幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

壁を一つ超えて

「うぉらぁぁぁっ!」

ダンジョン内の、とある大広間に、カナの咆哮が木霊する。

そして、戦場を駆ける小さな獣が、その拳を放つ度に、2倍、3倍の体躯を誇るモンスター達が冗談みたいに宙を舞っていた。

幼女が化け物を圧倒する絵面は非常にシュールだが、あいにく、そんなことを気にかける余裕のある者は、この場にいない。

もう一人のパーティーメンバーであるラックも、必至の形相でモンスターから逃げ回りつつ、反撃の隙を伺っているからだ。

「ひぃぃぃっ!? カナさん! ぶん殴ったモンスターが、こっちにメチャクチャ飛んできてますっ! もうちょっと配慮を!」

「アホかっ! こんな大量のモンスターを捌いてる時に、そんな余裕ある訳ねぇだろ! ほとんどの敵は、こっちで引き受けてんだから、流れ弾くらい何とかしやがれ!」

「うぅ……。それは、そうですけどぉ!」

実際、カナは100体近いモンスターに囲まれながら一人で凌いでいるため、他の事に気を配る余力はない。

その上、この騒ぎを聞きつけているのか、大広間に繋がる通路から次々と増援が押し寄せている。

それらをラックの元に向かわせないよう、カナは敢えて派手に立ち回っているのだ。

「ベイドの奴に一泡吹かせたいんだろ! いつか英雄になりたいんだろ! だったら、ここらで一発、根性を見せてみろやぁ!」

「ちょ、カナさん!?」

カナの叫びと共に打ち上げられた大型のゴーレムが、ラックに迫る。

とどめだ、ラック!」

意図した訳ではないが、良い機会だと開き直ったカナが声を張り上げる。

「ッ! “ウィンドカッター”!」

咄嗟のことで、反応できない可能性も当然あったが、さすがは商人。

好機を確実にモノにする見事な勝負強さを発揮して、一瞬で有利な属性の魔法を選択し、ゴーレムを光の粒子に変えた。

「ハッ! やりゃあ出来んじゃねぇか! ちょうど良い! モンスター共を片付けるついでに、スパルタ訓練と行くか!」

言うが早いか、今度は意図してラックに向けてモンスターを弾き飛ばすカナ。

先程とは違って小型の骸骨モンスターだが、その数は続けて10体だ。

「えっ、ちょ、まっ!?」

「ほらほら! 無防備な空中で仕留めねぇと群れで襲ってくんぞ〜!」

「こ、この鬼教官ー!」

ラックの絶叫も虚しく、カナは、その後も一方的にスパルタ指導を強行したのだった。

そして、全てのモンスターが消える頃には、ラックは疲れ果てて気を失っていた。

まぁ、その甲斐あってか、ラックの勝負度胸と実戦勘は短時間で大いに磨かれたので、結果オーライと言えるだろう。

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