幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

ツンデレ

「ていっ」


「へぶしっ!? ……い、いきなり何をするんだ!?」


みのりんの背中から唐突に振り落とされ、ダンジョンの硬い床に熱烈なキッスをしたベイドが、憤慨して立ち上がる。


その安定した立ち姿を見て、みのりんは“よしっ”と頷いた。


「麻痺毒の効果は切れたみたいだね。じゃ、ここからは自分の足で歩いてよ」


「言っている事は尤もなんだが、他にやり方があっただろう……」


ちっとも悪びれる様子がない、みのりんに呆れて怒りが萎えたのか、ベイドはガックリと肩を落とした。


そんなベイドに苦笑しつつ、みのりんが口を開く。


「いやぁ、ベイドさん末っ子だし甘やかすと調子にのるかなって。『末っ子は基本的に甘ったれなのよ。ほら、お父さんを見てると分かるでしょ?』って、お母さんが言ってた!」


「君の父君は、さぞ尻に敷かれているんだろうな……。君も、いつか誰かと結婚したら、その母君のようになりそうだ……」


明後日の方角を見据えて遠い目になるベイド。


みのりんの未来の旦那に同情でもしているのだろうか。


「うーん、そもそも私って結婚できるのかな?」


「それは……努力次第という奴じゃないか? まぁ、君は基本的に善人の部類だろうし、見た目も悪くはないのだから、慢心しなければ問題ないだろう」


素直に褒めるのが癪なのか、はたまた本心を口にしているだけなのか、いまいちパッとしない評価を下すベイド。


そんな彼に、みのりんも微妙な笑みを返した。


「だと良いけどね〜。さて、それはそうと、さっきの話を纏めると、ベイドさんは誰かに認められたかったってこと? ううん、誰かじゃなくて別れてきた家族に。それも、別の能力じゃなくて、純粋な騎士としての力で」


ある程度、空気が和んだところで、みのりんが話を本題に戻す。


その直球な問いかけと、雑談を挟んだ気遣いのギャップからか、ベイドがクスクスと笑い出す。


「本当に君は面白いね。一見、能天気なお人好しで、気まぐれに動いているのかと思えば、そんな風に核心を突いてきたりもする。人の心の機微に敏感で、気配りも上手い。君を育てた、ご両親は立派な人達なんだろうな」


「まぁねっ! 私にとっては世界で一番のお父さんと、お母さんだよ!」


これでもかと胸を張って、家族を自慢するみのりん。


そしてベイドは、そんな、みのりんを眩しそうに見つめていた。


「そうだろうね……。僕の両親とは違うタイプだろうけど、本質的には近い気もする。僕が秘密を打ち明ける気になったのも、どこかで君に父上や母上の面影を感じたから……かもしれない。こうして誰かに優しくされたり、弱い所を見られたり、突き放しても近付いてきたりしたのは、家族以外では、君が初めてだ」


「えっ、もしかして私、口説かれてる?」


「なぜそうなるっ!? 僕は、ただ事実を客観的に分析しただけであって!」


「はいはい、ツンデレ、ツンデレ」


「だから、そのツンデレとは何なのか! 意味は知らないけど、馬鹿にしていることは分かるんだぞ!」


それから、ヒートアップしたベイドを宥め、話の続きに戻ったのは、5分ほど経過した後だった。

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