自然溢れる場所に美少女がいた。

降花

出会い

 バイトが終わった頃には日が落ち始めていた。アブラゼミやツクツクボウシがそこらじゅうで鳴いている。今日こそは、ヒラタクワガタを捕まえたい。去年は雄しか捕獲出来なかった。この辺りではヒラタクワガタは珍しい。カブトムシやノコギリクワガタ、コクワガタが近所の子供達のターゲットだ。夜に家族連れと遭遇する事もあるが大体がお一人様である。雑木林に入ると薄暗さが増してヒグラシの鳴き声が不気味だ。バサバサ!っと鳥の羽音がしたりブーンって重く低いスズメバチの羽音が聞こえる。早く帰りたい……涼やかな風が甘い匂いを運んできた。樹液の香りでは無さそうだ。匂いに釣られて歩くと夏服の学生服を着た少女が膝を抱えて顔を伏せていた。見た瞬間に口を塞いだ。

「……」

「お疲れ様でーす」

 声をかけてからもうダッシュで逃げようとすると

「待ってよ。ねぇ!行かないでよ!」

 声を掛けられた。俺の背中は冷や汗でビッチョリだ。

「どうした?」

「友達と肝試ししてる時に怪我をして置いてかれて…携帯も充電が切れてて…お願いします、助けてください…」

「助けないわけ無いだろ」

「さっき逃げようとしてたし…」

 女子高生を連れ帰り、挫いた足にシップを貼った。冷たい麦茶を渡してひと息つく。

「女子高生捕まえるとは思わなかった」

「捕まってないから」

「そうか」

「ところでその猫は何?」

「JKのついでに拾ってきた」

「どうやって?」

「『僕も連れて行けニャー!』って言ってたし着いて来た。」

「何それ笑言う訳無いし」

 名前と住所を訊いて送り届け無いとな…ご両親も心配してるだろう。

「俺の名前は松山 孝介まつやま こうすけだ。君は?」

「私は草原 美咲くさはら みさきです!助けて下さりありがとうございました!」

「良い名前だ。家はどこ?」

「目の前のマンション、901号室です。」

「凄く近い!」

 ビックリした。何故、言わなかったのか…林でイチャイチャしてる学生が居たり、家が目の前に有るのに連れ込まれるとか最近の高校生は解らん。

「大人の男と自分の家に行くのは、抵抗があったから…」

「俺が草原さんを自分の部屋に一時的に連れ帰る方がリスクがあるんだからな。」

「何をしてても捕まる時は捕まるよ?」

  捕まる時は捕まる、確かにな…

「俺は大学生でバイトしたり趣味で生き物を飼育して生活の足しにして、生きている」

「部屋中に虫カゴがあって引いたけど、どんなの売ってるの?」

 虫の幼虫や蛾、ゴキブリを見せる訳には行かないし…どんな奴が適任だろうかー。…綺麗なクワガタを見せて様子を見るか。俺はブリーダーと名乗っては居ない。カッコつけて、昆虫鑑定士を名乗って居る。勢いで鑑定や買い取り、販売をする旨を記載した名刺も作った。名刺を渡してから様々な色のニジイロクワガタを見せる。

「えっ?これクワガタ?凄く綺麗…」

「ニジイロクワガタだ。今、見せたのはノーマルカラーだよ。これがグリーンカラー、これはレッド、ムラサキ、ブラック…そして最近、血統の固定化が出来たブルー個体。カラフルな上にメタリックで光沢があり、ツルツルしている。サイズや体の色、複眼の色で値段が跳ね上がる!」

「ヤバッ!虫なのに宝石みたい!」

「生きた宝石と呼ばれている。この虫以外にも魅力溢れる虫は沢山いる。今見せたのは色虫の一種だ。色虫にも色々な種類がいる。良かったら飼育してみないか?」

 草原さんは困った様な表情をしながら小さく笑う。中々に美人ですねー!

「でも、お高いのでしょう?飼育方法も判らないし…」

「最初はサービスで無料にする。飼い方がわからなければ、教えるし作業も手伝う。まずは、簡単な種類から飼育を始めよう!」

「サービス良いね…」

「それが俺の売りだ。」

 思わず決め顔になってしまった。

「林で虫捕りしてたの?」

「そうだ。市場には出回らなくて金になるやつを探したり、此処らでは珍しいヒラタクワガタを捕まえようとしてた。」

「この近くでもお金になるのが居るんだね…」

「お金にしようと大量に飼育している訳では無い。売れない時は売れないからなぁ…餌代がかさんで赤字になりそうになる。あくまで、好きだから飼育している!」

「そっか!」

「親も心配してると思うから、そろそろ帰らない?明日までに飼育セット用意して待ってるから。」

「わかった!今日はありがとうございました!」

 玄関先まで送ると静けさが戻る。明るくて元気な子だったな。パプアキンイロクワガタと飼育セットを用意して、明日に備えた。


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