやらなきゃ……私は戦う力があるんだ……」

痛みに耐えつつ足腰に力を入れて愛理が立ち上がると、背後に突然誰かが抱き着いてきた感覚を感じた。

「だ、誰？」

顔を歪めながら背後を見ると、そこには愛理に抱き着いているエレナと涙を流しながら愛理を心配している楓の姿があった。

「エレナとお母さん！？ 何でここに居るの！ 早く逃げて！」

愛理はエレナと楓に叫ぶと、楓が心配で来たのよと叫ぶ。すると、エレナも愛理が心配だからと涙を流しながら言った。

「ごめんね……私の力じゃ……あの怪物倒せなかった……」

愛理が涙を流しながらエレナの頭部を左手で撫でると、エレナはまだ戦えるよと言う。

「愛理の守りたいとの気持ちがあれば、愛理は守るためにまだ戦えるよ！」

愛理が何を言っているのと言おうとした瞬間、エレナの身体が眩い光を放ち始めた。