夏の仮睡

小鳥 薊

第6話はじまりの日、遠い過去

――マオのノートより。


ぽうっと明りが灯る。

ライターなんて上手く使えない。
親指が痛いな。

静かだ。
此処は、凄く静かだ。

閉鎖された空間。
私は膝をたたんで丸くなり、まるで母の羊水の中にいるみたい。
やがて、身体全体が湿ってくると、私は益々、安堵した。

先生、関係のない皆さん、教室を穢してしまうこと、本当にごめんなさい。
復讐の舞台はやっぱりここしかないって思った。
今日も私の心身はぼろぼろで、ここまでどうやって辿り着いたか覚えていない。
とにかく私は、還りたいのだ。

教卓の中の狭い空間。
冷たく硬い感触だけど、何かに触れているだけで少し安心します。
夜の教室って、すごく寂しい場所です。
けれど、思うのです。
昼間の教室よりも今の私は夜が似合う。月が優しいのだ。
この教室には、私に優しくしてくれる人なんて一人もいないのだ。

私は、もう限界です。
どうして、私だったのか。
私は、人というものが、恐くて仕方がない。
自分を殺した存在は自分と同じ生き物だ。私は、私のことも醜くて汚くて嫌いだ。

灯油ってこんなに臭うんだな。
大丈夫、恐くない。
今まで耐えてきた痛みに比べたら、この身を焦がす痛みにも耐えられる。
心も身体も、真っ黒にして、亡霊になったら、私は、私をいじめた人たちに復讐するのだろうか。

今、身体は芯まで冷たさが染みわたった。
だから、私は――。



(このページはこれで終わっている)


マオは集中していた。良い場所を見つけたと思った。
けれど、このことが校内の誰かに知れたら、こっぴどく叱られるだろう。
小説を書いているときは、現実とは違う世界にいけるので楽しい。
その日は、あまりに集中しすぎて、誰かが近づいていることに全く気がつかなかったのだ。

マオとカイトの物語が始まったのは、このときから――。思えばいつも月が見ていた。


          

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