夏の仮睡

小鳥 薊

第17話*****カイトの手紙

――マオ宛の手紙より。



マオ。
僕は、残りの人生を全て君へ捧げると決めたよ。

あの頃に、どうしても、どうしても手に入れたかった君を、やっと、この腕に抱きとめることができたのだから。

君に触れようと思えば、いくらでも触れられる距離と時間が、今の僕達を包んでいる。
そうして、やっと僕は安心して眠ることができる。
やっとだ。

僕と君がこうしていられるようになるまでに、途方に暮れるほど長い歳月が過ぎてしまった。
今のこの状況を、やっぱりまだ信じられずにいるよ。

マオが居ない間、それでも僕は大人になることを拒否したわけではなく、ちゃんと大人になった。

あれからずっと僕は、いつか君が帰ってきてもいいように、どんなときでも君の居場所を用意しておこうと思っていた。
だけど次第に変わってきた自分にも気付いていた。

やがて僕は、一人の人をちゃんと愛して、愛されて、あの頃の僕らの歳よりも大きく育った息子を授かり、自分もちゃんと歳をとった。

後悔はしていないが、やっぱり君に会うと罪悪感は、正直あったんだ。
妻に先立たれ、息子も家を出て、一つの時代が終わったと思った。
そしてそれは、僕に穏やかな毎日を齎し――ああ、僕はこのまま歳をとり、ただ死に向かって静かに……ただ静かに過ごしていくのだ、と思っていた。

マオは、どうして今になって、僕の前に現れたのだろう。
それは、マオだって分からないことだから、問われても困るだろうね。
僕は、この因果についても、密かに思いめぐらすことが、最近増えてきてた。
昔はそんなこと考えもしなかったのに。

マオ、君は今、何がしたい?
僕に、何をしてほしい?
世界一周旅行だって、君が望めば、きっと叶えてみせる。
大きな宝石だって、用意する。

僕は、これから一生をかけて考える。
そんなことを考えるのが最近の楽しみなんだ。こんな時間を与えてくれた君に、本当に感謝しているよ。


さて、明日はどんなことをして、君を喜ばせよう。



(封は切られていない。)



この手紙は、後にカイトによって破られる。

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