夏の仮睡

小鳥 薊

第10話***望み

――マオのノートより。

タンタッタ、タンタッタ。

恋人たちのダンスパーティが始まる。
きらめくドレスやガラスの靴はないけれど、せめて真っ赤に塗った爪先を、彼の肩で泳がせ良い気分。
別れ際、彼が囁く。
「約束だよ。明日もきっかり、この時間、この場所で、待っている。」
恋人達の約束の場所は、夜の学校。屋上へ続く階段の踊り場だ。

タンタンタン。

階段を駆け上がる、彼女は言った。
「私達は決して結ばれない二人。」
けれど、二人は気にしない。
昼間は会っても知らぬ顔。それでいいの。二人で秘密を共有したい。
「私達だけの秘密を、紡いでいきましょう。」
待つ恋人、急ぐ恋人。今日はお互いどちらだろう。

たとえ、永遠に誰にも祝福されなくたって、構わない。
階段の踊り場。灯りを燈すことはできないけれど、月の光を照明にして、朝が来るまで踊りましょう。
青い、青い、柔らかな光。

彼は大きくしなやかな掌を彼女へゆっくりと差し出した。
彼女は、その大きな瞳で彼だけを見つめ続けている。
「朝が来たって大丈夫、また、明日、会えるから。」
「そうね、明日のために生きていける。」
そう言って、彼女は彼の手に自分の小さな手を乗せた。


(カイトと初めてのデート、夜の校舎の恋人達……次はプールの話。)

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