十二分のかなしみ

小鳥 薊

第9話世界の終わりに

今日、世界が終わります
跡形もなく、なくなります
あと数分だと聞いています
わたしはもうすでに
もとの姿で存在していません
最後に
おろしたての真っ青なシューズを履いて走りたかった

そんなことしか思わないもんだね
平和だったな
赤い火の川を
ゆっくりと流れている
みんな 姿を変えて
誰も見ることができません
感覚がなくなったのかもしれません
だけど不思議と
この川が赤いということはわかる
この川はどこへ行くのでしょうか
この世界が終わるとき
最後の一人は誰なんだろう
その人はきっと
いちばんかなしくて
いちばんかわいそう
世界というものはそれ自体を客観視できている間しか存在し得ない

ソーダ水が飲みたいです
歯磨きをして
あなたと口づけしたいです

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