幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

ラックの夢と劣等感

「なぁ、ラック。お前は、なんで商人になったんだ?」

ラックがスライムのサンドバッグにされ続けて数時間後。

すっかり日が沈んだ森の中で、三人が焚き火を囲む中、カナはおもむろに、そう尋ねた。

ちなみに今は食事中で、みのりんとラックはストレージにある食料アイテムを、カナは付近のモンスターがドロップした食材アイテムを、それぞれ口にしている。

ただし、カナに関しては調理もされていない生肉だ。

ゲームなので、お腹を壊す心配は無いが、それでもワイルド過ぎるだろう。

「商人になった理由……ですか? そうですねぇ……。ある人に憧れたから、でしょうか?」

そんなカナの振る舞いを気にも留めず、大人しく質問に答えるラック。

もはや、カナなら何をしてもおかしくないと思われているのかもしれない。

「ある人って? お父さんとか、お母さん?」

当然、カナと付き合いの長い、みのりんも、特に言及はしない。

せいぜい、『カナちゃんらしいな~』と、呆れ半分で、チラ見する程度だ。

もしもネネが、この場に居たら、生肉を食うなど、たとえ実害がなくても涙目で止めさせただろうが。

「いいえ、とある英雄譚に登場する伝説の商人のことです。彼は商人として大成功を収めただけでなく、英雄の一員として第10階層を制覇し、楽園に旅立ったと言われています。今では、その名前も失われてしまい、数々の偉業だけが記録として残されていますが」

「へぇー、そいつつえぇんだな」

カナが獲物を狙うような鋭い目付きで、汚れた口元を拭う。

ついでに、ニヤリと不敵な笑みも浮かべており、実に楽しそうな様子だ。

「はい。武にも秀でていて、商才もあって、まるでベイドさんみたいです」

どこか、かげを思わせる複雑な笑顔で、そう語るラック。

みのりんは、それに気付いたが、ここでは見て見ぬ振りをした。

まだ、深く突っ込む時ではないと思ったからだ。

「はぁ~? あいつが英雄って器かよ?」

カナは気付いているのか、いないのか、ただ呆れたようにラックを見つめていた。

そして、ラックも、その言い分は理解できるようで、苦笑いしている。

「まぁ、確かに、あまり褒められた性格ではないかも知れませんが、実力はありますから。彼を導いてくれる何か、あるいは誰かがいれば、いずれは、そんな可能性もあるかと」

「そんなもんかねぇ?」

あまり納得がいっていない様子で、もそもそと肉を喰らうカナ。

そして、それきり、口を閉じてしまったので、今度は、みのりんが気になった質問を投げることに。

「じゃあ、ラックさんは? 英雄になりたいって思う?」

「そんな、まさか。僕の方こそ、英雄には程遠いですよ」

気弱な笑みを浮かべて、そう口にするラックだが、なんとなく本心ではない気がした。

いや、自分に相応しくないとは思っているのかもしれないが、それだけでも無いという直感があるのだ。

「なれるかどうかは、やってみるまで分からないよ。それより大事なのは、なりたいかどうかじゃない?」

「……そうですね。なりたい……とは思います。いつか僕が強い自分に変われたら」

つまり、なりたいとは思っていても、実現するとは思っていないという事だろうか。

確かに、英雄なんて大それた肩書きを得る人物になるのは簡単なことではない。

しかし、ラックの自己評価の低さは、それだけに留まらない根深さを感じさせる。

まるで、何をやっても、上手くいかないと思い込んでいるような。

「英雄になれるか、どうかは分からないけど、ラックさんは、きっと強くなれるよ。なんせ、カナちゃんが鍛えるんだし」

「そう……だと良いのですが。カナさんの期待に応えられるか心配ですね」

ここで、ふとカナを見ると、食事を終えて眠くなったのか、胡座をかいたまま、眠りこけていた。

道理で、さっきから反応がない訳だ。

そのまま放っておく訳にもいかないので、今夜はログアウトせずに宿屋で夜を明かすことにする。

せっかく気持ち良く眠っているのに、起こすのは忍びないからだ。

まぁ、多少の下心がないこともないが。

「今日は解散にしよっか。続きは、また明日」

「はい。今日は、ありがとうございました」

それから、カナを背負って街の門まで辿り着いた、みのりんは、ラックと別れて宿屋に向かう。

ラックを成長させるために何が必要か。

それを頭の中に描きながら。

—————————————————————

Name:カナ
Job:拳闘士・商人
Level:10

☆獲得スキル
なし

☆獲得称号

【修羅】【武装放棄】【ステゴロ上等】【要塞】
【野生児】

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品